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【嬉しいの反対は】*遥燈視点
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それから2週間たったある日。
それは突然だった。
「姉貴ー起きてー!もう11時だぞ!」
「うう、早い……眩しい……」
「早くないわ!」
全く、いつまで寝てるのやら。
はぁ、とため息をついて、姉貴の耳元で……
「あああああああ!!!!!!!」
「うわぁ!びっくりしたぁっ!」
「やっと起きたー。ほい、ご飯。パン買ってきたよ。」
「ありが……え?」
「えって何さ。優しいでしょ、俺。」
「いや、うん。それは知ってるけど……目、見えるようになったの?」
ん?
あ。
「……み、見えてる!見えてるよ姉貴!」
「先生、先生呼んでこなくちゃ!」
どどどどどうしよう、なんで急に?というか気づいてなかったのか、俺!
馬鹿だな!
慌てていると、寝巻きのまま飛び出した姉貴が先生を連れてきて戻ってきた。
「先生、ほら、ほら!」
「お、あ、本当に……!こんなに早くですか!今すぐ検査しましょう!」
え、先生暇だったの?
なんか連行される感じで連れていかれた。
ちょっと待って。まだ感知したわけじゃないのに!精神が!
*
「この紙に、なに書いてあるかわかる?」
「アンパ⚫マン」
「これは?」
「ご、ごがつあめ?」
「五月雨(さみだれ)よ、馬鹿、恥ずかしいわ」
「わ、悪かったな、国語力無くて………」
テストでも何回か見かけてことのある五月雨。その度にごがつあめと書いてきた俺に国語力を求めないでください。
「……本当に見えてるようですね。……こんなに早く……素晴らしいです。」
「良かったわね、遥燈」
「ただですね……。今の遥燈くんの心の状態は危ない。」
え?良好ですよ?
「何でですか?前の明るさをとっくに取り戻してますし、元気じゃないですか。」
「それなんですが…。今の遥燈くんはいいんですが、心の裏の遥燈くんの気持ちを無理矢理にでも抑えてる感じにみられます。精神の専門ではないので分かりませんが……。」
専門じゃないんかい。
それにしても……今の俺が、心の裏の俺の気持ちを抑えてるってどういう事だ?
無意識に、消そうとしてるということ?
「とりあえず、まだ体の傷が癒えてないので入院はして頂きます。そうですね、この傷の様子からしても、あと1週間程度だと思います。」
「そうですか。」
「あとは、担当の精神科の先生と相談してください。でも、どうしていきなり見えるようになったんでしょうか……」
「特にしたことは無いんですけどね……あ、でも、目が見えることで嫌なこともあるけど、見えないことで、姉貴の顔とか、二度と見れないのは嫌だなって感じて……。それを毎日10分ほど思ってました!」
「は、はぁ。計画的ですね。まぁ、見えてよかったです。個人さによって、そう思っても、中々戻らなくて余計に悪化する時がありますから。
もう、病室に戻って大丈夫ですよ。安静にしててくださいね。」
「はい、ありがとうございました。」
そう言ってその場をあとにした。
*
部屋で本を読んでると、こんこんと音がした。いつもは声をかけてくれる姉貴はかえってしまったから、
どうぞと声をかけると、精神科医の伊藤さんがやって来た。
「具合はどうですか?」
「はい、元気です。」
「目が見えるようになったと聞きました。おめでとうございます」
「ありがとうございます。」
伊藤先生は堅苦しすぎて、ちょっと苦手だ。
「で、本題ですが。
浜崎先生から聞きました。心の裏の気持ちを抑えてるようだと。別の専門家医ですら分かるんですから、心はズタボロでしょう。」
浜崎先生は、さっきの目について担当してくれた先生だ。
心がズタボロかどうかなんて分かんない。
無意識に消そうとしてるんじゃないかとは考えたけど、本当のところ、裏と表がよくわからない。
今まではどうにかして過ごしてきた。時間が解決してくれると、放り投げてきた。実際、前の学校でのことでも、時間でどうにかなった。人格が変わったようだと言われるけど、このままで生きてこれた。
何も苦しいことは無い。
何も無い。
「痛みとか感じませんし、大丈夫だと思いますよ。」
「…なるほど、痛みに疎いのか……。今まで体験してきたものがあまりに強大で心の痛みにすら気づかなくなるほど、ですか。」
どういう意味だ?
「あなたは、身体のダメージも大きいですが、心のダメージが大きすぎる。今のあなたは無意識に心の穴を埋めているんです。そして、それと同時に裏のあなたを埋めようとしている。」
「……裏の俺ってなんですか。……今までは、裏とか、表とか、何となく理解して来れた。でも、今はそれが分かりません。」
「裏って言っても、裏表がある人とか、そういう裏じゃありません。私がいう裏は心の中のもう1人の自分、という裏です。二重人格という訳ではありませんが、それに近いかも知れませんね……」
……わ、わからない。
深すぎてわからない。
「あの、ちょっとよく分かりません……。」
「まぁ、そうでしょう。後々わかると思いますが、殺さないでくださいね。裏のあなたも、あなた自身。一心同体とでも思っておいてください。」
「…わかりました。」
立ち上がった伊藤さんは、病室のドアの前まで歩くと、振り返って言った。
「負の感情は人間にあって当たり前のもの。その感情が無くなれば、人形同然ですよ。だからといって造るものではありませんが。……またきます」
そう言って扉を閉めた。
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