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虚〔3〕
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月光が差し込む中、ペタペタと壁を伝って 兄が手探りで明かりをつける。
入り口が明るくなったのを確認して、家にあがりながら玄関のドアを閉めた。
「ただいまー………。」
無意識に、すっかりルーチンと化した一言が、
うっすらと開いた唇から力なく零れた。
「 おかえりなさい。」
自分とは対極に、一音一音、温もりを添えながら丁寧に、やわらかく置かれていく言葉に動きを止め、微かに驚きを帯びた顔を兄に向けた。
「 寝るにはまだ早ぇし、2人で飲みなおすか?」
ふっ。と軽く微笑まれた後、いつもより眉尻を下げ、少し困ったような表情(かお)をした兄から提案される。
「…………うん。」
強張っていた肩の力が抜けていくのを感じながら静かに顔を伏せ、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
ああ、やっぱり この人には敵わない。
許されないとわかっていても、
どう足掻いたって 俺は
この人に、
家族に向ける ” 彼(あ)れ ” とは
” 異なる ” 感情を抱いてしまうんだ。
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