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嵌合
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***
「死ねっこのクソ長男っ」
「あんだとっシコ松っ」
「っ!デリカシーって言葉をこれで調べやがれ」
手に取った小学校時代の国語辞典を投げつけてから、(あれ今の誰のだっただろ)と思うもののもう飛んでいっているので
「トッティのであってくれ」
たぶん一番まともに辞書に言葉が載っていそうだと思うからだ。
小声でつぶやく頃、長男の頭にそれはヒットした。僕もコントロールまんざらでもないなと思った。
けど、次の瞬間胸ぐらを掴みあげられる。振り上げてる拳
「…なんだよ殴りたいなら殴れよ」
冷ややかに言い放つと
「てめぇっ…っ…、ち、パチンコ行ってくる」
舌打ちして、苦々しそうな表情を浮かべて、手を離した
いつからか僕たちはふとしたきっかけで喧嘩するようになった。それもほんの一瞬、些細な一言がきっかけになる
沸点は喧嘩する度に低くなっているような気がした
そうなれば、互いに罵りあってしまう。
兄さんはバシッっと襖を叩きつけるように閉めて出ていった
(また、兄さんが出てった)
昔から兄弟の中でもわりとつるんでいることが多かったってのもあるけど、ほかの兄弟より兄さんと僕は圧倒的に喧嘩はしてきていた。息が合うときは嘘みたいに阿吽の呼吸で、お互いのやりたいこともわかったし、楽しくてたまらなかった。
近所の人たちからも僕らが子供の頃、一緒にいると警戒された。僕一人のときは警戒されない。すなわちおそ松が悪いことばかりやっていたわけで、僕が一緒にいるとその悪さが増長するからだ。
確かにそのとおりだったと、二十歳も過ぎて大人となった今は反省している。
そそのかすのが上手いやつなんだ。
でも他の兄弟だと少し違った。例えばカラ松
「やりすぎだ」
の一言が頃合いに入ってしまいおそ松が考える最期まで行くことができない。
一松はといえば、そもそも嫌がる。十四松は…展開が予測できなくておそ松のほうがヒヤヒヤしている。トッティはかなりいい線を行くのだが、あざとい
だから下手するとおそ松の方も被害者になることがある。
故に結局三男の僕がおそ松の想定する最期に最も近いところまで持っていくことができたようだった
そして、そろって同じ高校に進んだ僕ら、悪さも度合いが増していた。授業はさぼるわ、タバコは吸うわ。先輩や他校の生徒との喧嘩も日常茶飯事。よく退学にならなかったもんだと思う
「あ、トッティのだった」
松野家の二階。僕らの部屋
投げつけた国語辞典を拾って、裏を返せば『とどまつ』ひらがなで書かれていた。
まあ、調べやしないから誰の辞書でも一緒だったかな?なんて思いながら本棚に戻した
「そもそも兄さんが悪いんだ…けど」
喧嘩なんてするなんてな。それまでの雰囲気とは全く変わった今の空気
ため息は誰もいない部屋によく響いた
*
「んだよっシコ松のくせに…」
俺は一度は振り上げた拳を握った手を見た
殴れるわけはないのに、つか、それを知ってるから挑発してきたことが悔しい。でも殴れないもんは殴れない
「あー、たくなぁ」
パチンコなんて行く金なんかとっくになかった。俺たちはニートで、ちょこっとイヤミが持ってくる妙な儲け話やデカパンの謎の研究の実験材料になって小遣い稼ぎして、あとはギャンブルの神様頼り
「やってらんね」
赤塚川に架かる橋の欄干に頬杖して盛大なため息をついた。
チョロ松を好きだと言ったのはいつだっただろう
女の子は大好きだった。今も大好きだ。男だし当然だ。
けど、恋愛対象としてはなぜか見れなかった
「おそ松、どの子が好きなんだよ?」
高校時代いつの間にか、兄弟だけではない連中ともつるむようになっていた。商店街はクリスマスに向けて、ちょうど今みたいに飾り付けが始まっていた
学校は授業中だというのにお構い無しで、俺とチョロ松そして数人の仲間で商店街をよくぶらついていた
そんな時に
「は?」
ふいに俺の親友気取りの中島が言ってきた。なにを知った気になってたんだろアイツは?今となっては接点すらなくなった仲間たちの1人だった
俺は
「ち…」
(チョロ松)思って口にしかけた。
初めて自覚した。兄弟としてではなく松野チョロ松が好きであると、恋愛対象として好きだと思ったことに、俺はまさかと思った。
(俺……)
けど中島の質問はクリスマスには彼女が欲しい。そういう話の流れからの俺への質問で
そして、それに対して迷わず浮かんだチョロ松への思いと、とっさに送ったチョロ松への視線
(そうか……俺、チョロ松好きだったんだ。あ~)
少し頭を抱えたくなったけれど、すとんと胸のつかえが取れた気がしていた。
「ち?」
中島の声にハッと我に返り
「ち…ちづるちゃんか、京子ちゃんか…あーっトト子ちゃんかな!やっぱ」
幼馴染で学校のアイドルについているトト子ちゃんの名前を出していた
「あー弱井~あいつメチャかわいいわぁ」
そう、トト子ちゃんはかわいい。めちゃめちゃかわいい。今でも大好きだ
「って、ちげー…」
そう、チョロ松との喧嘩の原因を冷静に考えようと思って家を出てきたんだった。このすぐ脱線する脳みそなんとかしねぇとなぁ
とは思う
そうチョロ松────
なにか思いついたときチョロ松といるといつもうまく行っていた。俺の足りないところをすっと、さも当然のように埋めてくれる。予め用意されていたつがいになるかのようで、六つ子だ。だから六つあるのかと思って来たけど、チョロ松だけが俺のつがいで、俺だけにぴたりと嵌る
それを自覚した。
その日はたまたまうちにチョロ松と俺しかいなくて、今思い出すときっかけがなんだったかも覚えてないけど、ふと隣のチョロ松の唇に自分の唇を重ねていた。
「なっ」
チョロ松が可愛かった。好きだと自覚した自分の気持ちは、そのまま下半身と直結してて、男の、弟のケツにぶち込みたい
そればっか考えてた
高校生なんかそんなもんだろ?今だってそうなんだからさ
チョロ松にキスしたい思って、だからキスしてみれば、チョロ松が目を白黒させた顔は今も忘れない。
そのあと、チョロ松はものすごい勢いで殴りかかってこようとした。その腕を掴んでもう一度今度は本気のキスをした。
ジタバタと暴れるチョロ松を押さえつけたまま。きつく結んだ口元無理やり開かせてチョロ松の舌を絡め取った。暖かくて柔らかくて湿った
(甘い)味がした。
「ん…む、っぅあ」
耳に届く声とシンクロしてチョロ松の体から力が抜けていて、そっと体を離した時に
「チョロ松、好きだ」
伝えた。けど、チョロ松は目に涙をうっすら浮かべていて
その顔がたまらなく綺麗だなぁなんて見惚れていたら、思い切り殴られた
信じられないモノを見るような目で俺を見下してきた
「好きなんだよ。本気なんだよ」
チョロ松への気持ちを、反対の拳を握りしめて狙ってるチョロ松に向けて真っ直ぐにもう一度言うと、二発目は俺の目の前でピタリと止まった。
「気持ちわりぃ」
チョロ松は吐き捨てるように言って出ていってしまってた。
けど、それくらいで引き下がれるような生半可なものじゃなくて、しつこくまとわりついてた。周りの兄弟も友人たちもドン引きだったけど
気になんかならなかった
***
兄さんに初めて告白されたとき、つか、キスされる方が先とかまじないでしょって殴ってた。
気持ち悪い、言ったのは実は兄さんにキスされて気持ちいいと感じてしまった自分自身に対してのもので、僕は男で兄さんと兄弟で。あってはならない感情だと思ったからだ。
兄さんの告白が気持ち悪かったんじゃなかった。
素直になったのはいつだったろう
僕はソファに座った。
「高2か?」
兄さんは、「チョロ松ぅ~好きだよ~愛してる」だの「付き合ってマジお願い」挙句の果てにはところ構わず抱きついてきてはキスしてこようとする有様で
周りのみんなは調子の良いおそ松のいつものおふざけみたいに受け取っていたけど
(目がマジだ…コイツ)
向けてくる目は真剣なときのおそ松兄さんの目で、本気なんだとわかった。そして僕自身が
(ああ、僕もだ)
気持ち悪いと無理やり押し込めた気持ちを認めてしまった。流されたとか情に絆されたとかそういうものじゃない。本当はずっと前から兄さんが好きだった自分自身。奥底の方にずっと眠っていたおそ松という存在への憧れ、思うままに行動して思うままになしとげていく兄さん。なりたいと思っていたし、そうしている兄さんが好きだったこと。
このソファで、初めて兄さんに抱かれた。
「僕も好きだよ」
そう伝えた日のことだった。明日はクリスマス、そんな日で、母さんの買い物の荷物持ちにカラ松と一松はついて行っていて、十四松は野球の試合……の観戦で、トド松は女の子たちとなんかしてたらしいけど、口は割るような奴じゃないから真相はわからなかったけど、とにかく留守だった
兄さんは心から喜んでくれて
「チョロ松……?」
「……兄さん?」
いざ、とはいっても兄さんも僕もセックスなんかしたことないから、二人してカチコチに緊張していた。でもキスをして、裸になって、兄さんが僕のを優しく弄るたびに熱くなって
「ん……ああっ」
「気持ちい……い」
僕のお尻の中に捩じ込まれた兄さんのもの。動く度に段々に妙な気持ちになっていて、いつの間にか夢中になっていた
嘘みたいにぴったりと合ったような感覚がした
ものすごく痛かったけど、それはすごく自然だと思った。気持ちよくて居心地よくて安心できて
一つになる
よく言ったもんだなと思ってた
けど、重ねれば重ねるほどもっとしっくりくるんじゃないか?
ぴたりと合うようでも、僅かなズレと隙間を埋めたくなっていた。身体も心も
*
「のさあ!?わかんだろ!?」
言わなくたって通じ合えてる気になって吐いた言葉
現にいつも欲しいタイミングで欲しいものをくれた
チョロ松はわかってて、でも言わない。なんでだ?
***
「はあ!?わかんねぇよ!てめぇじゃねぇんだ!!」
大体想像ついてても、おそ松兄さんに完璧に答えられる自信が無いから、言えなくて逆ギレした
兄さんが望むものになりたい。素直に言えば済むことも言えないままになる
*
喧嘩なんかしたくないんだっ
***
でも喧嘩する度に、分かるようになってくんだっ
お互いの僅かなズレと隙間、ぶつけ合った衝撃で嵌り合う
気づけば僕は兄さんを追っていて
*
チョロ松に会いたくて家に向かう商店街のアーケード。足早に進めばでっかいモミの木がどんと通りの端に置かれていて
その向こうから、駆けてくるチョロ松が見えてホッとした
通りは夕食準備の買い物客でごった返していたから、木の陰へチョロ松と二人で移動してた
「また、喧嘩になっちゃったな」
「……うん。ごめん兄さん」
「…んにゃ、悪かったごめんな……俺がわがままだったんだよ…」
「いや、僕が譲るべきだったね。はい最後の1こ」
チョロ松が差し出してきたチョコレート。俺はそれを箱から出して咥えるとチョロ松の手をくいっとひっぱった
「え?」
反動で近づくチョロ松にキスをする直前で咥えたチョコを歯で割って
一瞬だけ重ねた
スルッとチョロ松の口に割ったチョコを送り込んで
「最初からこうすりゃ良かった」
我ながらキザかな?なんて思ってチョロ松を見たら
「っ……っ」
わなわなと震えてて
「え?」
「っ……こんなとこでッ」
真っ赤になったチョロ松が拳を握りしめてるのが見え
「あぅっ……」
次の瞬間星が見えた
「なー、チョロ松ぅ機嫌直せよぉ。ごめんてっつい、ついだからさぁっ」
「知るかっばか!」
「チョロ松~」
まだ耳まで真っ赤なチョロ松、不意打ちで面前とまでは行かないけど公衆の場でしたキスに怒り狂う
あまりの可愛さ、そんな背中に抱きついたら
「あとでちゃんとシテよね!」
「あ……はい」
突然のデレに俺のほうが顔から火を吹きそうになった
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