アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
非王道と王道
-
少し肌寒い風が吹きすさぶ、秋の季節。
そんな半端な時期に、俺はある男子校に転校する事になった。
……転校生って何かと注目されるから嫌だ。
前まで通っていた高校では目立たないように過ごしてきたから(根暗ではない)、苦手な会話をする機会はあまり無かった。
他人に心を許してどっぷりと関わり合うのは苦手だ…。
だから交流は、狭く深くでいい。
人は飽きやすいから、新しく通う高校でも普段通りに過ごしていれば、いずれ俺の存在は空気化するだろう。
……環境が少し変わるだけで、他は何も変わらねぇんだから。
今後の過ごし方を考えてる内に、転校先の校門に立ってから数分経過してしまった。
この時間だし、授業はもう始まってるだろうな。まぁ、別にいいか。
……俺が今日から通う新しい男子校は、全寮制らしい。
ちなみにその事を聞かされたのは、なんと昨日。
俺涙目ですよ。
急いで荷物つめたんだけど途中で少年漫画を読み始めてしまった。大幅なタイムロス。
漫画内のキャラクターが、悩んだり苦しそうな表情を浮かべているのを見ると、なんだかゾクゾクす……ゴホン。
ある人にその事を話したら、ドSと言われた。どう考えてもあんたのほうがドSだろ。
ちなみにその人、髪の色が派手な銀の短髪。
約190cmの高身長で引き締まった筋肉を持ち合わせたその肉体は、俺の憧れの的。
だけど性格は少し気難しい…短気だし。
俺が心から信頼している、数少ない人間の中の一人だ。
さっきその人が、俺を高校までバイクのケツに乗せて送ってくれた。
そういえば、その人がバイクを運転している間「掘られるんじゃねぇぞ 」って言っていた。
全く意味が分からなかったから、
「掘られる?何を?」と言葉を返したらギロッと睨まれた。
……怖いお。
じゃなくて、めちゃくちゃ怖かった。
頬に朱を滲ませるくらい、怒りに燃えた険しい顔をしていたからな。
思わずその反応にビクッとしてしまい、その人の胴に回していた腕を引っ込める。
が、「落ちるからしっかり掴まれ」と言われたからそっと腕を回し直した。
「何で怒ってるんですか?血管ブチ切れちゃいますよ」
「……怒ってねぇ」
怒っていないなら、バイクのスピードを上げないでください。
苦手なサツにしょっぴかれますよ?
「嘘つかないでください。ほら、怒ってる証拠にあんたの頬が赤…」
「黙れ、見るな」
「…さーせん」
バイクの煩いエンジン音が、沈黙の間を埋める。…何なんだ、この重い空気は?
何か話さねぇと……こんな空気、俺は耐えられませんよ。
「…えっと。あ、それで”掘られるな”って結局どういう意味なんですか?」
「もう聞くな」
「だめです、言ってください。…というか、本当に何で怒ってるんですか?」
「怒ってねぇ。……照れてるだけだ」
「何それ可愛い」
強面で一見怖そうな男が、頬を少し赤らめて「……照れてるだけだ」ってボソッと呟く破壊力。
これがツンデレってやつか。
あ、可愛いと言われてさらに頬を赤くして…。
「……っざけんじゃねぇよ。てめぇナメめてんのかぁあ"?」
やべ、キレてる。すみません、調子乗って冗談言い過ぎました。
……あ。運悪く、信号が赤だ。
バイクが止まり、ケツに乗る俺を眼光鋭く睨みつけてくる強面の男。
と、とりあえず謝ろう。
おずおずと少し頭を下げつつ、チラッとその人の目を見つめた。
「ゴメン?」
「……っ」
エッ、何で更に頬を赤くするんですか…!?
素直に謝罪したのに、何故かまた怒っているみたいだ。
「……やめろ、それ」
「え?」
「上目遣い。誘ってんのか」
……”上目遣い”?
可愛い女の子が涙目でやったらイチコロの技のことか。
あ、すみません。
俺みたいな野郎が上目遣いをしたらキモいだけだもんな。
だからきっと”ケンカを誘ってるのか”って聞いてきたんだろう。
汚いもん晒してしまい本当にすみませ「キモくねぇよ」……え?
「だからキモくねぇよ」
「えっ、もしかしてあんた、エスパー…!?」
「お前の口から独り言がダダ漏れだ」
「……あ、まじすか?」
何それ恥ずかしい。今度から気をつけよう…。「それに……」ちょっ、もうちょっとだけ感傷に浸らせてくださいよ。
「はい、何ですか」
「キモい訳ねぇだろ。むしろ可愛「あ、信号青になりましたよ」……チッ」
うわ、でっけぇ舌打ち。
めちゃくちゃ怖いんですけど。
とりあえず場を和ませるために、話題をふっかけてみるか。
「……んで、”掘られるな”って一体…」
「学習しろ。お前このやり取りを何回繰り返すつもりだ」
「へへ…あんたが照れるのが、なんだか面白くて。珍しいし」
「……阿呆か。笑うな」
気を使わず自然体で、本音を言い合える。
……やっぱりこの人のこと、すげぇ大好きだ。
本当に、いつもありがとうございます。
「……あの、結局何が掘られたらダメなんですか?
もしかして墓穴?恥をかくなってこと?」
「うるせぇな。お前本当は意味分かってんじゃねぇのか?」
「え、墓穴を掘るの意味じゃないんですか?」
「……はぁ」
そ、そんな哀れむようにため息つかないでくださいよ。
頭捻って真面目に考えても、全く分からないんです。
「……ねぇ、旦那」
「旦那って……漫画の真似か」
「あ、この前貸した漫画、読んでくれたんですか?
”旦那”って呼び方の響き、かっこいいですよね。これからはそう呼ぼうかな?
ちなみに、忍者で誰が一番好きですか?」
「……主人公のライバルの兄」
「俺はその弟です」
「聞いてねぇよ。それに話がずれてる。
お前、俺に何か聞こうとしてただろ」
「あ、そうだった。照れてるってことは、”掘られるな”って何かエロいこと?」
俺がそう言った瞬間、旦那がゲホッと咳こんだ。
……図星?というか咳、大丈夫ですか。
心配で旦那の背中をよしよしとさすると「やめろ」と言われた。
そんな全力で拒否られると、流石に傷つきます……。
「やっぱりエロい事なんですか」
「……、意味分かったのか?」
「いえ、さっぱり」
俺の返答を聞くなり、小さなため息を漏らす旦那。ため息をつきすぎると、幸せが逃げていっちゃいますよ?
しばらくして、乗っていたバイクが道路の端に寄せるようにして停まった。
顔を上げて周りを見てみたら、転校先の男子校の近くだった。
「わざわざ送ってくれて、ありがとうございました。お疲れ様です」
「……おい」
「はい?」
ヘルメットを外してバイクのケツから降りると、旦那が声をかけてくる。
首を傾げて近づくと、新しい制服のネクタイを掴まれてぐいっと引き寄せられた。
「な、何…っ?」
はたから見ると、金融業の強面の男がそこら辺の男子高校生からカツアゲしてるようにしか見えないと思う。
「何かあったら絶対連絡入れろ」
「……分かってる」
「ふっ」
不覚にも、そのエロい口角にドキッとしてしまった。
微笑と照れ顔、今日はレアな旦那を沢山見ることができたな。
「とりあえず、掘られないように?頑張りますね。よく分かんねぇけど」
「当たり前だ。掘った奴は殺る」
怖……っ。
そんなに俺が掘られることを死守したいのか。
”殺る”とか物騒ですよ、旦那。
「じゃあ、あんたになら俺は掘られてもいいんですか」
「…それ以上言うな」
「だって意味分かんねぇし」
「とにかく、少しでも何かあったら俺に報告しろ。分かったな」
「あいさー。お疲れ様でした」
軽く頭を下げて、旦那に背を向ける。
そのまま学校の方へと向かおうとすると、再び呼び止められた。
「真琴」
「なんですか?」
「……お前は俺のものだ。それだけは頭に入れておけ」
「あ、はい…?」
バイクのエンジン音を轟かせて、放心状態の俺の前から去っていく旦那。
今のセリフ、女の子だったらイチコロだろうな。
だってあの人、めちゃくちゃ格好いいし。
でも、俺みたいなガキ臭い野郎に言っても意味無くね?…変なの。
不思議に思って首を傾げた後、俺は学校の門に向かってゆっくりと足を進めた。
……お、無駄に長い回想をしてるうちにまた何分か経過したぞ。
そろそろ行きますか。
……というかさ、この高校でっかいんですけど?
西洋風で城みたいな。
こんなのリアルであるんですね。
しかも門とか俺の身長の二倍。
別に俺が小さいわけじゃないから。
育ち盛りだからこれから伸びます、だからけっしてチビじゃない。
というかこの門どうやって開けんの?
そうこう考えてる内に、遠方の道から誰かがこちらへ駆けてきた。
この男子校の生徒?なら、そいつの後ろについていけば敷地内に入れるな。
そうと決まればさっそく制服のジャケットを脱いで通行人Aのふり。
お、見えてきた。
…………お?
何だあれ…、黒いマリモみたいな頭の人が前方から駆けてくるんですけど。
銀さんよりテンパじゃねぇか。
しかもその瓶底グルグル眼鏡どうした?今時どこで買えるんだよ、そんなの。
てか、あ……。
マリモから金髪が少しはみ出て見えてるんですけど…カツラ?
何で変装してるんだよ。
不審者より怪しい生徒だな。
その黒マリモは俺の横を通りすぎる際、独り言を発した。
「はぁ、転校初日なのに遅れたし」
なんだ、お前も転校生か。
チッ、使えないな。
まぁ……黒マリモが門を開けてくれるだろう。
そう思い、俺はそいつを観察する事にした。
…………うん、ぶっちゃけ期待した俺が間違ってた。
そうだよ、趣味の悪いカツラを被ってる奴を頼るとか。
てか何でカツラ被ってんの?
非常に気になるんだが。
十円ハゲできたんですか?
……カツラを連呼してたら「ヅラじゃない!」ていう人思い出した。
あの漫画の主人公かっこいい。
鼻ほじってもカッコイイ人って中々いないよね。
それをさっきバイクで送ってくれた強面イケメンに同意を求めたら、
「俺がもっとかっこよくほじってやる」
と言いだしたから慌てて止めた。
何でムキになってるかは分からなかったけど、少し可愛かっ……こんな事言ったら絶対怒られるな。
えと、話を戻して……黒マリモ?
今助走をつけて門を飛び越えようとしてる。
しかも4回失敗済み。
いい加減諦めて違う方法探したらいいんじゃないか……?
「オレは諦めねぇ!!」みたいな青春系の漫画の主人公みたいな人なんだろうか。
……嫌いではないけど。
俺はカエルみたいにピョンピョン跳ねている黒マリモを横目で眺めながらその場を去った。
こういう建物は、案外裏口が甘かったりするからそこから行けば……え?
塀伝いに学校の周りを歩いていたら裏門?らしきものが見えてきたけど……こちらも物凄く立派な造りだ。
学校とは違う建物が見えるし……何あれ…もしかして寮?寮ですか?豪邸じゃなくて?
旦那から美味しい話を戴いて転校しようと決めたけど、あれだ。
……まともな人間じゃなくなりそう。
狭い部屋で、それなりに食っていけりゃ幸せだって。
……でもじいちゃんの為にもわがままなんか言ってられねぇか…。
貧乏人にはここはいささか眩しすぎる。
開いた口がふさがらない。
この学校で上手くやっていけるか心配になってきた。
……助けてください、旦那…。
あの人が近くにいたら勇気がでる。
頭にあんこが詰まったヒーローみたいに元気100倍になります。
──ピロロロ
携帯から着信音が聞こえたから電話に出てみる。
「はい、大崎です」
「俺だが」
「はへぇっ!? えっ、ちょ、何で!? えっえっ」
「とりあえず落ち着け」
いやいや、落ち着けませんから!
なんで? あの人やっぱ超能力あるんじゃね!?
俺のテレパシーが伝わった、だと……?
「あの、その、何で電話を……」
「一つ言い忘れていた。お前が今まで住んでたアパートの小せぇ部屋、契約を切っておくからな」
「あ……、てっきりテレパシーが伝わったのかと思って焦りました。はい、了解です」
「あ"?…お前、俺の事考えていたのか」
「ち、ちちち違います!
別にそんなんじゃありませんから…!!」
旦那の発言を耳にした瞬間、顔全体にじわっと広がった熱。
おい……!? 何で照れてるんだ俺、このやろう!
何故に急にツンデレっぽくなったし…!!
「お前、照れたらすぐ顔が赤くなるよな。今も真っ赤なんだろ?……そういう顔はそそられる」
そ、そそられる?何を?
もしかして……あれか?
「殺気」を?
俺のキモい発言に殺気を煽ってしまった?
「す、すみません、野郎が野郎の事を思い出して考えるなんて気持ち悪かったですよね!
今後一切考えませんから許して下さい!」
「おい、てめぇまた何勘違いしてやが…「本当にすみません!じゃあ俺まだ学校にすら入ってないんで後で連絡します、失礼しました!」
「おい、真琴…っ」
――ブチッ
急いで電源ボタンを押して携帯を閉じる。
「やばい……怒らせたかも」
重いため息をついて携帯をポケットにしまう。
切る前に何か言いかけてたし…絶対今舌打ちして何かを殴ってるだろうな……。
その頃、その本人が別の意味で舌打ちをしていたなんて事、俺は知るはずもなかった。
さて、早く連絡するためにも急いで挨拶しにいきますか。
これ以上旦那を怒らせたくないし……。
…うむ、こっちの裏門なら飛び越えられそう、さっきより低いし。
門の格子を掴んでよいしょとゆっくり登り、ストンと地面に足をつけた。
え?あぁ、ごめんね、かっこいい飛び越え方じゃなくて。
そういえば黒マリモくん、あの高い門を無事で飛び越えられたんですかね?
……まぁ、どうでもいっか。
無事敷地内に入った俺が学校へと足を踏みだしたときだった。
「王道じゃねえぇ!!」
「……は?」
ほわっつ?
何だね、今の雄叫びは?
すんげえでかい声がした方向を見ると、寮の入口からこっちに走ってくる奴が見えた。
……あー、独り言だよね、あれ?
あんな面倒な雰囲気を放つ奴と関わりたくない。
早くその場から遠ざかろうと足早に歩いていたら、ガシッと肩を掴まれた。
「……わっ!?」
「おい」
チッ、何だよ。
こっちゃ忙しいんだよ。
メンチ切った顔で振り返ると、短い茶髪のイケメンが立っていた。
しかもそいつ、俺の両肩に手を置いて顔を無遠慮に覗きこむ。…つか、顔近ぇよ。
「……なんかフツー。いや、ちょっと(可愛い系…?)」
……………。
知ってるよそんなの。
つか普通とか失礼だなこいつ。
お前みたいにイケメソじゃなくて悪かったな。
「なんで裏門飛び越えてきたんだ?そこは正面の門を飛び越えて副会長が黒い笑みを浮かべて近づいてくるだろ。
変装どうした、変装!これがカツラだというのか!?」
「いたっ!痛いんですけど!地毛だから!」
何コイツ、言ってる意味わからない。
宇宙人ですか?
何で初対面の人の髪引っ張ってるんですか!?
「あぁ、地毛なんだ。ごめん、引っ張って。そっか地毛なのか……所詮リアルってこんなもんだよな……」
や、急にうなだれるな。
まるで俺が悪いみたいな雰囲気なるじゃねえか。
つか、カツラねぇ……あ。
黒マリモくん。
「ちょっと」
「何……?」
ちょ…、泣きそうな顔するなし。
ほって置くのも少しかわいそうだから情報を与える事にした。
「カツラ被ってるやつ探してるんだったらさ、さっき正面の門飛び越えようとしてる転校生いたけど」
「……ホントか!?」
「あ、うん」
テンションの移り変わり激しいな。
よし、やっと面倒事から解放されるぞ。
……と思うのもつかの間。
──ガシッ
「王道転校生見にいくぞ!」
「ちょ、おい……!?」
手を掴まれ、強制連行されました。
抵抗するのも疲れるから仕方なくついていくと、いきなりイケメソがピタッと足を止めた。
お、校門じゃないか。
結果オーライ。早く校内に入りたい。
「お、キター!王道キター!」
うるさいな。
イケメソが指をさす方に目を向ける。
あ…、黒マリモ……マリモが宙を舞っている。
「痛っ……と」
黒マリモは高い門を飛び越えるとよろめきながらも着地した。
てかもしかして今までずっとトライしてたんですか?
ふと隣のイケメソに目を向けるとその瞳がキラキラと輝いている。
……黒マリモ見てなんで嬉しそうな顔してるんだろ?
あれか、
カツラフェチ?
カツラ被ってる人が好きだったり?
世の中には変わった趣味を持つ人がいるんだな。
そう考えていると急に左手に強い圧力がかかってビクッとした。
「わ……っ」
まだ手を繋いだままじゃないか。
野郎と野郎が仲良く手を繋ぐ……たまったもんじゃねぇ。
手を振り解こうとするが、離してくれない。
「おい…っ」
「静かに!よしきた、副会長!」
いや、静かに!じゃないから。
ため息をついてイケメソの目線を追うと、黒マリモの背後にススッと黒い人影が出現した。
何だ、あの長身の人。
ひっそりと背後に立つとか亡霊みたいだな。
背後霊っぽい人に話し掛けられたのか、黒マリモの肩がビクッと跳ねる。
すると長身の奴がクックッと笑った。
そりゃ驚くだろ、俺だってビビるし。
気配殺して脅して反応を楽しむとか……あいつ腹黒だよ、絶対。
「お前、名前何?」
「……えっ」
急に隣のイケメソに話し掛けられてびくっとする。
「名前。教えて?」
「……聞く前に名乗れよ」
「あ、そっかぁ、そうだよな。俺は三橋 昴(ミツハシ スバル)。お前は?」
冷たくあたったら極上スマイルで返ってきた。
何か可愛いぞ、こいつ(人懐っこくて)。
「……大崎 真琴」
「よし!大崎、行くぞっ」
「は、どこに?……っておい!」
三橋の足がどんどん黒マリモと長身の二人に近づいていってる気が。
すごく嫌な予感がする。
今思えばこれが俺の平凡な日常を崩すひとつの要因だったのかもしれない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 63