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御薬袋日向 No.16
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それでも、しばらく警戒していた日向だったが、弘一はその言葉通り数日後に家を出て行ってしまった。
あまりに簡単に出ていったので、日向も内心拍子抜けしてしまった。
数年前までは面倒見の良い優しい親戚の人だったのに、今ではこんなに日向の心を怯えさせる。
そういえば、弘一とは色んな話をした。
『どうして、自分のお父さんと弘一の名字は違うのか』と聞けば、弘一はニコニコと笑いながら『子供の時に両親が離婚してしまって、それから別れて生活していた。再会できたのは、日向が生まれてからだった』と話してくれた。
『お父さんみたいに結婚はしないのか』と聞けば、またニコニコと笑いながら『昔、好きだった女性がいたけれど、反対されて結婚できなかった。日向みたいに可愛い女性だった』と話してくれた。
そんな話も、今から思えば随分馴れ馴れしい質問だったと思う。
けれど、弘一は笑ってくれていたのだ。だから日向も、あまり気に止めなかった。
日向のそんな態度がいけなかったのだろうか。あの弘一の行動は、一体何だったのかよく分からない。
だが、その行為が日向の心に深い傷を負わせたのは確かだった。
しかし、今は恐怖の対象だった人物が去っていったのだ。
そして千彰という、日向にとっては勿体無いほどの恋人もできた。
これは、何という幸運だろう。
日向は決して千彰の側から離れないと誓った。
そして嫌われないように、弘一のことは絶対に口に出さなかった。
千彰の前に、日向の全てを奪い去っていった男がいるなどと聞けば、千彰だって日向を嫌ってしまうに決まっている。
これは、自分の我儘(わがまま)だ。
千彰に嘘を吐いているようで悪い気がした。そのせいで自分の心も重苦しかった。
(でも……千彰といると、楽しいから……)
幸せだから。
何も言えなかった。
そして、とうとうその日が来てしまった。
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