アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
イジメって何?(4/14)
-
俺が求めていた除去剤は棚の上部にあった。
爪先立ちになり、腕を思いきり伸ばすが…取れない。
「……ふんぬぐぐぐ…!」
高すぎて手が届かねぇ!
「ぷ…っ」
今笑いやがったな、ホスト…!
振り向くと先程のお返しとでもいうように、先生がこちらをニヤニヤと笑いながら見ていた。
「チビは大変だな。代わりにとってやろうか?」
「結構です…!」
ジャンプして何とか薬品を手に入れ、そのままずかずかと保健室の出口へ足を進める。
けど心の中に少しだけもどかしいわだかまりが残っていたため、振り返って口を開いた。
「先生」
「何だ」
「その、……ありがとうございました」
「は…?」
「情けない話、今朝やられた事、実は少し不安だっていうか…。先生に聞いてもらえてすっきりしました。だから……ありがとうございます」
「真琴……」
ホストが少し目を見開き俺を見つめてくる。
な、何だし…。そんな顔して見んな。
「ち…ちょっと褒めたぐらいで何ほうけてんですか…!てかタバコ臭い。生徒の前でタバコ吸うなばか!」
ホストの視線に耐え切れず、頭に浮かんできた事をテキトーに口走る。
そして保健室から急いで出て扉をぴしゃりと閉めた。
「……っ」
何か猛烈に恥ずかしい。
男の前で弱音を吐いてしまったからか?
扉を一枚挟んで、ホストが「…調子狂うな」と呟いてた事を俺は知るはずもない。
……急いで教室へと戻ると、昴が俺に気がついて話しかけてきた。
「真琴…!紙屑とかは拾っておいたぜ。何か教科書っぽいから捨てないで置いたけど。それと…はい、雑巾」
「さんきゅ。昴は気がきくな。いい嫁になるぞ」
「え、嫁!?」
「うん。俺の嫁にならないか」
ふざけてそう言ってみる。
が、返ってきたのはツッコミではなく沈黙だった。
「…………え…?」
「ちょ…、えっ、昴、何でそこで照れるんだよ」
早くツッコんでくれ!
俺まで何か恥ずかしくなるじゃないか…!
「……俺が嫁…?いや、真琴が嫁だったらいい。俺の嫁になって」
「は……!?」
予想外の返答が来たぞ。
何か収拾がつかない空気になってるではないか。
「えっと、うん、じゃあ考えておく」
テキトーに返しておくと昴がさらに顔を赤くした。
「……何で…」
「え?」
「何で真琴はそうなんだよ…!」
「ちょ、おい…っ!?」
昴が教室から逃げるように飛び出していった。
な、何でこんな事に…。
急すぎる展開についていけないんだけど…!
「……あとで謝るか」
追うか迷ったが、机のマジックの落書きを消すことを優先した。
もうすぐHR始まりそうだし……。
「……よし」
終わったぞ。
汚くなった雑巾をトイレの洗面所で洗い、除去剤を返しに行ってから教室に戻る。
すると昴が自分の席に座っているのが見えた。
「昴、その…さっきは悪かったな」
「真琴…っ、いや、俺が悪いんだ。だから気にするな……うん…………」
……そんなしょぼんとした顔して言うな。
逆にものすごく気になるから。
重いため息をつく昴を横目に、俺も着席する。
するとチャイムが校内に鳴り響いた。
……それから何分か経っただろうか、ホストがガラッと戸を開けて教室に入ってきた。
もちろん今日も昨日みたいに黄色い声が飛び交って……以下省略。気持ち悪いし、耳が痛い。
ただ、今日はホストとしつこいぐらい目が合うなぁと思った。
そして昴の予告通り1時限目から体育。
体操服を持って昴と一緒に更衣室へ向かった。
「真琴……あんまり大っぴらに脱ぐなよ」
「は?男だからどうって事ないだろ。逆に恥ずかしがってもじもじしてたらキモいじゃねぇか」
「そういう意味じゃなくて……もっと危機感持てって」
「何の危機感だよ」
「俺、言ったよな。この学校にはホモがいるって。狙われたらどうするんだよ」
「……、でも俺、お前みたいにかっこよくないし色気もない。だからそういう心配はない」
「俺がかっこ…!? いや、真琴は可愛いから…!」
「あ?誰が可愛いだと、こんにゃろ。ハンバーグを口の端につけたまま笑ってるお前の方が可愛いだろ」
「ば…っ、ほじくり返すなよ!つか真琴は見てて危なかっしいんだよ。まじで気をつけろって」
「はいはい、わかったよ昴ちゃん。いや、みっちゃんの方がいいかな」
「おい…!じゃあ俺はまこちゃんって呼んでやる」
「何だと…っ」
昴と痴話喧嘩をしながら、畳まれていた体操服を広げる。
すると、隠されていたものが顕わになった。
「な、何だこれ…」
白Tに黒いマジックでう○こマークが描かれている。
よく見ると上に着るジャージにも。
畳まれて気がつかなかったが、体操服にもイタズラされてたみたいだな。
「真琴、それ……」
「……」
迷ったが、それを着てみる事にした。
もぞもぞとTシャツに腕を通すと、昴が声を上げる。
「ばかやろ…っ、何で着てんだよ」
「何となく?」
更衣室の一角に鏡が置かれていたため、自分のその姿を見つめる。
「……まぁ、いっか」
「いいはずないだろ…!真琴、今すぐ脱げ」
昴が無理矢理俺のTシャツを剥ごうとしたため、身を捩らせる。
「ちょ、やめ…、ん…っ」
くすぐったくて思わず変な声を口から出してしまう。
すると昴の動きがぴたっと止まった。
「…っ、そんな声出すなよ……」
「は…?てか別に着てもいいだろ。
よく見ろ、このう○こ顔ついてるぞ。可愛いと思わないか」
「いや、そういう問題じゃねぇし!う○こは可愛くてもう○こだろ」
「何だそのう○この扱いは。う○こバカにするなし。食って出すって大事な事だろ」
「それはそうかもしれないけど…!あー、もうどうすればいいんだ…」
「……?」
そんなにこのTシャツを脱がせたいのか?
同じう○こマーク付きの上着を羽織ろうとすると、昴がそれを阻止した。
「…俺の上着のジャージ着て。それでそのTシャツのう○こ隠せよ」
「お前は上着どうすんだよ?」
「着ない。どうせバスケだし、着てても汗かく」
「…昴」
「いいから着て。つか着ろ」
一刀両断という感じで、昴がずばっと言い切る。
仕方なく昴の上着を借りてもぞもぞと着込んだ。
「何か…昴の匂い?っぽいのがする」
「え?臭い!?洗濯はしたんだけど…」
「いや、いい匂い」
そう言うと昴が顔を赤くしてふいっとそっぽを向く。
怒ってるのか照れてんのか分かんないな。
まぁ、そんなこんなで体育の授業が始まり、周りの人達の行動を見て真似て準備運動をする。
昴の言った通りバスケだったけど、やっていて何か新鮮に感じた。
だってボールをパスされるとき、「大崎」って呼ばれるし。
クラスメートにこんなに名前を呼ばれるのは久しぶりだな。
と、ちょっとほうけていたところ想定もしてなかった事が起きた。
「わ……っ」
足が何かにひっかかり、上手く受け身もできないままべちゃっと転んでしまう。
何と情けなくて無様なんだ、俺…。
誰も気がついてないと思ってたら、昴がすぐに近寄ってきてくれた。
「真琴…!大丈夫か?」
「え、うん………でっ…!」
嘘だろ…、足くじいたよ俺。
情けないのを通りこしてみっともないんだけど…!
「真琴…?」
「…んあ、ちょっと横で休む。早く試合に戻れよ」
そう言うと、昴が心配そうな表情でこちらをチラチラ振り返りながら試合に戻っていった。
何か俺…最近ツイてないな。
ていうか、さっき微妙に足をひっかけられた気がするんだが…気のせいだろうか。
自分のふがいなさに浸りながら、壁際に座り込み試合を見つめる。
あ、昴……何か楽しそう。
汗が似合ってるぞ。上手いな。
俺もあんな風になりたい。
ていうかあいつ、黙っていればすげーイケメンなのにどうしてこの学校に入ったんだ?
確かノンケって言ってたし…普通に共学にいけばよかったんじゃないか?
なんでこんなむさ苦しい男子校に入ったんだろ。
じーっと昴の動きを見ながらそんな事を考えていたら、試合中の昴と目が合った。
せっかくだからふっと笑いかけてみる。
すると昴がぴたっと動きを止めて顔を真っ赤に染めた。
……どうした、昴。
よそ見は危ないぞ。
「あだッ!?」
案の定、固まっていた昴の頭にボールがぶつかってきた。
うわ…、痛そう…。
俺、そんな不気味な表情で笑ってたか?
驚かせてしまって悪かった。
昴から視線を移し、試合中のクラスメートの顔を見ていく。
まず仲良くするには顔を覚えねぇとな…。
だがしかし、覚えるのはやっぱり苦手だ。
"興味がないから覚えられないんだろう"と真知先輩に言われたが…今は興味ある。
絶対クラスメートの顔と名前覚えてやんよ!…今年中には。
ていうか、大事な事忘れてた……。
屋上に行くにしても、いつ会うのか真知先輩と約束してないじゃないか。
昨日と同じ時間でいいのかな?
…あの先輩ちょっとだけ苦手だな。
口上手いから人をすぐからかうし、セクハラもしてくるし。
今朝だって……ぐぬぬ、思い出したらムカついてきた。
ワンコ先輩で癒されたからまだよかったが…。
今日もまた何を言われるやら。
今の内にキツイ言葉を受け止める心の準備をしておこう。
そう考えてたら、一瞬頭が真っ白になった。
「………~~痛うぅ…っ!」
俺の近くでころころと転がっているバスケットボール。
顔面にものすごい速さでぶつかってきた。
鼻を押さえていると、目の端に生理的な涙がじんわりと浮かぶ。
あまりの痛さに最初は声も出すことが出来ず、食いしばった歯の間からうめき声が漏れた。
まじで痛い…。
「ごめん、大丈夫?」
大丈夫なはずないだろこのやろう。
謝罪を口にした奴を見ようと、俺は顔を上げた。
「……!」
こいつ…教室で西條に足を引っかけたときの…。
女顔の小柄なそいつは、俺を見下ろすと口を開いた。
「保健室に連れてってあげる」
「いや、いらねぇから…ちょっ…!」
無理やり腕を引かれ、連行される。
人けのない廊下まできた頃、ようやくそいつが振り返った。
「…むかつく」
「は…?」
「ああいうことすれば少しは懲りると思ったのに……。なのに初日から三橋を従えるなんて」
「言ってる意味分からないんだけど。てか昴は友達だ。んな言い方するんじゃねぇよ」
何なんだ、こいつ。
「……僕だよ、机とかロッカーにイタズラしたの」
「は…まじ?ていうか何でそんな事…昨日恥をかかせたからか?」
「違う…!そんなくだらない事じゃない!」
「わ、悪ぃ」
じゃあ何故?
こいつとはその時以外対面してないはず。
目の前に立つそいつは急に黙り込むと、大きな瞳に涙を浮かべた。
そしてそのまま涙をぽろぽろとこぼしていく。
「何で…何であんたなの?……昨日来たばかりのくせに…っ」
「ご、ゴメン?」
思わず手を伸ばすがパシッと手を払われる。
「触んないで…!僕、今まで会長のためなら何だって頑張ってやってきた。キツイ雑用だって……。
それなのに昨日会っただけでキス?しかもその後の会長はあんたの話ばかり…」
「会長…?」
何となく話が読めてきた。
こいつ、会長の事が好き……なんだな、きっと。
それで昨日食堂であった事を怒ってる。
「俺は…会長に関わるつもりなんかこれっぽっちもなかった」
「知ってるよ…!だからって割り切れるものじゃない…っ」
「……」
どうすればいいんだ、こういう時は。
しゃくりあげてるそいつに対して俺は何もできず立ちすくむ。
「…っ、あんたなんかに分かるはずないよ。
好きな人を自分の手で幸せにできない事が…!
全てを懸けて捧げてる気持ちが報われない苦しさが分かるはずない……!」
涙をこぼしながら訴えてくるそいつの話に、俺は黙って耳を傾ける事しかできなかった。
──授業に身が入らない。
体育が終わって他の授業をしているときも、あいつの言葉が頭の中にこびりついて離れない。
どうしても目であいつを追ってしまう自分がいる。
「真琴」
「……」
「おい、真琴…!」
「…え?呼んだ?」
「一体どうしたんだよ」
昴がこちらを心配げな表情で見てくるが、気の利いた言葉が思いつかない。
「…何でもない」
「何かあったら言えよ。昼休みになったし、昼飯食いにいかねぇ?」
「いや…俺、今日昼飯食べない。お腹すいてないし……そこら辺ぶらぶらしてくる」
「…じゃあ俺も」
「俺に合わせなくていいから。つか悪ぃ、一人にさせて」
昴が何か言いたそうな顔をするが、席を立って教室を出る。
そしてそのまま屋上へ向かった。
……屋上の扉を開いたが、真知先輩の姿は見受けられない。
少しホッとすると手すりに寄りかかり、緩やかに吹く風にあたった。
「……」
あいつがあそこまで惚れ込む会長って…一体どんな奴なんだ?
言ってた事は何となく分かる。
俺も、旦那に好きな人がいるって聞いたとき少し苛ついてる自分がいた。
自分が知らない姿を、旦那がその人に見せてるって考えると悔しい。
あいつの場合はそれが恋愛感情で……きっとすげー苦しい気持ちなんだろな。
でもどうすればいい?俺は会長と関わりたくて関わってるわけじゃない。
今日食堂に行かなかったのも、会長と顔を合わせる機会を少しでも作りたくなかったから。
あいつは俺にどうしてほしいんだ?
泣き顔が目に焼きついている。
……俺はどうしたらいい?
「どうすりゃいいんだよ」
「……っ!?」
「みたいな顔してるねぇ。眉間にシワ、残ってしまうんじゃない?君、それでなくてもいつも眉ひそめてるんだから」
「…い、いつからそこに」
「2分くらい前かなぁ。考えてたみたいだから声かけるか迷ったけど」
斜め後ろに立っていた真知先輩はふっと微笑すると俺の方へ歩みよってきた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 63