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永瀬東 No.1
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「な、永瀬君……!」
放課後。図書室で自習していると、ノートと筆箱を持った一人の女子生徒が話し掛けてきた。
「………何?」
「あ、あの、今日テストが返ってきたじゃない? 永瀬君は何点だったかなぁ〜って……」
「………………」
「あっ、ごめん! 聞いちゃいけなかったよね!」
「45」
「え?」
「俺の点数。45」
質問に答えると、女子生徒は分かりやすく喜んだ。
「あ、そうなんだ! スゴイね、さすが永瀬君!」
「別に……」
大して凄くはない。授業の予習復習していれば、普通に取れる点だ。
「それでね…、永瀬君。私はあんまり点数が良くなくて……。それで、永瀬君に教えてもらえたらいいなぁって……思って……」
「……別にいいけど?」
俺の言葉に女子生徒の顔がパッと輝く。
「あっ、あ、ありがとう!」
そう言いながら俺の隣の席に腰掛ける。
座る瞬間、女子生徒は図書室の出入り口に向かって「OK」と手でマークを作った。
何だと思って出入り口を見ると、そこに数人の女子生徒がこちらを見て騒いでいる。
(………ああ、そういうことか)
とりあえず、俺は女子生徒のノートを覗き込み、話を聞いてやった。
俺は浜島高等学校の二年生、永瀬東(ながせあずま)。俺が通っている浜島高等学校は、部活動が盛んな私立高校だ。
俺は面倒くさいので、どの部活にも入っていないが。
この高校の特徴は部活動の他に二つある。
一つは治安の良さ。不良や不正行為をする生徒が少ない。
もう一つは、寮があること。男子寮と女子寮が駐車場を挟んで建っている。
寮の部屋は一部屋二人ずつ利用していて、広い部屋は三人のところもある。
俺の部屋には、俺の他に一人同学年の『同居人』が居て、結構仲は良い。………向こうもそう思ってくれているかどうかは分からないが。
俺は女子生徒と別れ、寮へと帰った。
『同居人』は俺より早く部屋へ帰宅しているから、俺が寮の部屋で一人ということはない。
いつも通りドアを開けると、やはり鍵は掛かっていなく、玄関にも靴が無造作に転がっていた。
部屋に入ると、二段ベッドの下の階に毛布にくるまった『何か』が寝ていた。
「………………」
(またか…………)
と、俺はため息を吐く。
そういえば、こいつに初めて会った時もこんな感じだったよな……。
一年前。俺は、暗い気分で入学式を終えた。
色々あって、家から逃げるようにこの高校に入ったのだ。
モヤモヤとした気持ちが晴れないまま、渡された指示通りに自分の部屋であろう寮の部屋へ向かう。
扉に手を掛けると、開いていた。
誰かが、もう中にいる? 一緒に住む奴か?
気になってドアを開ける。玄関に靴があり、やはり中に人がいるようだ。
部屋の奥を見ると、まだシーツも敷いていない二段ベッドに寝っ転がっている奴がいた。
(………何やってんだ、コイツ)
呆れてしばらく見ていると、俺が入ってきた物音に気付いてか、そいつは瞬きをしながらゆっくりと起き上がった。
「ん……、誰………?」
誰と言われても。
「ここ、俺の部屋なんだけど」
「………ああ、ここの同居人か…」
(……え、コイツが俺の『同居人』なの?)
寝起きでボサついている茶髪。ショボついている大きな目。
その黒目と自分の目が合った瞬間。
俺の心臓が跳ね上がった。
(……あれ…?)
頭の中にドクドクと響く音。
自然に震えてくる自分の手。
何だよ、これ? どういうこと?
その『同居人』はベッドから降りると、うーんと背伸びをした。
「なあなあ、お前なんて言うの?」
「え…?」
なんて……ああ、名前か。
「永瀬……東………」
自分の名前を言うなんて、久しぶりな気がする。
「ふーん、永瀬。……良い名前なんじゃね?」
そう言って笑うそいつの言葉が、俺の胸にじわりと広がる。
温かく、そして強い衝撃。
「俺は豊富悠也(とよとみゆうや)。これから三年、よろしくな!」
俺の前に差し出される手。
半分、興味本位でその手を握る。
少しだけ熱く、俺より小さい。
(握手とか、生まれて初めてかもな………)
呆然とそんなことを思っていると、顔を覗き込まれた。
「……どうした? 顔、赤いぞ? 調子悪いのか?」
「…いや、大丈夫。何でもないから」
「ホントか? まあ、入学式から体調崩してたらシャレになんねーもんな」
………綺麗な笑顔。
とても輝いていた。
俺ならこんなに笑えない。俺は、この笑顔に憧れた。いや…………違うな。
………惚れたんだ。
あの日から、俺は悠也を意識するようになった。
あれから一年。はっきりした事といえば、やはり悠也への気持ちは恋なんだということだ。
相手が相手なだけに、この想いを伝えれるわけがない。絶対に叶わない恋なのは、目に見えているから。
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