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ステップアップside旭秀治
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「なあ」
ぺらりと一ページめくったところで、声をかけられた。完全な不意打ちだった。予想もしていなかったし、あり得ないだなんて笑い飛ばしていた出来事が現実となって飛ばされても、即座に理解なんてできるはずがない。
休み時間の教室は慌ただしいと言っていいほど混沌に充ち溢れている。机と机の間を縫って追いかけっこをする男子、一つの席に集まってお喋りに集中する女子。
どちらにも当てはまらないのは僕か数人の生徒、それと今話しかけてきた吉岡君だけだ。
ああ、また手汗がひどくなってきた。
本を汚したくないから閉じた。緊張すると手に汗がにじむのは昔からだ。
というか急に吉岡君に話しかけられたんですけど。しぬ?ついに僕の命日再来?もう少し生きたかった。
遺言を考えていると、吉岡君は口を再び開いた。
「何の本読んでんの?」
「………へ?」
思わずアホみたいな声が出た。
今何て言ったの?いやちゃんと聞きとれたけど。訊かれた質問の意図がつかめないよ。
新しいジョークかな?吉岡君を見てみるけど、彼はいたって真面目な顔つきでこちらを見据えていた。うっ目つき鋭い。怖いよぉ。
でも一応訊かれたことはちゃんと答えないとね。
いたいぐらいに弾ける動悸を抑え、「夏目漱石」と言う。今日は純文学の気分だったのだ。
夏目漱石は案外好きだったりする。昔の人が書いた本は、現代文では味わえない深みがあるから集中したいときとかに読んでいた。気分的な問題だ。
そこまで説明すると余計な部分まで話さないといけないし、興味があるとも思えないので端的な答えだけでとどめておく。
吉岡君の反応を恐る恐る見守った。
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