アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10 姫と神獣1
-
フワッとした風が僕を包み込んだ。
花の匂いがする。
(なに?
手に触れるのは水?)
「……………………ここ、どこ?」
僕は手に触れる水を握り締め、感覚に集中する。
風が吹き、花の匂いが一層強くなった。
水は冷たい。
何かが近づいてくる。僕は手を伸ばしてみる。
気付けばたくさんの気配がある。
でも、そのなかの一番大きな気配が近づいてきて
僕の手に触れる。
フワァとした感覚が、
艶々の毛に絡まった。
『…姫よ。よくぞ、御越しになりました。』
黒色のライオンだ。
彼が見ている景色が指を伝ってくる。
椿の木がたくさんあり、その足元には無数
の花が咲いていた。
僕は泉の中にいるらしく、その後ろには滝があった。
椿の木に隠れた動物たちがこっちを見ていた。
『姫よ。貴方様のお名前を伺ってもいいだろうか?』
黒いライオンは僕の汚れた手を舐めた。
ペロペロと手、足、顔、髪と順番に舐められる。
(……あれ?舐められたところ痛くない。さっきまで痛かったはずなのに…どうして?)
疑問は浮かぶばっかりで、頭は混乱している。
「…………ないです。」
黒いライオンが驚いたのがわかった。
あの日から僕は名前を忘れてしまった。
記憶力も曖昧で…。
名はあったが呼ばれなくなって全く思い出せない。
忘れてしまった。
「ライオンさんの名前はなに?」
僕は黒い毛を手ですきながら顔を近づける。
頬に擦り付けた毛はフワフワとしていた。
普通より何倍も大きなライオンは泉の中にいる僕の腰を優しく噛み、首をうまいこと使って自分の背中に乗せた。
ノシノシと歩き、花の上におろした。
『私も持ち合わせておりませぬ。』
黒いライオンは体を寝かし背から僕を包み込むように体を曲げた。
ライオンに体を預けるような姿勢になる。
足に力が入らないから座位は背もたれがないとしんどい。
毛をすきながらしばらく沈黙が続く。
でもここに来てから頭は混乱しているが、怖いとか、そういった感情はなかった。安心するような、落ち着くようなそんな気持ち。
「なら…………僕がつけてもいいかな?」
自然と彼を見ると浮かんでくる名前がある。
必ずこの名前じゃないといけないような。
この感じは不思議で、畏れ恐れ声に出す。
黒いライオンが頷いた。
「……シンヤ。ってどうかな?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 60