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翌朝、翔はすっかり元気になって、俺のベッドから出ると俺に土下座する勢いで謝ってきた。
「ーごめん!ほんとッ!めちゃくちゃ、迷惑かけたみたいで…!」
自分の部屋の床で布団を敷いて寝ていた俺は、翔の声で体を起こし、そして寝起きのまだぼうっとした頭で目の前で座って手を合わせる翔を見た。
「あー…別にいいよ。お前病人だったし、助けないわけにもいかなかったしな…」
そう言ってふあ…と欠伸をすると、翔は冷えピタを貼ったまま、俺を見ていつものように笑った。
下へ降りると、翔は誰もいないリビングを見てか、ここの家の人たちは?と言った。
「ああ。今日は月曜だし、平日だから皆んな会社とか、学校で出てる。」
だからいないよ、そう言いながらキッチンへ入ると、翔はへえ…と言いながら俺の横にやってくる。
…。…何故ついてくる。
「あの、これから俺テキトーにご飯作るから、お前はテキトーに座ってて。」
隣に立つ翔をじっと見つめて言うと、翔はえっと声を出す。
「お、お前、…ご飯作れるのかっ!?」
オーバーリアクションと言ってもいいほどに驚いたようなショックを受けたような顔をする翔に、俺は少々ムカッとしながら翔を見る。
「なんだその反応は」
キッとそう言って睨むように翔を見ると、えっと言って翔は戸惑う。
「いや、単に、すげぇなと思って…」
ぱたぱたと手を左右に振って言う翔を見て、俺はじーと翔を観察する。
「…な、なに」
変な怖い人らに堂々としてたかと思えば、普段は至って普通だし、俺に対してかっこいいこと言ったかと思えば、今みたいに子どもっぽいところも見せてくる。
…翔って、掴めない。
どれが本当の、…というよりは、どれも翔なんだろうな、と俺は思う。
「いや、いいから座ってて」
俺は包丁を握ってトマトをスライスした。
テキトーにトーストを焼いてサラダを作って昨日の残りの味噌汁を出すと、翔と俺は席について朝食をとった。
翔は俺の前に座って、手を合わせ、いただきます。と言って、それからパクパクとご飯を食べていた。
…よく食べるなぁ。それを見つめながら思い、俺は味噌汁を飲む。
まあ、よく考えたらこいつは夜も食べてなかったからな…。
そうしてふと時計を見ると、講義に間に合うギリギリの電車に乗る時間が近づいていた。
「翔、ご飯食べたら流しに置いといて。俺もう行かなきゃ」
ガタ、と席を立って一足先に流しへ食器を運ぶと翔はそれを目で追って見つめていた。
服を着て鞄をかけて俺が二階から降りると、翔が玄関先に立っていた。
「ー俺も出るよ。ずっとここにいても迷惑だろうし」
翔はそう言って、俺の家の扉を開けた。
俺と翔は駅まで一緒に歩いた。翔は歩いて少ししてから俺に言った。
「なんか、…ごめんな。俺、お前に色々…使えとかって言ったのに、全然そんなふうになれてなくて」
寧ろ迷惑かけてるし…と、続けて言う翔に、俺は笑った。
「仕方ねーよ。だから言っただろ、お前は病人だったんだから、そんなの仕方ないって」
笑みを浮かべて横にいる翔を見つめたら、翔は俺からフイと顔を少しだけ逸らすようにした。
そして、
「……ありがとう」
ぼそりと、小さく聞こえたその声に俺は目を開いた。
翔を見ると、翔は向こう側を向いていて、俺はそれを黙って見つめた。
……不意に大人びた顔見せたり、無邪気な顔見せて笑ったり、突然風邪でぶっ倒れたり、突然謝ってきたり、急に、お礼言ってきたり…。
冗談めいた風でもない翔の様子に、俺は前を向いて、ああ、とだけ返事をした。
俺は多分、翔の、あの頃の顔しか知らない。
俺に笑って声をかけてくれた、あの時の、あの笑顔しか…ー。
本当に、翔が思っていたことは何だったろう?
本当は、あの時、翔は何を見つめていたんだろう…ー
俺はそんなことを、根拠もなく…その時そう思うのだった。
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