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総受けのフラグ(11/13)
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「つか真琴、それ止めろ」
…それ?
「“旦那“ってなんだよ。今朝から変な呼び名つけやがって。名前で呼べ」
「……嫌です」
「あぁ"?何でだよ」
「別に」
真知先輩の言うことが本当なら、旦那の事も名前で呼びたい。
…けど、呼びたくない。
「言えよ。何拗ねてんだてめぇ」
「拗ねてません」
「言え」
「嫌です」
そう、嫌なんだ。
「言わねぇと怒るぞ」
「…っ、だって旦那は俺に“ヒロさん“って呼ばせてくれないじゃないですか…!俺だけ仲間外れみたいに!」
本名、千尋(チヒロ)。
みんなは親しみを込めて千尋さんの“ひろ“という字をとって“ヒロさん“と呼ぶ。
けど俺には絶対“ヒロさん“と呼ばせてくれない。
前に呼んだら怒られた。
「どうして呼ばせてくれないんですか?俺はやっぱりまだ内輪に入れない存在なんですか」
「ちげぇよ」
「じゃあどうして!」
「てめぇどんだけネガティブなんだよ。ちったあいい方向に考えられねぇのか」
「いい方向になんて思いつきません」
俺がそう言うと、旦那は重いため息をついた。
「確かにてめぇは他の奴とは別個の扱いだ」
「…やっぱりそうなんだ」
「最後まで聞けコラ。けど仲間外れって意味じゃねぇ。
…俺はお前だけに名前で呼ばせてんだよ」
「え、…なんで俺だけ?…」
「…大切な奴だからだ。特別にお前だけに名前を呼ぶ事許してんだよ」
旦那…旦那が俺のことそんな風に思っているなんてこと知らなかった。
ただの隅っこのちっぽけな存在だと思ってたのに。
「旦那……」
ふおぉ…涙が出そうだ、危ないな。
「何声震わせてんだよ」
「震わせてないです」
男だから泣かないし。
「泣きたきゃ泣けよ」
「泣くよりだったら笑います」
「ふっ、可愛いなお前」
可愛い…だと…?
「…ふざけんな」
「あ"?まあいい、わかったら変なあだ名で呼ぶの止めろよ」
「え、けっこう気にいってたんですけど……ダメですか?」
「……たまになら許す(旦那と呼ばれると真琴がお嫁さんみてぇだから)」
「ありがとうございます。じゃあ、旦那」
「待て、とりあえず名前で呼べよ」
「え」
「早くしろ」
何か…恥ずかしいな。
改めて名前で呼ぶのは。
「真琴」
せがむように旦那に名前を呼ばれ、声を搾り出す。
頬に熱が集まった。
「…ち、千尋さん」
「……もうくだらねぇ事で悩むんじゃねぇぞ」
「…はい、旦那」
「さっそく呼ぶんじゃねぇよ」
旦那がぶつぶつ文句を言っているのが耳に届く。
そうだ、大事なこと言うのを忘れていた。
「あの、千尋さん」
「何だ」
「さっきはごめんなさい…。無神経な事言っちゃって」
「何の事だ」
「結婚…とか、好きな人のこと……」
俺がそう言うと旦那が焦ったような声色で話しかけてきた。
「……意味、わかったのか?」
「はい……。
その、まさか旦那が人妻の女性を好きになってるなんて知らなくて…本当にごめんなさい」
声のトーンを下げて謝罪するが、旦那の返事が返ってこない。
あれ…?
「あの、千尋さ「何でてめぇはいっつもいっつもそうなんだよ、クソガキ…!」
キンッと旦那の怒声が俺の鼓膜を強く揺らす。
な、なんでこんなに怒ってるんだ、謝ったのに!?
「てめぇはどこまで振り回せば気がすむんだ、あぁ?」
「ご、ごめんなさい」
「何年も生殺しにされてる俺の気持ちも知らねぇで…少しは鈍いとこ直しやがれ」
「千尋さん、あの“──ブチッ“……え?」
電話を切られた、だと…?
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
「真琴ー、戻ったぞ…って、ま、真琴?」
「俺もう生きていけない…」
「この数分で何があったんだよ、おい、真琴!?何で廃人化してんだよ」
昴が俺の肩を掴みかっくんかっくんと揺らす。
雨降って地が固まり、また雨が降っちまった…。
「昴……俺を殴れ」
「はぁ!?おい、真琴?」
「俺……そんな鈍いか」
「え?……うん、鈍い」
「そうか…俺は旦那を怒らせるぐらい鈍いくそやろうなのか」
「何かよく分かんねぇけど落ち着け、真琴…!」
落ち着けるかよ。
男としてダメダメじゃねぇか。
「昴…」
「なに?」
「俺を男にしてくれ」
「ごほっ、え…!?」
「感覚が鋭い男になりたいんだ」
がしっと昴の肩を掴んで懇願する。
「と、とりあえずまじで落ち着けよ、真琴…!西條も手伝えよ」
「え…?あ……大崎、俺で良ければその、大崎を男にしてあげるよ」
「おいこら西條、こんなときに下ネタ言うんじゃねぇよ!つか誰がお前なんかにさせるか」
二人の会話も全く耳に入ってこない。
千尋さん…ごめんなさい……。
と、そんな時携帯に一通のメールが届く。
"また変にうだうだ悩んでるんじゃねぇだろな。
夕飯早く食って寝ろ。
体調崩して土日来れねぇ事になったら許さねぇ"
旦那……。
「よし、早く寮行くぞ、昴」
「……え、ちょ、さっきまでの真琴はどこに行ったわけ?何でいつのまにかしゃきっとしてんだよ」
「別に」
人は常に変わりゆく生き物なんだよ、昴くん。
昴が面食らった表情をしながら俺の右隣を歩くと、黒マリモが俺の左隣に並んでくる。
「西條、お前こっち」
「何で三橋の隣に来なきゃならないんだよ」
「真琴に近づけさせたくないから」
「はぁ?お前が離れろよ」
おまいら仲がいいな。
きっと俺を口実にツンデレってるんだろうな。
本当は二人並んで仲良く歩きたいんですね、わかります。
俺が気を使って痴話喧嘩している二人の後ろを歩こうとすると、寮の花壇の近くでうろうろしている人物が目に入った。
「……?」
何やってんだろ。
何か探しているみたいだな。
喧嘩しながらどんどん遠方に歩みを進めていく昴達が気になったが、その人物に話しかける事にした。
昴のことだから、きっと途中で気がついて引き返してくれるだろう。
そろそろと近づき、声を搾り出す。
「あ、あの……どうしたんですか?」
俺がそう言うと相手がこちらを見た。
その反動で栗色の癖がある髪が揺れる。
背が高くて若干猫背のイケメン。
その人は俺を一瞥すると口を閉ざしたまま目を逸らした。
…………うっ、シカトされた。
けっこう勇気出したのに…。
普段自分から人に話かける事がない分、心のダメージが大きすぎる。
居た堪れなくなってその場を去ろうか迷っていたところ、その人がぼそっと何かを喋った。
「…コン……ト」
「え…?コント?」
「違……コンタ…クト」
「コンタクト…ですか?」
俺がそう言うとその人がコクンと頷く。
無口キャラ…なのか?
まぁいいや、
「わかりました。手伝います」
「悪…ぃ」
「気にしないで下さい、好きでやってるんで」
その人がおろおろして止めさせようとするが、俺はしゃがみ込んで目を凝らす。
すると数分もしない内にキラッと光るコンタクトが見つかった。
「ありましたよ、どうぞ」
拾ってその人の大きな手にちょんとコンタクトを乗せる。
すると、その人がじっと俺の目を見つめてきた。
「どうかしました…?」
「……あり…、がと…」
その人はとぎれとぎれに言うと、ふんわりした表情で微笑んできた。
何この人…かわいいんですけど…!
ものすごく癒される。
あれだ、大型犬みたいな感じの雰囲気がする。
よしよししたい…!
「今度……お礼さ…て」
「いや、いいですよ、そんなの」
「……ダメ」
そんな顔して「ダメ…」とか言うの止めてほしい。
女だったらきっと一瞬で惚れてます。
「えっと、その」
「な、まえ……教…えて」
「大崎です。大崎 真琴」
俺がそう言うと、その人は少し嬉しそうな表情をしてコクンと頷いた。
ぐ…っ、撫でたい…。
あったかい空気に包まれて癒されていると、遠くから俺を呼ぶ声が背を打った。
「真琴!どこいって……って、ワンコ先輩…?」
昴がきょとんとした顔をして呟くと、その人は軽く頷く。
多分挨拶のかわり?だろう。
そしてまた俺の方を見ると、その場を去っていった。
「あの人、生徒会メンバーの一人だぞ、真琴。生徒会書記」
「え」
俺が目を見開き驚くと昴が頷き返す。
「大丈夫、あの人は野蛮じゃないし。あー、でもまたライバルが一人増えた…」
「何のライバル?てかワンコ先輩って…」
「みんなそう呼んでるんだよ。本人も納得済みらしいし」
確かにワンコっぽいしな。
お、かなり遠方から黒マリモが駆けてくる。
昴のやつ、置いてきたんだな、きっと。
「タチにも割と人気あるんだよなー…」
昴の言葉に俺は驚き、眉をひそめる。
「は?あんな体格でかいのに?確かに可愛いのはわかる気がするが」
「え"!? な、何で真琴、タチって言葉知ってんの!?」
「真知先輩に聞いた。でも真知先輩だって自分より体格大きいバ会長抱いたって言ってたし…男同士ってやっぱり怖いな」
俺がしみじみと言うと昴は顔を真っ赤にして吃った。
「た、短期間で何ものすごい量のこと学んでんだよ…?
つか何で黒滝先輩を名前呼び?サボってる間に何があったんだよ真琴……!」
「色々。あれやこれや」
「あれやこれやって何?襲われたんじゃないんだろな……っ」
「襲われかけはしたが」
「えっ、どんな風に!?」
「ちょっとごにょごにょ」
「ごにょごにょって何だよ、真琴…!」
昴が若干泣きそうな顔をしてる。
ていうか何を必死になってるんだ君は。
心配してくれるのは嬉しいが、真知先輩は(黒いけど)悪い人じゃないから大丈夫だぞ。
とりあえず昴の頭をよしよしとなだめるように撫でる。
すると昴が動きをぴたっと止めて顔を赤くした。
「あ、ごめん。怒らないで」
「…っ、怒ってないから」
いやいや、明らかに怒ってるじゃまいか。
そりゃこの歳になって野郎に頭は撫でられたくないよな。
でも俺はけっこう好きだなぁ…旦那に頭撫でられんの。
そう思ってふと右の方を見ると、黒マリモがそわそわして俺を見ているではないか。
「何?」
「お、俺も撫でて」
……え?
何故にお前を?
鳥肌がぞわわと立ったため、腕をさすりながらきっぱりと答える。
「やだ」
「……!」
黒マリモはショックで肩を震わせながら地面に座り込んだ。
え…そんなに?
あまりにも不憫だから、カツラをなるべくずらさないようにして頭をぽんぽんと撫でる。
「よしよし」
「…!お、大崎……っ」
何で俺なんかに撫でられてそんなに嬉しそうな顔をするんだ、君は。
変装癖にドMか……なかなか強烈なキャラだよな、黒マリモって。
同室だもの、あとで素顔をきっちり拝ませもらおうじゃないか。
「西條、真琴に甘えるなよ」
「三橋に関係ないじゃん」
また始まった。
ケンカするほど仲がいいって言うし、それか?
二人の言い合いを後ろで眺めながら歩いていると、ようやく寮に着く。
そして入口の扉を開けるとまたもや広々としたロビーが目に入ってきた。
これを普通と思う人もいるのか…世の中怖い。
「真琴、こっち」
「んー…」
手を振る昴に近づくと、受け付けのような場所が目に入ってくる。
が、肝心なことにそこに人の姿が見当たらない。
「どうすんの、昴」
「もしかしたら休憩室にいるかも」
突然、あまり聞いたことのない嬌声が鼓膜を揺らした。
甘い、けど女より低い声が受け付けの奥にある休憩室から漏れ出している。
「……何、これ?」
「多分行為中」
「は……?」
「ここの管理人、生徒襲って食う奴だから…真琴も気をつけろよ。ここで待ってて」
昴はそう言うと、ドアノブを捻って部屋の中に入っていった。
開いた瞬間、あの特徴的な臭いが鼻をつく。
「……ぐ…」
「大崎、大丈夫か?」
「……、」
理解はあれど、やっぱり気持ち悪い。
胃がむかむかする。
俺が手で口を押さえていると、昴がため息をついて扉から出てきた。
「はぁ……って真琴?どうした?」
「何でもねぇ」
手をひらひらさせてごまかすと、三橋が疑問符を頭の上に浮かべて首を傾げた。
「わかんないけど無理すんなよ?で、俺許可もらったから」
「何の?」
「真琴達と同じ部屋に引っ越すこと」
「ふーん…」
三人一緒でも大丈夫なくらい広いのか。
俺は別に良かったが、黒マリモが非難の声を上げた。
「何でだよ。俺は大崎と二人きりがいいのに」
「明らかに危なそうな発言するな。お前みたいな奴から真琴を守るために俺がいるんだよ」
「自分だけいい奴ぶるなよ。三橋だってそんな気持ちがないわけじゃないだろ」
「俺は相手の気持ちを無視して無理矢理襲う奴じゃねぇし。お前と一緒にすんじゃねぇよ」
何か今までのケンカとは違い、険悪な雰囲気が出ていて本当に怖い。
特に昴。今にも黒マリモの胸倉につかみかかりそうだ。
「昴……」
控え目に昴の制服の袖を掴んで声をかけると、昴がこちらを振り向いた。
眉をひそめて怒る昴の表情に心の中でびくびくしながらも喉から声を搾り出す。
「えっと…三橋は笑ってたほうがかっこいいぞ。そんな眉ひそめてると俺みたいになっちゃうし」
前に昴が俺にしたみたいに、指で昴の眉間をぐりぐりしてみる。
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