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1.序章―1
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『碧海(あおい)!』
自分の名前を突然に呼ばれ、ふと振り向き辺りを見回す…
いつもの朝、いつもと同じ日常を送っていた。
「今日はやけに寒いな」
思わず口にした言葉
糸を張りつめたような冷えきった空気の中、今日も満員電車に揺られ、通い慣れた学校までの駅のホームだったはず…
呼ばれた声に振り向くとそこには一人の男(ひと)が立っていた。
嬉しそうにはにかみながら、それでも何処か淋しげな笑顔を浮かべている。
その姿を見たときに一瞬だけ彼が暖かい春の木漏れ日の中にいた。
駅のホームに木々など生い茂るはずなどないのに、確かに木漏れ日が射していたのだ。
「!!!」
もう一度目を凝らして見るとやっぱりいつもの駅のホームだった。
今、見えたものは何だったのかと訝しげに呆けていると
「碧海?」
小さい声で呼ばれたその声で我に返り、自分を呼ぶその男を改めて見る。
俺より小柄で俺を見上げる大きな瞳はあどけなく幼さの残る…
髪は今時には珍しい漆黒、少し癖毛のようでふわふわしている。
しかし、よくよく見ても全く見覚えがない。
「……誰?」
「!!」
嬉しそうだった笑顔は驚きに変わり、その驚いた表情も一瞬で消え去った。
代わりに消えてしまいそうなくらいの淋しい微笑を浮かべていた。
「人違いでした…ごめんなさい…」
そう告げると、踵を返して走り去ってしまった。
「は?」
走り去る後ろ姿に呆気に取られて、思わず間の抜けた声が出る。
呼び止める事も出来ずに後ろ姿をただ見送ってしまった。
(おいおい…名前を呼んでおいて人違いはないだろ)
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