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「合わせて…600……」
「え?」
大学終わりのバイト先、ぼうっとしていた俺は不意にそんなお客さんの声でハッとした。
「…あ、ああ…、…えっと、すみません。…合わせて…」
再び計算し直しながら、俺は思った。
ダメだな、…俺。
…全然気にしてるつもりないのに。
今日のバイトは、ミスばかりしてしまった。
ー
「春、お前何かあった?」
帰り道の駅まで向かう途中、一緒のシフトだった楓が隣を歩きながら尋ねた。
「…え?いや、別にっ!」
俺がそれに笑って答えると、楓はそっか、と言っていつも通りの無表情で、すぐに前を向いた。
それから駅について、俺とは反対側の電車に乗る楓に俺は軽く手を振って、帰りの電車を待った。
自分の降りる駅まで着くと、俺は電車から降りて、徒歩で歩いて家まで帰り、おかえりと父さんに言われて顔を上げた。
「…ああ、うん。ただいま」
母さんの状態、どうだったかな。
「母さん、どうだった?」
俺が問うと、父さんは、ああと言った。
「特に大したことはないよ。少し、額に事故の時の傷跡は残ってたけどな。まあ…それは仕方ないだろ」
「…そっか」
父さんの言葉に、俺は少しだけほっと胸をなでおろして言った。
「兄ちゃんも、見舞い行けば」
すると、ソファに寝転がっていたのだろう白兎が、頭だけソファの上からひょこっと出して、俺に向かって素っ気なくそう言ってすぐ、頭を引っ込めた。
…どうでもいいけど、なんなんだ?あいつは…。
いつも通りの白兎の様子を見て、俺は1人眉を下げて笑った。
至には、母さんが事故に遭ったその日、俺自らその事をラインで全て話していた。
至は最初驚き、それから俺を気遣い、眠れない夜の中をずっと、俺と一緒に起きてくれて、俺の話を聞いてくれた。
母さんも無事だった。
軽い怪我で済んだようだ。
俺はベッドの上に仰向けに寝転がり、額の上に片手を乗せた。
一時はどうなるかと思ったけど、何とか落ち着いたようだ…。
俺は全てが解決したことに安堵し、それからそのまま落ちていく瞼に逆らわず目を閉じると、疲れ切ったようにその後、ぱたりとすぐに意識を落とすのだった…ー。
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