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翌日、学校へ行くと、同じ講義を取っていたらしい翔が、講義室に入る俺を見つけて駆け寄ってきた。
俺の前に立つ翔を見ると、翔の顔色はいつも通りいいみたいで、俺はそれに少し笑う。
翔は俺を見て、あとで…ちょっといいか?と言った。
俺はお昼休み、翔に来て、と言われていた人通りの少ない場所まで行くと、既にその場に立っていた翔を見つける。
「翔」
声をかけると、翔は俺の方を向いて手を上げた。
「なんだよ、こんなとこ呼んで。わざわざ」
俺たち以外全く人のいない廊下をきょろきょろと見渡すと、翔は、一応さ…と言った。
一応?
それに、そう尋ねようとしたら、ふと翔が俺の前に何かを差し出した。
…茶色の封筒……?
「これ、何?」
俺が聞くと、翔は笑って言った。
「一昨日とか、昨日、お前に色々世話になったし、タクシー代とか、お前払ったんだろ?」
え?
翔の言葉に、俺はゆっくりと目を開いた。
「タクシー代とお前に迷惑かけた分と看病してくれ分。それから朝飯も作ってもらって、ベッドでも寝かせてもらったから…」
「…」
「少ないけどさぁ。あっあとありがとうの気持ちも込めてっ!はは、ほんとに昨日はありがとうな!」
笑いながら俺にそれを渡してくる翔に、俺は自分の中の何かが急激にストンと落胆するのを感じたー。
……ずっと、おかしいと思ってた。
だけど、あえて触れなかった。俺が色々言うことじゃないって思った。でも、これがおかしいって、…その事に、何でお前は気づかない…ー?
何で、気づけない…?それとも、誰もそれを、教えてくれないのか…ー?
俺は目の前に立つ翔を顔を上げて見つめた。
「俺が、…金貰って喜ぶとでも思ったのか?」
「え?それは、」
「…俺が金貰う為に、お前のことを看病したとでも思ってるのか」
俺の前で、俺の言葉に戸惑う翔を見て、俺は自分がイライラとしてきているのが分かった。
…だめだ、抑えろ自分。
「…え…どういう意味?ーあ、もしかしてこんだけじゃ足りなかったとか?じゃあ今度またどっか食べに行くか〜?今度は俺もちゃんと倒れずに食べるし、もちろん、奢るしさっ!」
「〜だから」
「ああ、そうだ。今度はカツ丼屋に行くか…!お前はああいうとこのがいいかと思ってあそこにしたけど、丼ものが好きなんだよな。じゃあ今日にでもいこーぜ!いくらでも食わせてやるからさ〜っ!」
…ああもう……っ…
ーーだめだ……ッッ!!
堪らずパシンッと我慢できずに翔の右頬を平手で叩くと、翔は少し横を向いて、そうして目を開いてゆっくりと…俺の方を向いた。
「…なに……すんだよ」
翔のそんな声に、俺はビクリと体を震わせた。
ー〝あんな奴、大っ嫌いなんだよ……!!〟
蘇る記憶に、俺はぶんぶんと頭を振って消す。
…ちがう。
そうじゃない。もう、あの頃じゃない…。
今、俺は改めて、大人になった翔の前に…立ってる。
俺は、…俺が、こいつに言わなきゃ。こいつは多分、ずっと、気づけない。
ぐっと下ろした手のひらを拳を作って握ると、俺はこちらを見つめる翔を見返して、口を開く。
「…お前の考え方は、おかしい。翔」
すると、翔は目を開いたまま、俺を見つめていた。
「友達なのに、風邪引いて面倒看てもらったら、金を払うのか?一緒に遊んだら、お前はそのお礼に金を払うのか…?」
唇を噛んで、俺は翔を見つめる。
何でだろう。俺は今、とてつもなく、悔しい。
悔しいんだ…。
「おかしいよ、お前…っ。あの時も、絡まれた時もっ、平気であんな大金ぶちまけて…!」
友達って…そう何度も言ったのに、どうしてこんな真似できるんだよ、こいつはッ!!
「…だって…お前を守ろうと思って…」
「他にもあった!!そのまま走って逃げることだってできた…!なのにお前は、平気なフリして立ち向かってっ!」
俺の言葉に、翔は眉を寄せて口を開いた。
「っ、ーっざけんなよお前…!フリじゃねぇよ!平気に決まってんだろうあんな奴ら…!あんな金大したことねぇよ!」
ビク
「俺がお前に…何したって言うんだよ!俺はお前の為にあんなことしたんじゃねぇか…!!お前を助ける為に、全部お前の為に!」
……違う。…ちがう。
翔、お前は…
「…お前は、歯向かってくる奴らに、思い知らせたかっただけだよ…」
翔は俺を見て、口を開けたまま黙った。
「俺はお前らより強い…って、自分はそれ以上の力を持ってる、お前らより上だって。それを思い知らせて…ただ、気持ちよくなってただけだよ、お前は」
あの時のー、にこりと楽しそうに笑う翔を思い浮かべて、俺は瞳を下に向けた。
翔は、それによって呆然とする男たちを見て、確かに楽しんでた。
翔は多分、…そうすることによって、自分の存在価値を、存在意義を、…確かめていたんだ。
翔にとって多分、お金はもちろん別物で、だけどそれと同時にお金はイコール自分。
翔は、今までずっと、何を思って、何を、その目で見ていたんだろう。
「お金で釣らなくたって…俺はお前から逃げたりしねぇよ」
翔の瞳をじっと見つめて言うと、翔は俺を見てゆっくりと小さく目を開く。
「俺はお前の為に、看病したんだ、翔」
「……。」
……分かって、…分かって…翔。
「間違えんな…。お金の為じゃないー」
誰もいない廊下に、俺の声は少しだけ響いた。
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