アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
7
-
ー
「こんにちは」
そうして少し経って、もうすぐ夏休みが来るという頃だった。俺と至は相変わらずのホモだと言われる仲の良さで、毎日を楽しく過ごしていた。
彼女とか、もし至が作ったらー、その時俺はどんな気持ちになるんだろう。どうするんだろう。
前に、至に対して彼女作れよと安直に言った俺だが、今にして俺はその意味をようやく理解した気がする。
彼女ができるということは、俺以外の、…いや、俺より大切なやつができるということ。
俺は、俺じゃない誰かと笑う至を想像して、間違いなく嫌だと思う自分がいる。
けれどこの気持ちの意味が、俺にはその時全く分からなかった。
そんなある日だった。
教室を出ようとした俺をそう言って、誰かが呼び止めた。
振り向くとそこには、俺より背の低い目の大きな生徒が俺を見上げて見つめていた。
「少し、話があって。」
戸惑いながらも、俺はそのままわけもわからずそいつに連れられて、昼休み、人気のない校舎裏へと向かっていた。
それから不意に立ち止まると、そいつは俺に向き直って、真剣な目をして俺を見た。
「僕、藤月くんのことが好きなんです」
唐突に発された言葉に、俺は一瞬で全てを理解して目を開いた。
ー〝トイレの方で告られてたんだって。しかも、男に。〟
「あの、あなたは…藤月くんとすごく仲が良いですよね。幼馴染、なんですよね」
「あ、あぁ…うん」
どうしよう、…頭が回らない。
「あなたは、藤月くんの事が、…好きなんですか?」
ーーどくん
え…………ーーー?
目の前の、彼の真剣な瞳がやけに鮮明に目に映って、夏色に染まった周りの木の葉が、強い風で吹かれて舞った。
………すき?
至を、俺が……?
好き……ー?
「…それは、当たり前だろ。」
「……」
「俺たちは昔からずっと幼馴染で、親友で、嫌いなわけない。それは、当たり前のことだけど」
……違う。多分彼の聞きたい好きは、そうじゃないー。
俺は…ー
「…そうですか。」
「…。」
〝春、忘れ物〟
〝お前って実はすごい純粋だよな。〟
〝今日は遊んでやれねぇよ、悪いけど〟
〝春ーー〟
「…じゃあ、良いんです。わざわざこんなところまで来てくださってありがとうございました。用はそれだけなんで、それじゃ」
「あっ」
ハッとして、それから呼び止める間も無く、俺が顔を上げると、彼の姿はそこには既になかった。
「…。」
間違ったことなんて、言っていない。
…だけど、なんだ、このやるせない気持ちは。
〝僕、藤月くんのことが好きなんです〟
…なんだ、そっか。
そして、俺は思った。
俺は、
あんなこと言えるあいつのことが、多分、…すごく、
羨ましいんだ…ーーー。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 326