アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ころころ。side吉岡尋海
-
背中を丸めて落ちていた消しゴムを摘みあげる。黒い消しカスがところどころに付着している。シャーペンで間違って書いた字を消した証であり、旭が一生懸命勉強している証拠でもある。
掌にちょこんとのった消しゴムを見つめ、ぎゅっと軽く握りしめる。
これが一番勇気が必要だった。俺から旭に触れるなんて恐れ多いし緊張する。
触れたいとはずっと思ってるけど、いざその場面に直面すると動かなくなるのだ。
望んでいるのに行動に移せない。何もかも理性が邪魔をする。
若干震える指先で旭の肩をつつく。びくっと大げさなほどとび跳ねた。
ああごめん。すげえ集中していたのにその糸を俺が切ってしまったことにとてつもない罪悪感を覚える。
でもこれはおれだけじゃなくて旭のためでもあるから、
強引に自分を納得させて消しゴムを差しだした。
「これ………」
「あっりがとう………」
旭は戸惑いながらもお礼を言ってくれた。
あー滅茶苦茶緊張した…。死ぬかと思った…。
でもおれは生きて成し遂げた。
自分に感動していると、整った爪が俺の掌にそっと触れた。震えだしそうになる全身をこらえるのに苦労する。
がちがちに固まった顔面の筋肉をほぐしながら素早く前を向く。
これ以上みていると心臓が破裂してしまいそうだ。
会話とは言えないやり取りだったけど、おれにとっての幸せに当てはめるのには充分だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 84