アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
豊富悠也 No.61
-
「家(うち)にお茶っ葉は無いんだけど、僕も紅茶派かな〜。でも、砂糖は入れないんだ。この店には悪いけど」
「それ、ミルクティーって言いますか?」
「砂糖入れなくても、ミルク入れれば立派なミルクティーだよー」
西雅の言葉に笑いをつられる。
しかし、西雅がお洒落な陶器のカップに淹れられた紅茶を優雅に飲むその様(さま)は、また絵になる。
(何かキラキラしてんだよな、全体的に)
西雅の周りだけ、空気が違う感じなのだ。
まるで、彼だけが周りの世界から切り取られているような………。
悠也は、西雅には何をさせても、全て完璧にこなしてもらえる気がしてきた。
「────東はさ、基本わがままなんだ」
ふと、一瞬の沈黙を突いて、西雅が口を開いた。
悠也も迷わず、おとなしく耳を傾ける。
「あいつ、昔いじめられててね。明るい性格じゃなかった分、もっと暗くなっちゃって。今もそれが続いてるんだ」
「えっ?東、いじめられてたんですか?」
思わず、意外だと思ってしまった。
それが顔に出ていたのか、ふっと笑われた。
「何?いじめっ子のイメージの方があった?」
「いや……、そういうわけじゃないんですけど………」
そもそも、今まで東を見てきて、いじめという単語が思い浮かんだことは無い。
それに、東の過去自体、悠也はほとんど知らないせいで今の東のイメージしかないため、西雅からの言葉には軽い衝撃を受けた。
「僕は東がいじめられているのを、なかなか助けてあげられなかった。学年が違うのもあったし、僕らも特別仲が良かったわけでもなかったから」
(そうだったんだ……)
だから、いつもあんな無表情で心ここにあらず、といったような顔をしているのか。
何となく、納得できた。
無理も無い。クラスメイトからいじめられたら、誰だって暗い性格になりうるだろう。
それを知ったら、少し東に同情できた。
今まで、ちゃんと人の目を見てコミュニケーション取れよ、と思っていた。
けれど、東にもきっとそれなりの理由となる、トラウマのような何かを経験しているのかもしれない。
「あいつも、そんなに仲が良くない人には頼ってこないところがあるから、僕もどこかどうでもいいと思っちゃってたんだろうな…。それがいけなかったんだけどね」
あはは、と苦笑する西雅も綺麗だった。
先程とは違う、眉をひそめて、ほんの少しどこか哀愁漂う感じだ。
「もともと、自分が思っていることを自分から言う奴じゃないし。だけど、相手には解ってもらいたいとは思ってるから、今回みたいに悠也君を困らせちゃったと思うんだ。面倒くさい奴なんだよ、ホント」
「あー」
(解ります!西雅さんの言うこと、めちゃくちゃ解ります!)
悠也が東に関して感じていることを文章にして説明してもらい、特に面倒くさい奴という部分に共感できた。
「ぶっちゃけ、そういう口喧嘩って俺達の間じゃいつも通りなんすよ。東と俺の趣味、ほとんど合わないし…」
「そうなの?」
意見が食い違って、ちょっとした口論なんて日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だ。
その時はだいたい、東の方から折れてくれる事が多いのだが、今回の件は東も意地を張ってきて、いつも通りのはずが大袈裟(おおげさ)になったのだった。
「いつもはすぐ終わるんですけど。何か、昨日は両方とも全然終われなくて……」
そこまでひどくはなかったはずだが、何だかむしゃくしゃした後味の悪い喧嘩だった。
仲直りするタイミングも分からず、勢いだけで終わらせてしまった。
「……やっぱり、謝ってきた方が良かったんですかね?」
どうすれば良かったのか分からず、誤魔化すように乾いた笑いをとりながら、まだ湯気立つ紅茶を啜(すす)る。
砂糖の甘さと濃厚なミルクのコクで、喉越しの良い紅茶にホッと息を吐(つ)いた。
思ったよりもサッパリとした後味に、モヤモヤと曇っていた頭が、少しばかり覚めた気がする。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
175 / 301