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イジメって何?(1/14)
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〜誰かを憎む強さより、愛する力のほうが強いんじゃないかな。〜
「真琴…!」
「大崎!」
酷いな。
俺の朝の挨拶は無視か?
「おはよう」ぐらい返しやがれ。
「お前どこで寝てたんだ…?」
「居間のソファー」
「…ごめんな、真琴。普通は俺達がそうするべきなのに」
「気にするな、昴」
しゅんとする昴の頭をぽんぽんと軽く撫でる。
「真琴…あ、遅れたけどおはよう」
「さすが昴だな。お前なら挨拶を返してくれるって信じてた」
若干胸がほっこりするのを感じながら、自分の部屋へ制服を取りに行く昴の背中を見送る。
…よし、
「西條、お前も……って」
何こいつ二度寝してんだよ。
人の布団に遠慮なくしがみついて匂いを嗅ぐなし。
「真琴の匂い…」
「……」
─ゾワッ─
何か…気持ち悪い。
「起きろ、西條。俺の布団から離れろ」
「やだ…真琴がキスしてくれたら起きる」
「全力で断る」
ふざけた事ぬかすな。いつまで寝ぼけてんだよ。
ていうかキスで目覚めるとか白◯姫の男verかよ。
とりあえず掛け布団にくるまる西條の体を揺さぶる。
「まじで起きろ……っ………………ぇ」
何……こいつ…?
布団の一部が盛り上がっているではないか。
お前、"何"をふるい立たせてんの?
それを見た俺は、すくっと立ち上がると──布団のもっこりした部分を容赦なく踏みつぶした。
「え…、大崎ぃうあぁっ!」
「くたばれ」
ぐりぐりと憎しみを込めて踏みつぶしていると、西條が苦悶の表情を浮かべながらも微笑する。
「痛いけど…大崎なら俺…大丈夫。もっとやって」
「………………」
ダメだこいつ。
ドMだ。ドのドのドMだ。
思わず後ずさると西條が立ち上がって俺を壁際へと追い詰める。
デジャヴュ…?
「おい、お前近い、離れろ」
「……大崎」
…ちょっ、おま…っ。
キスするつもりか?それしかないだろ、この距離。
俺は男だぞ、しっかりしたまえ。
いい加減目覚めろ。
とりあえず助けを求めるためにある名前を口にする。
「……昴!」
俺が暴走状態の西條と取っ組み合いをしながら叫ぶと、バタバタと駆け寄る足音が聞こえてきた。
「真琴……!」
「チッ」
西條…今お前、舌打ちしたよな…?
昴は現状を把握すると怖い顔をしている西條を羽交い締めする。
「いいとこで邪魔しないでくんない?三橋」
「真琴が嫌がることすんな」
「嫌がってるかは本人に聞かないと分かんないじゃん」
「いや、俺嫌だから。とりあえずお前黙れし」
はっきり告げて西條のみぞおちに膝を叩き込む。すると西條がウッと息を漏らして倒れた。
これでお前の寝ぼけた眼が覚めるといいな。
「昴、お前のおかげで助かった。ありが……」
昴が倒れている。
はっ、もしやさっきの俺の蹴りの衝撃が昴にも伝わってしまったのか?
西條の死体を放置して急いで昴を抱き起こす。
「起きろ、昴。起きてくれ」
昴の手を掴んで肩を揺さぶる。
すると昴の目がうっすらと開いた。
「昴…!」
「ま…こと?」
「昴…よかった。ごめんな」
助けてくれた昴を攻撃してしまうとか酷いな、俺。
昴はしばらく瞬きを繰り返すと、徐々に顔を赤く染めていく。
「ちょ、近…っ」
「あ、悪ぃ」
「つか何で泣きそうな顔してんの…、真琴?」
「え」
俺そんな顔してたのか?
昴のほうをちらっと見ると、本人は微妙な面持ちでいそいそと立ち上がった。
「昴、ほんとゴメン。怒らないで」
「怒ってないから。その…、俺、トイレ」
昴はそう言うと、そわそわとした様子で俺の個室から出ていく。
そして一直線にトイレに行き、閉じこもった。
……。
小便にしては長くないか?
う◯こか?頑張って捻り出してんの?
西條の死体の側にいるのが嫌だから、トイレの近くに言って呟いてみる。
「朝に大きい方が出るなんて健康的だな、昴は。俺、便秘気味だからうらやましい」
「は!? う○こなんてしてねぇよ!つか俺の近くに来んな…!」
「え……」
来るな…?
それって完全に拒否ってこと?
絶交という意味?
やっぱりまだ気絶させた事怒ってるんだ……。
どうしよう、この場合どうすれば友達のままでいられるんだ…?
せっかくいい奴に出会えたのに…何ぶち壊してんだ、俺…。
「昴…!ほんとゴメン。
土下座して謝るから。俺、お前がいないとだめなんだよ」
「……っ、誤解招くような事言うなよ…!」
「ていうかまずちゃんと話し合おう。まだ絶交しないでくれ」
「真琴、とりあえず今はそこから離れろ…っ」
「嫌だ。お前う◯こしてないって言ったよな、ただ怒って閉じこもってるだけなんだろ?なら、この戸を蹴破ってでも俺はお前と話し合う」
「やめろ!絶対蹴破んな…! う◯こしてねぇけど別の用を足してんだよ!」
「小便にしては長すぎだろ、嘘つくな」
「そうじゃなくて…とにかく今は俺に近よんな!あっちいけ!!」
「……!」
昴の奴…なんでこんなに怒ってるんだ?
……分かった!
具合悪くて吐いてるのか。
なら背中さすってやったほうがいいんじゃないか?
いや、でも俺の記憶では昴の奴、俺に触られるの嫌がってたような…。
ここは昴の言う通りにするべきか。
これ以上嫌われたくないし……。
「……そういや」
西條の死体、俺の部屋に置きっぱなしだったな。片付けないと。
一旦自分の個室に戻り、制服に着替える。
その後に横で倒れている西條の両脇に手をかけてずるずると引きずり移動する。
そして勝手に西條の個室にお邪魔して死体からそっと手を離した。
「……意外と質素だな」
俺と同じくらいの荷物しかない。
ていうかこれ……鉄アレイだよな?
他にも沢山のそういう用具が…。
西條の奴、体鍛えてんのか?
何のために…?
俺が鉄アレイを手にして首を傾げていると、突如静かな空間にガチャンという音が鳴り響いた。
振り向くといつの間にか生き返ったのか、西條が個室の戸にカギをかけている。
「大崎って無防備だよね」
「……は?」
「男の部屋に一人で上がり込むってどう言う意味か分かってんの?」
西條はそう言うと整った顔にうっすらと微笑を浮かべた。
いやいや、勝手に決めつけられても…分かんねぇけど?
「ていうか何で鍵かけたし」
「邪魔者が来ないようにするため」
西條はそう言うとゆっくり俺に近づいてくる。
何か威圧的なオーラを感じるなぁ…。
「西條、お前鍛えてんの?」
「うん。俺、ある族の総長だったから」
族?んなもん聞いたことないな。
ここら辺では沢山あるものなのかな。
「俺が変装してるのは生徒会メンバーに見つからないようにするため」
「あ?意味分からん」
「敵対している族の中に会長達がいた。あいつら俺をしつこく追ってきやがって…」
何かものすごく歪んだ顔になってるぞ、西條。
少し自重しようか。
「えーと…どんまいだな」
「どんまいじゃすまない。あいつらノす」
……怖っ。
西條は一瞬恐ろしい顔を見せた後、ふっと微笑した。
近づいてきたため、条件反射で後退する。
「だからさ…俺、力とかけっこう強いよ。
大崎を簡単に捩じふせることだってできる」
「いで…っ!」
西條は俺の片方の手首をギリッと掴むと、強い力で壁に縫い付けた。
痛いんだけど。ていうか本当に力つよいな。
まぁ、とりあえず離してくれ。
「西條、離せよ」
「……」
西條はシカトすると顔をぐっと近づけてくる。
チッ、まだ寝ぼけてんな。
「いい加減…っ、目ぇ覚ませ!痛ぇんだよ」
「痛くてもいいじゃん。大崎もさっき俺に痛い事してきたし」
いや、お前と一緒にするなし。
俺はあいにくM属性じゃないから、痛いのが気持ち良いとは思わないんだよ。
何かちょっとした恐怖心が芽生えてきたため、タックルをしてみた。
「離せっ……て、あ…!」
体当たりの振動で、もう片方の手に持っていたダンベルが俺の手の平から滑り落ちる。
重力により加速したその鉄の塊は床に…ではなく、西條の足の小指にドスッと落下した。
─メキッ─
「ぃ"…~~っ!!」
「あ」
西條は俺の手首から手を離すと、足の指を押さえてそこら辺を跳ね回る。
「痛い痛い"っ!」
「ご、ごめ…っ、へふふっ」
「大崎、お前何笑ってんの!?」
「あ、すまん。別に笑ってなんかいないし……プッ」
「どー見ても笑ってるじゃん!?酷いよ大崎!」
いやぁ、ゴメソゴメソ。
確かに人の不幸を笑う奴は酷いよな。
でも何かおかしくて笑っちゃうときあるんだよね。
別に滑稽で面白いなぁとか思ってないさ、うん。
とりあえず西條の背中をぽんぽんと軽く叩いてから、戸の鍵を開ける。
悠々と西條の部屋を退室すると、悲痛の叫び声が俺の背中を打った。
「──大崎のバカ!何で大崎はそうなんだよ…!」
だから"そう"ってなんぞや?
バカで悪かったな。
構わずその場を去ると、洗面所から出てくる昴を目撃した。
何か…すっきりした表情してるな、昴の奴。
「(ゲロ)出してすっきりした?朝から大変だな」
「えっ!? ま、真琴…(生理現象だって)わかってたのか…?」
「いや、まさかお前が吐くほど気分悪かったなんて知らなかった。これからはすぐ気づけるように努力するよ」
「……は?何それ。何で真琴ってさ……そうなんだろな…」
それ、さっき西條にも言われたばっかりなんだが。
昨日も沢山言われて気になったけど、一体俺が何だっていうんだよ。
「昴……"そう"ってどういう意味?」
ジッと目の前にいる昴を見つめる。
すると昴は急に頬を赤く染めたかと思うと、眉を下げて最終的に切ない表情で見つめかえしてきた。
「どうしてかな……。真琴は男なのに」
「え?女に見えるとでも?」
ちゃんと下半身にシンボルついてるよ、西條みたいに立派なものじゃないけど。
「いや、違うんだ。何で…男を……どうしたんだよ、俺…」
昴は首を振るとため息をついた。
……何か今の昴の一挙一動に見覚えが…。
……あっ、わかった、旦那だ。
「何でこんなガキに…」やら「青くせぇガキなのに」、「何でこんな野郎を…しっかりしやがれ俺」みたいな事をつぶやいて頭かかえてた時期が合ったなぁ、千尋さん。
その頃は物凄く避けられてた記憶がある。
嫌われたのかな?って思ってたら、後になって急に話しかけられるようになった。
それに微妙に優しくなったような……。
そういやその時から「真琴」って呼ばれるようになったんだっけ。
初めて会った頃は「クソガキ」とか「お前」とかで、絶対名前で呼んでこなかったし。
まぁ、それは置いといて。
「何で悩んでるのか分からないけど、あまり思いつめるなよ…昴」
「真琴…でも…」
「"でも"とか理屈で考えんなよ。感じたままに答えを出したらいいと思う。真っ直ぐなとこが昴の取り柄だろ?」
「…………分かった」
昴は何かを決心したような表情で前を見据える。
それから俺の方に振り返ってとびっきりの笑顔を見せてきた。
何か可愛いなぁ…。
「決めた」
「そうか」
「真琴が好き。大好きだ」
「え…っ、そ、そうか…」
何かちょっと恥ずかしいというかもどかしいというか……照れるね、これ…!
すっげえ…嬉しい?感じ。ドキがむねむねする。
「さんきゅ。俺も…お前の事好きだよ、昴」
「あ…うん……そっか。そっちの意味ね…」
え、何でそこで微妙な顔すんだよ。
ものっそい傷つくんですけど。
「昴…ほんとは俺の事嫌い?」
「んなわけねぇーだろ…!俺は真琴の事が好き。絶対誰にも渡さねぇ!」
「おほぁっ!」
急に肩をガッと掴まれたため喉から変な声が飛び出す。
けど昴はそれを笑うことなく、俺と目を合わせたまま宣誓した。
「絶対守るから。幸せにする」
「……、さんきゅ。俺も頑張る」
これが青春の友情か……今までくだらねぇとか思ってたけど、間違いだったらしい。
だって胸が騒がしいし、心臓がうるさいくらいばくばくしてる。
新しく変わっていく自分を感じながら、昴と向き合って話す。
そして少し談笑した後、身支度を整えて部屋を二人で出た。
西條……ちょっと心配だけど、あいつも男だ。大丈夫だろう。
「朝ご飯は?」
「ほとんどの奴が一階の購買で買って学校で食ってる。コンビニみたいに沢山売ってんだ」
「へー」
さすが、金持ちの住む世界は規模が違うな。
エレベーターを使わず階段で下の階に下りていくと、それらしきものが見えてくる。
「今早いから誰もいないかも」
「え、何時?」
「7時」
「…逆に遅くね?」
「9時まで登校だもん」
"だもん"って…お前…。
ていうか9時遅すぎだろ。
この学校マイペース過ぎじゃないか?
「弁当食べよっと。ハンバーグ入ってるやつ」
「朝からよくそんなにがっつりしたやつ食えるな」
それにハンバーグって……昨日の昼に食べてなかったか?好物なのだろうか。
昴の方をちらっと盗み見ると、ニコニコしながらハンバーグ弁当に手を伸ばしている。
おま……っ、可愛いなちくしょう…。
そんな昴を見て和んだ後、紙パックの飲み物が置かれているコーナーに足を進める。
……野菜ジュースだけでいっか。
経費を抑えたいし。
いや待て待て、ここは牛乳を飲むべきか?
みんながチビチビ言うから、これから本当に身長が伸びるのか心配になってきたじゃないか。
顎に手を当てながら悩んでいると、レモンティーを掴む誰かの腕が目に入ってきた。
何だ、他にも生徒いるじゃねぇか、って…え…………?
その人の顔を見て思わずぎょっとする。
まさかの会計……じゃなくて、真知先輩だ。
目がバチッと合ってしまい、反射的に雑誌コーナーへ逃げるように移動した。
すると真知先輩が鼻歌を歌いながら軽い足取りでこちらに近づいてくる。
真知先輩の鼻歌の選曲、『森のくまさん』。
「~♪」
ひいいぃ…、森のくまさんの曲がこんなに怖いと感じる日が来ようとは。
全然楽しげな童謡に聞こえないんですけど…!
“くまさんに出会った“のフレーズで鼻歌がピタッと止まり、ついでに真知先輩の足も俺の背後で止まる。
とりあえず漫画を選んでるフリを……え?
「…………!!?」
目に飛び込んできた雑誌を見て、一気に顔に熱が集まるのを感じた。
立ち位置を間違えてしまった。
ここ、いかがわしい本が密集してるとこじゃねぇか…。
「へぇ、真琴くんってこんな本に興味があるんだ?…クスッ」
「………ッ!」
耳元で小さく囁かれた声に思わず声を上げそうになる。
それをぐっと堪えて黙っていると、先輩がフッと笑った。
「可愛いなぁ、顔真っ赤だよ」
真知先輩はそう言うと俺の肩に手を置き、もう片方の手である雑誌を掴んだ。
『片想いの人のオトし方』…?
何でそんな雑誌を購入するんだろうか。
「…僕、今どうしても欲しい人がいるんだ」
耳元で艶のある声が鼓膜を揺らす。欲しい人…?
「あ、そうそう…見てくれた?僕が昨日つけた痕」
真知先輩はそう囁くと肩に置いていた手を滑らせ、俺の首筋をッーと指で撫でてきた。
「ぐ…っ」
キス…マーク……。
思い出してしまったじゃないかこのやろう…。
今の恥ずかしい失敗やら状況にそれが加わり、顔がさらに熱くなるのを感じた。
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