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イジメって何?(2/14)
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ぐぬぬ…むかつく……!
でもここで振り返ったら負けだ。シカトしてやる。
「怒らないのかい?つまらないなぁ」
つまらないなら早くどっかに行って下さい。
シカトを続行していると、先輩が背後から腕を回してきた。
すっぽりと先輩の胸に背中が包まれるのを感じ、思わず声を上げる。
「ちょ…っ」
「ごめんね。だから怒らないでよ」
いや、怒ってないし。ていうか離して下さい。
「僕を見捨てないで。真琴くん約束してくれたよね、ちゃんと向き合うってこと」
「見捨てる……?何ですかそれ」
肩に回った腕を振り払うと眉をひそめて先輩と目を合わせる。
「そんな事するはずないじゃないですか。無責任な事は最初から言いません」
「へぇ…、そんなに怒ってくれるなんて思わなかった」
何ですか、そのまるで試しましたみたいなセリフは。
俺がジト目で先輩を見ると、本人は少しばつが悪そうに肩を竦めた。
「僕は面倒な性格してるからね。関わった君が悪いんだよ。
にしても…もし真琴くんが裏切ったらどうしようかなぁ」
「……絶対にそんな事しませんから」
この人の事だ、もう二度と立ち上がれないような精神的屈辱を与えてくるに違いないし。
「そう?じゃあ今日も来てくれるよね、あの屋上に。……ねぇ、真琴くん?」
「あ……はい…」
そんな黒い笑顔で圧力をかけてこないでほしい。
逆らえないじゃないか。
真知先輩のペースに巻き込まれ困り果てていると、耳が聞き慣れた声を捉えた。
「真琴……!」
「昴」
何か昴を見ると少しホッとするな。
「やぁ、三橋くん」
「…真琴にまた変なこと教えたりしてないっすよね、黒滝先輩?」
「さぁ、どうかなぁ。君は王子様みたいに真琴くんの元へ駆けつけるんだね。そうなると僕は悪役かな」
王子様って……全然イメージわかないな。
昴は爽やかな汗を流しているスポーツマンのほうが似合いそう。
真知先輩は悪役がめちゃくちゃ合ってるけど。
あの黒い笑いとか。
「聞こえてるよ、真琴くん。僕の悪口を言うなんて中々いい度胸してるねぇ」
「え"……っ!?」
やべ、一番怒らせたらいけない人を怒らせてしまった。
冷や汗ヤバいんだが。
「まぁ、いいや。三橋くん、少し僕とお話しようよ」
「え、俺?」
昴が先輩の言葉に眉をひそめるが、本人は構わず昴の肩に腕を回す。
「そう、君。真琴くんに関しての話をすると弄り甲斐があって面白そうだし」
「ちょっ、離せ…じゃなくて離してください」
何か昴…ドンマイだな。
ずるずると引きずられていく昴を同情の目で見つめていると、先輩がこちらを振り返った。
「優と話してあげてね」
「ゆう…?」
「僕のワンコ。仲良くしてあげてね」
「へ…?」
会計はそう言うと嫌がる昴を連れて購買の外へ出て行ってしまう。
ていうか、ワンコって……何?
首を傾げながらぶらぶらと店の中を歩き回る。
すると、パンを置いてるコーナーにつっ立っている生徒が目に入った。
……あれ?あの人って…。
「……ワンコ先輩?」
俺がそう呟くと、その人がゆっくりと振り向く。
…やっぱり、ワンコ先輩だ。
真知先輩の“ワンコ“ってそういう意味だったのか。
「えと、おはようございます」
「……」
ワンコ先輩はコクンと頷くと、急に手を伸ばして俺の首筋に触れてきた。
「……!?」
な、何?
「ゴミ………てる」
「ご、ゴミ…?」
俺が聞き返すと、ワンコ先輩が糸クズを見せてくる。
取ってくれたのか…。
「あ、ありがとうございます」
俺が礼を言うと、ワンコ先輩がふんわりと微笑んだ。
「な…に…買う…?」
「朝食ですか?この野菜ジュースだけです」
俺がそう言うと、ワンコ先輩が眉を八の字にした。
「ちゃ…と……食べなきゃ………、…めっ」
"めっ"て……何この人可愛いすぎるんですけど…!
ワンコ先輩は俺の手から野菜ジュースを奪うと、パンを二つ持ってレジに向かっていく。
「え、ちょ…っ」
俺の野菜ジュース……。
呆然として固まっていると、カードで支払いを済ませたワンコ先輩が戻ってきた。
そして俺に一つのパンと野菜ジュースを渡してくる。
「……ん…」
「え…?あの、これ」
「……あげ、…る」
あげるって……パンを二つ買ったのも、俺にやるため?そんなの……。
「ダメです、貰えません…奢ってもらう義理はありませんし」
「……」
そんなシュンとした顔で見つめてこないでほしい。胸がものすごく痛い。
しばらくお互い困り顔で見つめあう。
が、ワンコ先輩がそっと俺の手を掴んでパンとジュースを持たせてきた。
「昨日……助け…もらった、だから……礼」
「先輩……」
コンタクトを拾った事か。
そんなこと気にしなくていいのに……。
でもせっかくの心遣いだ…受け取っておこう。
「ありがとうございます、先輩。おいしくいただきます」
「……ん」
ワンコ先輩は僅かに頬を朱で染めると、嬉しそうな表情で俯いた。
この人、いちいち可愛すぎるんだが…。
和やかな空気につつまれながら先輩と見つめあう。
すると向こうから「優」と呼ぶ真知先輩の声が聞こえた。
「真…知……」
真知先輩に呼ばれ、ワンコ先輩がそちらへ歩いていく。
「昨日のお礼、できたのかい?」
「ん……」
ワンコ先輩が頷くと、真知先輩が彼の頭を撫でた。
「そう。よかったね、優。……じゃあ、またね真琴くん」
真知先輩は俺の方を見て僅かに微笑むと店から出ていく。
ワンコ先輩も続き、少し名残惜しそうな表情で会釈すると、真知先輩の後を追っていった。
真知先輩……ワンコ先輩を従えてるのかな。
さっき僕のワンコとか言ってたし。
まぁ、それは置いといて。
昴はいずこへ?
「真琴……」
「うわっ、びびった」
声のした方を見ると昴が暗い表情で立っていた。
ていうか……何か制服乱れてませんか?
「ほんと…勘弁してほしい」
「……その、大丈夫?襲われたのか?」
「真琴の口からそんな言葉が飛び出すなんて……あの先輩、何を教えてんだよ…ハァ」
「別に俺がアッチ系の事を口にしてもいいだろ」
思春期真っ盛りだもの。
「真琴は純粋なままでいい。そんな真琴が好き」
「そう?でもゴメン、俺清純系になるつもりないし。それよりお腹すいたから早く朝食買って」
「真琴ってさ……冷たいときってとことん冷たいよな」
「あ?」
失礼な。
何故か落ち込んでいる昴の背中を押してさっさと朝食を買わせる。
「で、どこで食うの?」
「学校の中庭とかどうですか、真琴くん…」
「素敵ですね、昴くん」
変なテンションの昴の後に続き、同じ敷地内にある学校の中に移動する。
金持ちの学校の中庭はきっと綺麗なんだろうな。
俺が前に通ってた学校の中庭は落ち葉と毛虫だらけだったけど…。
「真琴、ここだよ」
「あ、うん。……へー」
やっぱり広くて綺麗。
木とかあって死角もあるし、ここでサボりも良さそうだな。
「真琴。勝手に独り言聞いて悪いけどよ、ここでサボるのはやめた方がいい」
「何で?」
「何でって…その……、盛った生徒達の利用場の一つだから」
「屋上と同じ扱いって事?」
「え…?何でそれ知ってんの!?」
真知先輩が言ってたし。
そういや俺、真知先輩専用の屋上への行き方知らないな。
昨日はテキトーに歩いてたらあそこに辿り着いたわけだし。
頭をかきながら設置してあるベンチに座ると、昴が俺の隣にどかっと座り込む。
「無視すんなよ、真琴」
「ゴメン、怒った?」
「怒ってない」
昴はそう言うとハンバーグ弁当の蓋を開けてもぐもぐ食べ始める。
何か……ハムスターみたい。
「……なに人の顔見て笑ってんだよ…」
「別に。可愛いなって思っただけ」
「は……?」
俺の発言に昴が頬を赤くする。
ていうかお前、口の横にハンバーグのかけらついてるぞ。
取ってあげようと思ったそのとき、尻の辺りにブルブルと振動が伝わり思わず声を上げる。
「ひうぁ…っ!……あ、何だケータイか」
「……、真琴…お前朝から何つー声出してんだよ。腰にくる…」
「え、何?ボソボソして聞こえねぇ」
頬を朱で染め俯く昴を、俺は怪訝な目で見つめながら携帯を開く。
お、やべ、電話だ。旦那の携帯番号……。
急いでボタンを押して電話に出る。
「はい、真琴です」
「遅ぇ。何もたもたしてんだてめぇ。まだ寝てんじゃねぇだろな」
うわ…朝からまた機嫌が悪いようで。
「さーせん。もう起きて朝食にありつくとこです。あ、あとカップ麺ありがとうございます」
「そんなもん送った覚えねぇな」
え、照れ隠し?
旦那がツンツンキャラになってる…。
ニヤついてると、制服の袖をくいっと引っ張られた。
「……誰?」
「昴…あ、ちょっと待ってて」
昴の腕に触れて再び携帯を耳に近づけると、旦那がくぐもった声でぼそっと呟いた。
「……てめぇが誰かを名前で呼ぶなんてめずらしいな」
「へへ、友達です。俺、向き合うって決めたから…旦那の言ってた意味もわかりました。もうトラウマとかへっちゃらです」
「…無理すんじゃねぇーぞ」
「無理なんてしてません。俺、ここに来て間もないけど色々学んで成長した気がします。
…千尋さんに認めてもらうまで頑張りますから。独り立ちできるように」
俺がそう言うと、旦那がふー…と大きなため息をついたのが聞こえた。
な…何だ……?
「…真琴、そんな事言うな」
「はい…?」
俺が聞き返すと、千尋さんは一言口にする。
「寂しいだろ」
「へ……」
甘く低い声帯が、俺の耳朶にじわっと熱い刺激を与えた。
寂しい……?嘘だろ、旦那がそんな言葉を口にするなんて。
胸がきゅうっと締め付けられ、顔中にじわじわと熱が広がるのを感じる。
目の端に、そんな俺を見て怪訝な表情をする昴が映った。
昴……そんな目で俺を見ないでくれ。
俺も何で自分が赤面してるのかわからないんだ。
「お前の事はとっくの前に認めてんだよ。もう自分一人の力で生きてるとか思ってるバカなガキじゃねぇだろ」
「は、はい…」
「俺がお前に望んでる事はもう違う。てめぇは俺の傍にいるだけでいいんだ」
「え……?」
またまたそんなかっこいい事言われてもリアクションに困る。
いい返答が思いつかない。
「返事」
「は、はい…!」
「よし。…まぁ、昨日聞いた話だけでてめぇがいかに鈍感で天然で他人に色目を使うタラシだって事はわかった」
「は…!? 俺いつ誰に色目使ったんですか!タラシってなんぞや…!?」
「うるせぇ。黙れ」
「ぐ……っ」
言いたい事を抑え、旦那の言葉を待つ。
「……時間かけて粘ってオトしていこうと思ってたんだがその余裕が無くなったみてぇだしな。…これからは全力でオトしにかかるから覚悟しておけ」
「は、…あ?えっと」
俺は一体何の覚悟をしておけばいいんだ?
とりあえずいつ殴られてもいいように鍛えておこうか。
「…じゃあな、真琴」
「え、あ…はい」
ブチッと接続が切れてからも俺は呆然としたまま固まる。
ツーツーという音を耳に流していると、肩をぐっと掴まれたのを感じた。
「……真琴」
「す、昴…何?」
「千尋…って、誰?女?」
「え……っ、…ふへへ」
昴が神妙な面持ちで聞いてくるのに対して、俺は思わず笑ってしまう。
確かに「千尋」って女寄りの名前かもな。
本人に言ったら怒りそ…いや、殺されそう。
「真琴…!笑ってないで教えろよ」
「あ、悪ぃ。えっと、千尋さんが誰かって?誰って……」
何て言えばいいんだ?
うーん……。
「性別は男。尊敬…してて、大好きで…うん、そんな感じ」
「男……で大好き…!? 大好きってどんな好き?like!? それともlove…!?」
ものすごい形相で俺の肩を掴んでくる昴に戸惑いながらも、答えを口にした。
「え、loveじゃないかな?愛…(?)してるし」
「は……まじ?何?じゃあ恋人って事かよ…!?」
「ごほ…っ、はぁあ!? 何でそうなるんだよ!」
急にびっくりする事言うなし。
そういう意味のloveかよ…。
「違う。旦那……じゃなくて千尋さんはい今人妻を好きになってるらしいし、俺は普通に女が好き。そういう意味じゃないから」
ていうか今の昴の発言、旦那に聞かれたら確実に殺される。
絶対気持ち悪いとか散々言われて殴り殺されるに違いない。
昴は俺の返答を聞くと安堵した表情で呟く。
「何だ……そっか。よかった」
「何が"よかった"なんだ?俺がノンケでよかったって事?」
「違う。真琴に恋人がいなくてよかった……」
「嫌味かよ。どうせ一度も女と付き合った事ないし」
恋とか知るか。フンとそっぽを向くと、昴が慌てて俺の機嫌をなおそうとする。
「だから違うから…!でもそれってまだ俺にも全然チャンスがあるって事だよな、真琴」
「……?おう」
昴の言ってる意味が分からなかったが、テキトーに相槌を打ってパンの袋を開ける。
メロンパンか……チョイスも可愛いな、ワンコ先輩…。
昴はというと、すっかりご機嫌になって弁当をもぐもぐと食べている。
…てか、まだ口の端にハンバーグのかけらついてるし。
「昴」
「もぐ……?」
きょとんとした表情で振り向く昴の顔に手をスッと伸ばす。
そしてハンバーグのかけらをとってやると、そのまま自分の口にほうり込んだ。
む、デミグラスソースの味がする。
自分の指をペロッと舐めてからメロンパンにかぶりつく。
……ん?隣が静かだな。
昴の方をちらっと見ると、本人は呆然とした表情で制止していた。
「昴?どうした」
「……!……、真琴…っ」
声をかけると昴は俺を見るなり顔全体を真っ赤に染め上げる。
ど…、どどどうした!?昴…!
「何で…っ、そういうことふつーにやるんだよ、真琴は」
「何の話?」
「自覚してねぇし。ほんと鈍感だな、真琴は」
「……」
みんなして鈍いって何だよ。
こう見えて洞察力は人並みにあるんだからな。
「悪かったな、鈍くて」
「え…、真琴もしかして怒ってる…!?」
「怒ってないお」
「嘘だ…!こんなキャラ真琴じゃない…!」
本当に怒ってないお!
「別にお前のハンバーグ弁当グッチャグチャに掻き混ぜてやろうかとか思ってないし」
「やっぱり怒ってるし!思いっ切り本音を口にしてるじゃねぇか…!」
昴は困惑した表情で俺の機嫌を必死にとろうとする。
一瞬イラッとしただけで怒ってはないのに。
まあ、わたわたと焦る昴を見ながらメロンパンを食すのも悪くないな。
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