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葉山灯架の一日。④
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「灯架、お前ふられたんだって」
「ぶっ」
夜、俺は何故か姉さんに呼ばれた。ビール缶三本を飲んでもう顔が赤い。
俺は姉さんの言葉に飲んでいたココアを思い切り吹き出した。
「うわきったねぇ何出してんだよ」
「いや姉さんが唐突に言うから……」
「灯菜から聞いた」
「あぁ…冷やかし?」
「んなわけねぇだろ、大事な弟がふられた……ふっ、別に笑うわけ」
「いや待ってよ今笑ったよふって、ふって笑ったよ」
口答えすると頭を叩かれた。姉さん意外と馬鹿力だから手加減してほしい。
「灯架、その子まだ好き?」
「……なんで」
「いいから、答えろって」
「…多分、好き。友達に戻れたけど、まだ好きだと思う」
「そっか」
真面目に聞いてきたから真面目に答えたのに返事が素っ気ない。
ビール缶を片手に胡座をかく姉の表情は見えない。
姉さんの後ろにいるから、姉さんの背中しか見えない。
その背中はちょっと大きめだけど、柔らかい線の女性。
俺は、中学の頃からこの背中を見てきた。
「灯架」
「何?」
「その気持ち、ずっと忘れんなよ」
「え………」
「お前にとっての初恋だろ?その気持ちを忘れたらお前はもう終わりだよ」
「………」
「好きだった気持ちを抱えながらこれからも生きな。
辛かったのも、嬉しかったのも、胸の中にしまってさ。
きっと、次は叶うさ」
「……姉さん」
「辛かっただろ。お前はよく頑張った。
胸は貸してやれねぇけど、背中なら貸してやる」
「…………ふっ、ぅう、う」
手に持っていたココアに、涙が零れ水面が揺れる。
自分の泣き顔が揺れて崩れ、手が震えた。
姉さんがかけてくれた言葉、が胸にじわじわと染み込んで温かくしてくれる。
俺が辛い時、悲しい時、必ず先に気づいてくれるのは姉さんだった。
いつも男気が勝って理不尽な事ばかり言うけど、優しい時は優しく声をかけてくれる。
いつだって、姉さんは俺の事を見つけてくれたんだ。
「うっ、ぅ……ひぐっ、ぁ、あぁあっ」
「いつも以上に泣け、泣いて今だけ辛いの投げ出しちまえ。
そんでまた、頑張ればいいんだから」
姉さんの背中に頭を預け、涙をボロボロと零す。
姉さん、ありがとう。
姉さんの背中は小さくて、大きい自慢の姉の背中だった。
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