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イジメって何?(8/14)
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「……先輩に関係ないじゃないですか。先輩が知らない人だし」
「関係なくはないよ。無理やりキスされたのかい?」
「…事故です」
はぐらかすようにボソボソと答え、少し冷めた紅茶を飲む。
丁度その時、ポケットに入れている携帯が震えた。
誰だよ…?
携帯を開き、番号を確認すると、知らない番号が目に映る。……出てみるか。
「……誰ですか?」
「俺」
「……」
オレオレ詐欺?
いや、声ですぐ誰かわかったけどさ。
「…自分の携帯はどうしたんですか、千尋さん」
「新しいのに替えなきゃならねぇな」
「…もう一つの携帯はどうしたんですか?」
「そっちもダメだ」
「……」
壊したのかな?それとも使えなくなったのやら…。
「分かりました、今度買うとき付き添います。今使ってる携帯は誰のですか?」
「宮城」
「はぁ…可哀想なので切りますね」
「切るな。本人だっていくらでも使っていいっつってんだ」
脅したんだよね、それ。
うん、きっとそうだ。
「でも俺、そろそろ教室に行かなきゃならないんで……学校から帰ったらこの番号に連絡します」
「……チッ」
「…あの、なんかすみません」
「忘れるなよ」
「は、はい……っぁ!?」
後ろから首筋をっーと撫でられ、頓狂な声を出してしまう。
振り向くと真知先輩がふっと笑って立っていた。
こんにゃろう……。
「……どうした、真琴」
「な、何でもないです。じゃあまた、その、後ほど…!」
旦那の返事を聞かないまま、電源ボタンを押して電話を切る。
「…先輩、何するんですか。止めてください」
千尋さんの前で恥かいたじゃないか。
「何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってません」
若干イラッとはしましたけど。
「ねぇ、もしかして…そのファーストキスの相手って男だったりする?」
真知先輩の言葉を聞いて、思わず咳き込んでしまう。
「ごほ…っ、はっ……?」
「へぇ……そうなんだ」
「え? 大崎くんはノンケじゃないんですか!?」
「事故だって言ったじゃないですか、副会長。ハラゲーロに降格しますよ」
みんなしてうるさいな。
ほっといてくれ。
本人だって忘れてほしいって思ってるだろうし。
……あのときの事故は、触れたらいけないっていう暗黙の了解が、俺と旦那の間にある。
千尋さんとのキスはカウントしないつもりだったけど、ファーストキスが副会長は嫌だし。
旦那には悪いけどカウントさせてもらおう…。
……あの頃、千尋さんと俺の間にはぎくしゃくとした空気が流れていて、ピリピリしていた。
“俺に近づくな”っていうオーラを感じたし。
でも突き放されると逆に追いたくなって、意地でも冷たい旦那にひっついた。
そんなとき、旦那が珍しく体調を崩して倒れて……看病しようとしたけど、もちろん拒絶されまくる。
旦那は口が悪いから、心折れそうだったな、そのときは。
「ほっとけ。邪魔だ、寝れねぇ」
「ね、寝ても大丈夫ですから」
「てめえみたいなガキの前でやすやすと気を休められるか。俺の前から消えろ」
「ぐ…っ、消えないし」
「…ガキが…っ」
高熱で意識がもうろうした旦那が腕を伸ばし、俺の胸ぐらを掴む。
きっと、脅しのつもりだったんだろう。
けど、寝込む旦那のそばに座っていた俺は、バランスを崩して旦那の上に覆い被さってしまった。
とっさにシーツに手をつくが、間に合わず唇が触れ合ってしまう。
…熱い。
まつげが触れ合う距離で、千尋さんの目が驚きで大きく見開いた。
気持ち悪いとかは思わない。ていうか思えなかった。
そのときの俺の中には恐怖しかなかったから。
殺されるんじゃないかとか、ぐるぐるした不安に襲われながら、キスしたままフリーズしてしまった。
今思うと、早く離れろよって感じだ。今の俺だったら、触れ合った瞬間に土下座して床に頭こすりつけてるよ。
「うぁ…」
と情けない声を出しながらおそるおそる身を起こすと、千尋さんはハッと我に返って罵声を浴びせる。
「て……めぇ…!」
「ひ…っ」
千尋さんがガバッと起き上がって俺の胸ぐらを掴む力を強める。
殴られる、と思って目をつぶると、体に重いものがのしかかってきた。
「へ……」
目を開けると、呼気を乱した千尋さんが気を失って俺に寄りかかっている。
「ち、千尋さん…っ」
呼びかけても反応しないから、布団の上によこたわらせた。
旦那が起きたとき、どうすればいいのか。
殴り殺されるかもしれない。
…逃げるか迷ったけど、結局逃げられなくて、旦那の側にいた。
そのくらい覚悟を固めていたのに、あの後起きた千尋さんは俺に何もしてこなかった。
なかったことにしているのか、もしくはキスしたときの意識が朦朧で覚えていないのか、それはわからないけど。
……俺、千尋さんにどのくらい近づけているんだろ…?
この前言われたことは正直嬉しすぎて一瞬天国に召されそうになった。
俺を必要としてくれてる……好きな人に必要とされるって、幸せなことだな。
「何でニヤニヤしているんですか、大崎くん?」
「え、ほんとですか」
やばいね、それ。
キモイじゃないか。
旦那、変な男子高校生(俺)に好かれて大変だな。
「…副会長、ご飯ありがとうございました。俺はこれで失礼します」
「え、もう行ってしまうのですか…!?」
立ち上がろうとする俺を、副会長が阻止しようとする。
すると、真知先輩が横から口を挟んできた。
「千鶴。君、真琴くんに構っているヒマあったら自分の仕事早く片付けてくれないかな」
「な、そう言う真知は…」
「僕と優はもう終わったよ。文化祭のこともあるんだし、早くたまっている書類片付けてくれないかな」
「文化祭……?」
ぽつりとつぶやくと、ワンコ先輩が教えてくれた。
「も……少しで、ある……から、忙し…」
「へ……まじですか?」
「ほんとだよ。君のクラスは……確か女装喫茶だったかなぁ?休んだらだめだよ、真琴くん」
「……!」
女装……だと?
う、裏方の仕事に回れば問題ないか。
絶対に女装なんてしたくないし。
あ、でも長沢の女装は見てみたい……かも。
「楽しみだなぁ、真琴くんの女装早く見たいよ」
「…絶対しませんから」
「しな…の?…見た…い」
「え"」
ワンコ先輩の頼みといえど、それはちょっと……。
「あ…真琴くん、メアド教えてよ。優にもあとで教えるから」
「あり……が…と」
「……」
教えること前提に話がすすんでいるし。
しぶしぶ赤外線でメアドを送ると、副会長が話しかけてきた。
「私にも教えてください…!」
「え……嫌です」
「な…!何故私だけ」
「何となく」
強いて言うなら、下心がまる見えだから。
あれ?それは真知先輩も同じか…?
「ちづ……おし…ごと」
「優の言う通りだね。
千鶴は今自分がするべきことをしたらどうだい?
あまりにも聞き分けがないと、また仕置きするよ」
「……」
生徒会って主従関係がはっきりしてるな。
真知先輩>ワンコ先輩>副会長……か?
バ会長はどうなのか分かんないけど。
「そ……それは…」
「お望みなら、またバ会長と一緒にでもいいよ?彼も今仕事をためている大バカ者だから」
「ま、真知は真琴くんが好きなんでしょう?
それなのによく他の人を抱けますね…!」
副会長が言い返すと、真知先輩がしばらく考えこむように顎に手を当てる。
そしてその後俺の方に視線を向けた。
「……そういうものなのかな。ねぇ、真琴くん」
「な、んですか、先輩」
先輩が真顔で声をかけてきたため、思わずつっかえてしまう。
「真琴くんは、好きな女の子がいるとき、他の女を抱ける?」
「…だ、抱けるわけないでしょう!」
「へぇ……真琴くんがそうなら、僕もそうするよ。他の人を抱いたり、寝たりしない」
真知先輩がそう言うと、ワンコ先輩は心配気に眉を下げ、副会長は控えめのトーンで口を挟んだ。
「真知……貴方は一人では寝れな…」
「うるさいよ。真琴くんを手に入れるためなら、そのくらい平気」
真知先輩はそう言いながらワンコ先輩の頭を撫でる。
「……僕は真琴くんが好きだから…」
「───……」
柔らかい微笑。
この人ってほんと綺麗な顔してるなぁ…。
……って、あれ……?
何でだろ…急に顔が熱く……っ、落ち着け、俺…!
男からの告白だぞ?しかも二度目の。
なんで今更恥ずかしくなるんだよ……!?
「え……嘘。真琴くん、照れてくれてるの?」
「ち、違っ!誤解です…!」
真知先輩が少し驚いた表情を浮かべながら俺の事をじっと見つめてくる。
他の二人の視線も感じたため、俺は慌てて床に視線を落として俯いた。
「……」
しばらくして顔をあげてみる。
う…っ、まだ三人とも俺を見ているではないか。
「…人の顔見ないでくれますか、先輩方」
「ご…め……」
「あ、ワンコ先輩は大丈夫です」
ワンコ先輩がしゅんとした顔で謝ってきたため、慌ててフォローする。
「見ないわけにはいかないよ。
やっぱり照れてる真琴くんは可愛いねぇ」
「そうですね…とても愛らしく見えてしまいます」
皆して俺をからかわないでほしい。
「屋上で告白したときは無反応だったから嬉しいな。
少しは僕のこと、意識してくれた…?」
「してません…!一生対象外です」
バンッと机を叩いて真知先輩に反論する。
「…真知が全力でフラれているところ、初めて見ました」
「何笑ってるの、千鶴?君なんかが真琴くんと結ばれる可能性なんてせいぜい原子レベルだろうね」
原子レベル…?
確かにそれは言えてるかもな。
はあ…この場にいると、ワンコ先輩が天使に見える。
今の唯一の癒しだよ…。
「俺、教室行きますね…」
「行…て……しゃい…」
「ありがとうございます、ワンコ先輩」
先輩に礼を言って立ち上がると、副会長がそれに気がついて声をかけてくる。
「大崎くん、できればまた手伝ってくださいね…!」
手伝い……?
あぁ、中庭の事か。
「……気が向いたらします」
「手伝い……?何それ」
「ま、真知には関係ないですよ…!」
隠す必要ないと思うけどな。
三人の視線を背中に感じながら生徒会室をあとにする。
「はぁ……」
廊下を歩きながら重いため息をつく。
転校して間もなく二人から告白……しかも男だし…。
これほど嬉しくないモテ期が来ようとは。
「──大崎?」
「……!」
後ろから急に声をかけられたため、びくっと肩を揺らしてしまう。
振り向くと、長沢が嬉しそうな顔をしながら駆け寄ってきた。
「やっぱり大崎だ…!おはよ」
「…ん、はよ」
相変わらずあれだね、可愛い…。
挨拶を返すと、長沢が少し眉を下げて腕あたりの制服をきゅっと掴んできた。
「あのね、昨日言い忘れたけど……クッキー渡すのに時間がちょっとかかるんだ。つくってる間、待っててくれないかな…?」
「あー…うん、教室で時間つぶすから大丈夫」
「…!ありがとう、大崎」
長沢は少し頬を赤く染めると、えへへという感じにはにかむ。
俺はそれを見て思わず頬を少し緩めてしまう。
…こいつにチ○コついてるって信じたくないな。
長沢の背、何かちょうどいいんだよな…抱きしめたくなる感じで。
もちろん、そんなことしないけど。
俺は女の子が好きだから。
まぁ、長沢が女であったとしても、俺みたいな奴が抱きしめる機会なんてあるわけない。
最近漫画で、平凡な男子生徒が可愛い女の子達にモテまくるみたいなのが増えてるけど、実際そんなことありえないし。
所詮イケメンしかモテないんだよ。
そうそう、あの廊下の先から歩いてくるイケメン達みたいな…………って、
「…!大崎っ」
「…真琴」
何だ、おまいらか。
昴も西條もイケメンだしな。
うらやましいよ、ほんと。
「だ、誰、あの人…?見た事ない…」
金髪に碧眼のイケメンにびびり、長沢が俺の腰あたりにしがみついて様子をうかがっている。
あれ、割と人見知り?
「…あいつ、西條だよ。あの黒マリモ」
「えぇ!? 嘘…!」
驚いた顔も可愛いな。
俺が長沢の顔をまじまじと見ていると、西條が小走りで俺に近づいてくる。
「大崎、何でまた俺を置いていくのさ!おかげで三橋なんかと一緒に来るはめになったじゃん」
「んー…とりあえずゴメン。てか“三橋なんか”とか言うな」
西條に注意したあと昴の方をちらっと見る。
すると一瞬バチッと目があったが、ふいっとそらされた。
え…………、え、え、何…、今の。
今…視線、ずらされた……?
す、昴くん、何故なんだ。
「…俺、先に教室行ってるから」
昴はそう言うと俺達の横を通りすぎて行ってしまう。
「あの…昨日はゴメンね…西條?」
「え?誰、あんた」
「西條が転校してきたとき、教室で足をひっかけたの、僕…」
「あぁ……逆にありがと。おかげで大崎の胸に寄りかかれたし、いい匂いも嗅げたから」
「え、どんな匂い…!?」
西條と長沢が何やら言葉を交わしあっているようだが、会話が耳に入ってこない。
昴のさっきのそっけない態度に、頭がいっぱいになってぐるぐるしてる。
「…悪ぃ、俺、先に行く…!」
二人の返事を聞かぬまま、昴が行ったあとを追いかける。
しばらくすると、その背中が見えてきた。
「昴!」
「……真琴」
昴はこちらを振り返るが、またすぐに目線をずらした。
「ちょっと待って、昴。俺、何かした…?」
「……別に」
昴は何か言いたげな表情をするが、俺に背を向けてしまう。
行くのを阻止するため、俺は昴の前に回りこんだ。
「昴……」
「…何でもないって。…ただの俺のわがままだから」
またもや俺の横を通りすぎようとする昴。
思わず、逃げられないようにするために、がしっと昴の胸に組みついた。
というよりは、抱きしめちゃってるよね、これ。
「……ッ、真琴…!?」
「ふん、気持ち悪いだろ。でも言うまで絶対にお前のこと離さないから。白状しろ…!」
「ち…ちょ…っ」
「転校してきて初めて、昴が俺に話しかけてくれたんだ。絶対にお前を失いたくない」
大事な友達。
昴にさっきみたいな態度をとられて、気がついてしまった。
俺、一人になるのが怖い。
最初は面倒だって思ってたのに……今はいなくてはならない存在。
そばにいてほしい。
「ま…真琴、離れ…っ」
「言うまで離れないって言っただろ。早く話せ」
俺だって、野郎に抱き着きたくなんかないから。恥さらしもんだよ、これ…!
プライド投げ出してまでこんな事してるんだから早く話したまえ。いやほんと切実に。
「昴、早く」
「…、…俺はこのままでいい」
「……え!?」
顔をあげると、昴が俺をじっと見つめてきた。
いやいや昴くん、何言ってるんだ君は。
…そ、そんなに俺に打ち明けたくないのか…?
お前、それでいいのか?やすやすと身を投げ出して……男じゃないのかよ。
「上等だ、こら。吐かないなら拳でやり合おうじゃないか」
一旦身を引いてから、昴の胸ぐらに掴みかかる。すると昴が驚いて目を見開いた。
「え!? 待って?ちょ、何で!?何でこんな展開になってんだよ…!?」
「根性叩きなおしてやる。お前チ○コついてんだろ?
なら簡単に身を投げだすんじゃねぇよバカ」
「いや、そういう意味じゃねぇーし…!
…好きだから!好きだから抱きしめられたままでいいって言ったんだよ!」
「……へ」
昴の発言に、胸ぐらを掴む力を緩める。
それと同時に昴がハッと我に返り、見る見る内に顔を真っ赤に染めていった。
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