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君の悲しみを隠さないでside旭秀治
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「吉岡君」
小さく名前を呼んでみる。吉岡君の肩が静かに揺れた。けれど彼は泣きそうな眼をしている。
「吉岡君、大丈夫だよ」
吉岡君と同じ目線にしゃがみ込み、精一杯微笑んであげる。ぎこちない飾りみたいな笑顔になった。僕もなんだか泣きそうだった。
何が大丈夫なのか僕にもわからない。でもそういってあげたかった。
大丈夫という言葉はどんな時にでもつかえて都合がいい言葉だと思う。
それと同時にとても優しい印象を持っていると。だからこそ僕は言ってあげたい。
僕にできることなんて、彼の話を聞くことだけなんだから。
「吉岡君大丈夫。何があったの?」
「俺、旭に貰った、キーホルダー………」
たどたどしい吉岡君の吐息に、ひとつ頷く。
「うん」
「大事にできなかった、ごめん」
「うん」
「旭に心配かけたし、貰ったもの汚しちゃったし、俺なんだか悔しくて、泣きそうで、情けないところ見せたくなくて逃げたのに、また心配させた、本当に」
吉岡君が言い終わる前に彼の手を握りこむ。出来る限り力強く。ひ弱い僕の力なんて大したことないかもしれないけれどそれでも吉岡君は弱く握り返してくれた。
吉岡君の体温が伝わってくる。温かい。
ゆっくり顔をあげた吉岡君に、今度は僕が言う番だ。
「大丈夫。また買ったらいいよ。今度は一緒に買いに行こうね?だからもう泣かないで」
なくなったものは買えばいい。吉岡君の涙がとまるなら、どんなものでも買いに行くよ。
僕のためにこんなに悩んで苦しんでくれる人がいるなんて。こんなに幸せなんだ。
それが吉岡君だったことが何よりもうれしい。
「………うん」
かすれた声を吐息に混ぜて吐きだした吉岡君は、弱弱しく笑った。
今まで見たきたどんな笑顔より綺麗だと思った。
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