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ー夜、俺は家の近くにある公園へと向かった。
昔から馴染みあるブランコにすとんと座ると、俺は少しだけ足を漕いで宙を泳いだ。
誰もいない夜の公園は、怖いどころか俺にとってはすごく安心する場所だった。
…よく、至とも来たっけ……。
こんな時でも相変わらず至のことばかり思い出す自分自身に、俺は少し自嘲気味に笑った。
どんだけ至は、俺にとってでかい存在なんだよ…
俺は今日あったことを思い出してブランコを漕ぐ足を不意に止めた。
思い返せば、馬鹿みたいだ。
馬鹿みたいに、数千円以上する金払って、2時間もかけて至のとこまで行って…、1時間も経たないうちに戻って来て…。
…金の、無駄遣いしただけじゃん。
馬鹿かよ…
俺は、俺の言葉に立ち止まり呆然と突っ立つ至を思い出して、それからふと人の足音に気づいて俺は顔を横に向けた。
すると、そこにいたのは至の弟の湊くんだった。
「え、湊くん…?あれ、こんな遅くに…」
そこまで言って俺は湊君の背負うスポーツバッグを目にして、ああと1人納得した。
こんな時間まで部活か、えらいなぁ。
そういや至も、中学の時空手か何かやってたもんな。
部活してました、と言う湊くんに、俺はそっかと言って軽く笑う。
湊くんはそれから、ブランコに座る俺を見て、その場にしばらく立っていた。
何か言うでも、ブランコに乗るわけでもない湊くんを見て、少し疑問に思うも、俺は特に気にせずスイ〜と再びブランコを軽く漕ぐ。
「湊くん本当に身長高いよな。兄に負けず劣らずって感じで」
あははと笑って言うと、湊くんは特に何も言わず、少しだけ笑った。
「兄ちゃんいなくて寂しくねぇ?」
続けて俺がそう言うと、湊くんはブランコを漕ぐ俺を見る。
「…そうですね。ちょっとは、寂しいです。」
そう言って下を向いた湊くんを横目に見て、俺はザーザーという音を出して、地面に足をつけてブランコの動きを止める。
「…俺も、ちょっと、寂しい。」
小さく呟くようにそう言った俺の声は、静寂な夜の闇にすうっと消えた。
至のいない日常なんて、これまで考えたこともなかった。
ちょっと歩けばすぐ顔を見れたはずなのに、今ではもう、少なくとも歩いて5分程度では至の顔は見れない。
そんな、遠い場所にいる、…彼は。
「何も、…家出てかなくてもいいのにな、兄貴」
目を伏せて、少し笑みを浮かべて言うと、湊くんは何も言わずに俺を見てた。
…何でかな。
この場所が心地いいからか、肌を撫でる風が心地いいからか、そばにいる湊くんが、…あいつの雰囲気に似て、心地いいからか…。
何でかこう、…離れたくないんだ。ーここを。
「…春さん、」
湊くんの声を聴いてると、薄っすらだけど、至の声と似てるなって…思う。
兄弟なんだなって、…つくづく思うー。
「頼り…ないかもしれないけど」
「え?」
その声に顔を上げると、湊くんが部活の鞄を背負って立ったまま、ブランコに座る俺を見ていた。
「……兄貴は…いないけど、…でも、ー俺がいます。」
真剣な目をして言った湊くんの言葉に、俺はそれから目を大きく開いた。
「…び、」
なんていうか、
「びっくりした〜〜っ、湊くん急にカッコいいこと言うから」
…やっぱ、湊くんは、至とあんま似てないかも。
至だったらこんなカッコいいセリフ、言わないだろうし…。そもそも多分言えないだろうし…。
「でも…なんか、元気出たッ」
すくっとブランコからそう言って立ち上がると、え?と言って湊くんはそばに立つ俺を見た。
俺はそんな湊くんを見て笑った。
「湊くんが来てくれてほんと良かった、…なんか、サンキュな。」
俺はぽんぽんと少し上にある湊くんの頭を触る。
お前もたまには、俺に甘えたっていいんだからな、俺はそう言い残すと、公園を後にした。
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