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楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていく。
いつかテレビでやっていたけど、楽しい時何故時間がいつもより早く進んでいると感じるのか、と言うと、楽しい時は時計を全く見ないからだ。
それに対して、つまらない時というのは、無意識に何度も時計を確認してしまっていたりする。
時間の進み具合の感じ方が日によって変わったように感じるのは、このせいなんだ…と。
「なんか、いっぱい奢ってもらってサンキュな」
辺りがすっかり暗くなって、俺たちはベンチに座りながらもうじき上がる花火を待ち、空を見上げてた。
「いいよ、別に。安いし」
隣で、無表情に素っ気なく言う至の言葉に、俺は少しだけ笑った。
「確かに。」
「それより花火、何発だっけ?」
「ん、どうだっけ」
「ここの花火、少ないよな…確か」
至の声をそばで聞きながら、俺は心地よい夏の夜風に頬を撫でられ、自然と唇の端を上げ、弧を描いた。
至と2人きりの、夏祭り。
昔はいつも2人で行ってたのに、いつの間にか俺と至と、俺の友達、至の友達とで…、大人数になってしまってた夏祭り。
……やっと、2人でまた、来れた。
隣で空を見上げて座る至の横顔を見つめると、俺は笑みを浮かべた。
こうしてると、高校生の時を思い出すな。
中学の時とか、まだ、至が、ここを離れてない時みたいに。
まだ、至が…一人暮らしをしていない時…みたいに。
「……」
花火が終わって、祭りが終わって、俺の家まで歩いたら、至は、向こうへ帰ってしまう。
この土地から、姿を消してしまうー。
するとその時、パンッパンッという音と共に、空にいくつかの花火が打ち上がった。
俺はそれを見つめ、それから隣にいた至と同じように、顔を上に向けて静かに何も言わずに見つめたー。
周りは花火を見て立ち止まり、携帯でカメラを撮る人や、花火を見て指をさして話す人、また、打ち上がる花火には目もくれず、友人と談笑する人たちもいた。
俺は空を見上げ、花火を見つめながら、瞳を無意識に潤ませた。
悲しい、…からじゃない。
ちょっと、夏の夜風が強くなってきて、それで、見上げる俺の瞳を、躊躇なく攻撃してきて、乾いてきて、だから。
俺はその内、たった数分間の花火が終わったことを知り、火薬の浮かぶ、真っ暗な空を見つめた。
これって、地球の環境的にはどうなんかなぁ…。
ぼうっと見つめながら俺はそんなテキトーなことを思って、すうと息を吐く。
「じゃ…帰るか。」
すると少しして隣でふと、そう言って立ち上がる至の言葉を聞いて、俺はああと、頷いた。
2人で、俺の家まで歩いていく間、俺たちは何故か無言だった。
故意的にって…、わけじゃないと思う。
話したい話題が、特にないわけでもなかったと思う。
ただ、花火を見て、俺たちは少し…影響されたのかもしれない。
さっきまで、ワイワイと笑い合っていたのに、花火を見て、俺たちはふと、冷静になったのかもしれないー。
花火が終わった静けさに、俺たちは多分、気づいてしまったから…ー。
曲がり角を曲がって、俺たちは俺の家が見えるところまで来た。
隣を歩く至は、俺と同じく無言で、いつもと同じ無表情で、前を見ながらいつも通り、歩いてた。
俺も同じように歩いて、俺の家まで、俺たちはゆっくりと、時間をかけて…歩いた。
家の前まで着くと、俺たちはほぼ同時に、歩いていた足を止めた。
「…じゃあ…また。」
振り向いて、至の方を見て言うと、至は俺と同じように少し下を向いていて、俺の言葉に、ああ…とだけ言った。
それから目の前を去っていく至を見て、俺は自分の中の何かが溢れ出そうになるのを急に感じて、それを慌ててぐっと堪えた。
…バイバイ、
バイバイ、……至。
俺は至の後ろ姿を見つめながら、…夏の夜、心の中で静かにそう、呟いたー。
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