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君の悲しみを隠さないでside旭秀治
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もうすぐで授業が始まるといったところで、教室のドアが外側から開かれた。てっきり先生が来たと思って慌てて前を向いたが、違った。
教室が静まり返る。突然静寂に反響する空気に耳が痛くなりそうだった。皆が目を向けている方へつられると、二人の上級生が入口をふさいでいた。
ただ事ではない雰囲気に息が詰まる。きっと黙りこんでいる皆も僕と一緒の気持ちだろう。
上級生の一人が室内をなめまわすように睨みつける。視線が僕を通り過ぎたとき声をあげそうになったけれど、吉岡君に手で制されて反射的に唾を飲み込んだ。
「吉岡って奴どこだ」
このクラスに吉岡は一人しかいない。僕の、大事な友達の名前を出されて本人以上に怯えた。なんで吉岡君があんな怖い人たちに呼び出されるの?
立ちあがろうとする吉岡君の服の裾を掴む。困ったように見つめられた。
「よっ吉岡君………」
続く言葉はない。声帯が震えて声にならなかった。けれど彼はすべて分かってくれたように悪戯げな笑みを浮かべた。
「旭、大丈夫。ちょっと話してくるだけだから。すぐ戻ってくる」
そんなにやさしい声で言わないで。そっと指を外すと吉岡君はまっすぐ彼らと一緒に出て行った。
彼が危ない目に会うのはわかってるのに、なんでぼくは引き留められなかったんだろう?ちょっとで済む雰囲気じゃないって察していたのに。
弱い自分に涙腺が緩んだ。あんな怖い人たちに立ち向かっていく勇気なんて、僕にはないんだ。最低だ。友達を見捨てるような真似するなんて。僕は最低だ。
離した指先が、急激に冷えていった。
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