アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
79
-
「何も逃げること、ないんじゃない?」
照りつける太陽の下、彼ーー成瀬という男は言った。
俺は彼を見つめ、はあ…と走り疲れた息をただ静かに吐いた。
「藤月くんと、今でも仲良いんですね。幼馴染っていいなぁ」
「…」
にこっと笑って俺を見つめる彼は、俺には何を考えているのか何も分からなくて。
「昔、俺あなたに言ったでしょう。藤月くんのことが好きだ…って」
ーどくん
ただ…分かったのは、
「変わってません。その気持ち、今でも。」
昔、〝僕〟と言っていた彼が、今では〝俺〟と言うようになっていたということー。
…ただ、それくらいで。
「ー俺、今でもずっと、藤月くんのことが好きなんです」
なんで…
何で俺たちは、
…うまく、いかないんだろう…ーー。
「兄ちゃんおかえりー。つか、まさか至のとこ泊まってたの?」
「…ああ」
俺の声に、白兎は、きも〜と言って、俺の前から去った。
俺は二階へ上がって、自分の部屋へ入るとベッドの上に座って、体操座りをして頭を下に下げた。
考えることが、たくさん…。
たくさん、あるよ。
うまくいかないこと、だらけだよ。
わかんない、分かんない。
何も、わかんねぇよ……。
友達…って、…何だよ。
恋人って、何だよ。
好きって、…何だよ…ッッ。
俺はまた、こんなことを考えてるのか。
俺はまた、もしかして、振り出しに戻ってるのか?
…分かんない。だって、わかんねぇ。
幼馴染とか恋人とか友達とか、…だから、一体何だっつうんだよ…っ!
どうしたら、…俺は、
俺は…、…お前の一番になれる…ー?
至は語らない。
必要最低限なことしか、俺には何も話さない。
それは昔から変わらない。
今も、恋人になった、今でもー。
…だったら、恋人って何だよ、
友達とか幼馴染より上なのが、恋人だって…
そう思ったから…、…俺は、
俺は……ーー
その時不意に、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえて、俺はそれに目を開く。
「…春さん?」
声の主は、湊くん。
「すみません、あの、お祭り…何時に行くとか何も決めてなかったな…て。」
祭り…。
「ああ、そうだったな。…うん、夕方…6時くらいにしよっか…」
12日が、至で、13日が…、湊くん。
俺はそれを頭で復唱しながら、ふ…と口角を上げてふと笑う。
だってやっぱ、おかしいじゃん。
俺、夏祭り、兄と弟と、別々の日に、それぞれ会うんだぜ。
面白いじゃん、…なんか。
変じゃん、なんか。
ふは、…可笑しすぎ。
「春さん」
…ほんと、おかしーよ。
ふざけてる。ふざけてるよ。
俺も、至も、彼も。みんな、皆んな…。
「…何か、あったんですか?」
湊くんの声に、俺は笑みを浮かべたまま言う。
「なんで?別に、何もないよ。」
はは、と笑って言うと、湊くんは、そうですかと扉の向こう側で言った。
そのまましばらくすると、湊くんの足音がだんだんと遠ざかるのが分かって、俺はそれを聞いてから、上げていた口角をゆっくりと下げていった。
視界が、歪んでいく…ー。
悲しみだけが、胸の内を襲うー。
「ふ…、…」
もう、1人で泣くことには、慣れたんだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
84 / 326