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「水島、おい」
「…」
「ちょっと、話しない?あっち行って」
…俺は何も聞こえない、俺は何も聞いていない…。
「ーおいコラ、聞いてんのかてめえ」
ビク
…こ、怖い…。
「あれ?水島…と、前いた人?どうしたの?」
そこでようやく戻ってきた楓に、俺は途端にぱあっと顔を明るくさせる。
頼む、助けてくれッ、楓…っ!!
「いや、ちょっとコイツと話があってな。悪いけど少しの間コイツ借りてもいいか」
…嫌だ、絶対嫌だッ。死んでもやだ!!
「え?…いや…はあ、まあ。ていうより、休憩時間残り少ないから、講義に遅れない程度で話せよ。じゃ」
……って、ーえ?!
違う!!!楓!嫌だ!まって、俺とこいつの2人きりだけにしないでくれ……っ!!待って!!
そう思って咄嗟に続けて席を立って楓を追おうとした、けど。
「ー逃げんな。」
すかさず腕をぐっとヤツに掴まれて、俺は少しの抵抗もすることもできずに、大人しく彼の後をついて行くのだった…。
……
ー〝なあ!これ、見ろよ。水島っ〟
「……。」
「あのさぁ」
ビク
誰もいない、外にベンチのある場所まで来ると、座らずに立ったまんま、後ろに突っ立つ俺を見て、彼は言った。
……力強い、瞳。
堂々とした、背筋を張った姿勢。
少し乱雑な言葉口調も、そのまんまな気がした。
……覚えてる。人違いなわけ、ない。
一度、俺はあの頃の記憶を消して、自分なりに思い出さないように、都合の良いように嫌なものは全部ごっそり取り除いていた。
だけど、こいつが目の前に現れて、それは叶わなくなった。
封印していた記憶が、鮮明に蘇る。
忘れてたのに。あの頃の自分は、もう、いなくなった。…そう、思ってたのに…。
そう、願ってたのにー。
「…俺と会うの、嫌だった?」
それから少し、そう目を伏せて言った彼の声に、俺は彼を見つめる。
「……」
「…俺も、まさかこんなとこで会うとは…思ってなかった」
「……」
「……ていうか…お前、俺のこと、…覚えてる?」
…覚えてないーー
そう、言えばいい。
そう言えば、ここから先こいつと話すこともなくなる。
知らないふりをして、目を背けば、それはきっと現実になるはず。だけど、だけど、…
「……」
…ああ、どうしよう。
俺は、いま、とてつもなく、…怖いーー。
怖い……ーっ
「…あの時は、悪かったっ!!」
そのまま何も言えずしばらく立ちすくんでいたら、不意にヤツがそう声を出し、頭を下げた。
え……。
俺は顔を上げて、そいつの後頭部を見てただ目を開く。
「お前…あの時聞いてたよな、俺の、言うこと…」
ー〝あんなヤツ、大っ嫌いなんだよ…!!〟
「……。」
「…ごめんっ!ずっと、謝りたくて。あの後ずっと、お前に、謝りたくて…ー」
「…ー」
「悪かった……、この、…通りだ。」
急に、今が現実か、夢か、分からなくなる。
もうずっと、会うことはないと思っていた小学生の頃の顔馴染みに、こんなふうに頭を下げられるなんて、想像したこともなかった。
ー〝水島、…何で無視すんの?〟
「……。」
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