アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
君の悲しみを隠さないでside旭秀治
-
吉岡君は1時間目が始まっても戻ってこなかった。
ほらちょっとじゃないじゃないか。授業の内容なんて頭に入ってこない。
僕の脳内はどうやってこのクラスを抜け出すかで埋まっていた。
腹痛でも訴えれば抜け出せるだろうか。今までそんなことしていなかったので戸惑いに引き留められる。
抜け出してどうするかなんて考えていない。じっとなんてしていられないだけなんだ。
吉岡君はどうなったんだろう。
ひどい目にあってなかったらいいんだけれど。なんて希望的観測に吐き気を覚える。
まるで他人事みたいだ。見捨てたのは僕じゃないか。彼を見捨てたのは紛れもない旭秀治なんだ。
大事な吉岡君を、見捨てた僕なんて。
深い悲しみに囚われかけた瞬間、ガラリと乾いた音が響いた。また授業とはまた違った静寂が訪れる。
入ってきたのは吉岡君だった。俯いているのでどんな表情をしているのか見えない。吉岡君は先生の躊躇した声を無視してこちらに歩み寄ってくる。
「吉岡君」
蚊の鳴くような音量で囁いてみる。吉岡君はこっちを見ない。
乱暴な手つきで鞄に荷物を詰め始める。その動作はあまりにも荒々しかった。結局こちらをチラリとも気にかけることなくまた出て行ってしまった。
突然教室を出て行った吉岡君に、先生は慌てたように後を追う。でもきっと追いつけない。
奇怪な彼の行動にざわめくクラスメイト達の視線が集まった。無意識のうちに椅子から立ちあがっていた。
「吉岡君!」
今度はしっかりとした声を出して彼の名を呼ぶ。そして僕も吉岡君を追って教室を飛び出した。
数十分前に味わった後悔を打ち消しに。
もう言い訳にして逃げたくない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
71 / 84