アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
26
-
俺の熱は、その後、病院へ行って注射をして、薬を飲んでもなかなか収まらず、いつの間にやらそのまま年を越してしまった。
…ああ、俺の年越しそば……。
「春?あんた起きてきて大丈夫なの?」
階下へ降りると、お雑煮を食べてる弟たちがいた。
「うん、…どうだろ?分かんない」
「分かんないってね…。それにしても、何で急に風邪なんて引いたのよ。外行くときちゃんと厚着しなさいよ。これから受験もあるんだから」
「はいはい」
母さんの言うことに軽く返事をしてから、俺はお茶をコップに注いでゴクゴクと飲んだ。
「あ、そういえば昨日の夜至くんお見舞いに来てくれてたのよ。お礼言っときなさいね」
…ん、そういやそうだった。
コップをシンクに置いて、俺は昨夜のことを頭に思い出していた。
…ずっと寝てたからか何故かあんまり記憶ないけど、多分、看病してくれてた…かな?
冷えピタ、新しいのに変わってたし。
ー〝…大丈夫だから。〟
……。…ん?
そういや俺、なんか至のこと引き留めたりしなかった?あれ、俺って、あの時何した…っ…
ー〝今は、…どこにも行かないで欲しい………至…、……〟
……。
「だーーー!!!!」
いま、思い出した………ッッ!
ー
「はよー」
結局、恥ずかしくて新年明けてから至に一度も顔を合わさないまま、登校日を迎えてしまった…。
お年玉ももらって熱も下がって万々歳なはずなのに、一体何だこの憂鬱気分はうう…っ。
「おはよ」
ーどき
聞き慣れたその声にぱっと勢いよく振り向くと、いつもと同じ無表情な顔をした至が俺を見ていた。
「あ、あぁ…おはよう」
…いかん、恥ずかしさで体がぎくしゃくする。
下を向いて俯いていると、ぽんと肩に手を置かれるのが分かった。
「風邪、治ったんだ。」
見ると、そこにはほっと安堵したような至の表情。
「…あぁ。流石に、もう何日も経ってるし」
そう言うと、そっか、と言って至は笑った。
それから至は他の友達に声をかけられて、まだ靴箱に突っ立つ俺のそばを離れて、教室へと向かっていった。
なんだかなぁ…。
俺は遠ざかる至の笑う横顔を見つめて思った。
結局俺は、至にあの日のことを聞けていない。
俺の前から、忽然と姿を消してしまったあの日のことをー。
至もそのうち話すかなと思ったけど、ラインで軽く触れるかなとかも思ってたけど、
…多分至は話すつもりはないんだろう。
俺が触れない限り、…は。
というか俺も何で、こんな聞けないんだろ。俺が聞けば、至が話さないなんてわけもないのに。
…あとで聞こう。…なんか気になって受験に集中できないし。
至の笑う顔が嫌に目について、俺は何となく、視線を横に逸らすのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 326