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イジメって何?(9/14)
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「…いや、その…、違…っ」
「…………」
……好き?
昴がわたわたと焦る中、俺は昴の胸ぐらを掴んだまま、その言葉の意味を考えはじめる。
好き……いや、昴は違うって言ってるし、“love”じゃなくて“like”の方か…。
てかloveで考えること自体おかしいだろ。
なに先輩達に感化されちゃってんだよ、俺。
バカじゃねぇの。
「…ん、わかった。勘違いしてごめん」
昴の胸ぐらから手を離して謝る。
すると昴が少し曇った表情を浮かべた。
「…どうした?昴」
「いや…あのさ…。真琴は、俺がずっと友達でいてほしいと思ってる?」
「もちろん」
きっぱり答えると、昴がしょんぼりとした顔をした。
え……なにその表情…。
「…お前、ほんとは俺と友達でいること嫌なのか?もしかして、無理に付き合ってくれてた?」
「違う。無理になんて付き合ってない」
「ほんとか?…お前優しすぎるし…嫌なら嫌って言えよ…?」
「…嫌じゃない」
「じゃあなんでそんなに辛そうな顔してるんだよ…」
俺のせいで苦しんでる昴は見たくない。
なのに、俺はそんな昴を見ておろおろする事しかできない。
情けないな、俺は。
「伝えたくても言えねぇ…」
「え…?」
ぽつりとつぶやいた昴の言葉を聞きとろうとして身を乗り出す。
すると昴がそのまま俺の事をぎゅっと抱きしめてきた。
「…え……」
えっと、えっと、えっと……今、抱きしめ…られてる…よね…?俺……。 でも昴にとって、これは友情表現なんだよな? 俺はいくら好きな友達でも、野郎は抱きしめたくないけど。 抱きしめられ、昴の温もりと肩の微かな震えを感じた。 もしかして…泣いてる? そろそろと手を伸ばして、顔が見えない昴の頭を撫でてみる。 …昴がこんなに苦しんでる。 俺はどうしたいいんだろう。俺にできる事って、何? 長沢のときも、そうだった。 "自分が何をするべきなのか、自分に何ができるのかが分からない。" …無力だな、俺。
……しばらく経って、昴が抱擁をといた。
「昴……」
「…好きだよ、真琴。大好き」
「え…あ、うん、俺も」
「…へへっ」
俺の返事を聞き、目を赤くした昴が笑う。
……作り笑いだ。無理して笑ってる。
「行こっか、真琴。時間とっちゃってごめんな」
「…いや、…」
教室に行く道のりが、長く感じる。
無理して笑いかけてくる昴を見てると胸が苦しい。
俺がそうさせているんだと思えば、もっと…。
こんなうやむやした感じ、初めてだ。
「…昴は沢山の初めてをくれるんだな」
「え?」
「出会えてよかったってこと」
俺がそう言うと、昴は表情を和らげる。
が、すぐにしゅんとした表情に戻ってしまった。
う…っ、昴……。
教室に着いてからも、どこか放心状態の昴。
そしてそんな昴を穴が空くほど見つめる俺。
異様な空気を感じとったのか、長沢と西條が少し離れたところで俺達を見ていた。
西條……お前、何気に空気読める奴だよな。
二人の方をちらっと見たとき、ちょうど放送が鳴り響いた。
教室内がざわついていて放送の内容が聞こえなかったが、皆、談笑しながら次々と席を立つ。
「えっ、えっ」
おろおろしてると、昴がカタンと席を立って俺の腕を引いた。
「…全校集会。体育館に行こ」
「あ……なるほど」
昴の隣を歩き、体育館へ行く。
どうやら整列するときは背の高さではなく、自由らしい。俺の右隣に昴が並んだ。
…不意にマイクを通し、誰かの声が鳴り響く。
「おい、静かにしろ。お前らには俺様が立ってるのが見えねぇのかよ」
壇上に目を向けると、あの俺様何様バ会長様が立っているではないか。
うわー…とシラけた顔をしていると、沢山の黄色い声がキーンと鼓膜を貫いた。
「耳痛ぇっ…!」
「…大丈夫か?真琴。
集会は生徒会が取り仕切…っ」
昴の言葉を、更に大きくなった黄色い声が途中で遮る。
うるさいな。昴の話が聞こえないじゃないか。
今度は何なんだよ。
再びステージの方を見ると、生徒会メンバー全員がそこに集合していた。
「うぁ……」
みんな、個性的なオーラを放ってますな。
副会長は相変わらずツンツンしてるし、ワンコ先輩は何もないところをぼーっと見つめている。
ちなみに真知先輩は黄色い声をあげる生徒達に手を振ったり、サービス的な事をしていた。
完全にチャラ男キャラになってるよ…。
「……黙れって言ってんだろーが。黙らないと唇でお前らの口塞ぐぞ」
いやいや、反対に喜びそうな事言ってどうするんだし。やっぱりバカなんだな。
…結局、体育館が静まり返ったのは10分くらい経ってからだった。
毎回こんな感じなのか?
もしそうなら大変だな。
会長がマイクを片手に持ってうんたらかんたら話をしてるが、俺はちらちら昴の横顔を盗み見る。
切なげな昴の表情。
何か抱きしめたくなるような、そんな顔をしている……って、何言ってんだ、俺は。
明らかに思考回路が捩曲がってきている。
こんな数日間で侵食されてしまうとは……。
ど…どうしよう。
半年後、男を好きになってたりしたらどうしよう。
何とおぞましい。
正直に言えば、今の自分を保てる自信があまりない。
旦那、助けてくだせえ…!
「……真琴、大丈夫?」
「お、おう」
息を乱して胸に手を当てる俺を見て、昴が心配そうな顔をする。
心配させてどうする、しっかりしろよ俺。
…………よし。
俺は絶対に男を好きになんかならない。
心の中で志を固める。
その後、また昴の横顔をちらちら見始めた。
……やっぱりかっこいいよなぁ、昴は。
昴にも親衛隊あるんじゃないか…?
だって、かっこいいだけじゃなくて優しいし。
……ん?あれ?
しんみりした昴の表情を見て何バカなこと考えてるんだし。
別に見とれてたわけではない。断じて違う。
俺、一度見たらじっと凝視しちゃう癖があるんだよな。
旦那の横顔もしょっちゅう見てしまう。
知られたら絶対キモイって言われるな。
昴の横顔は旦那みたいにほりは深くないけど、すらっとしてて綺麗。
「おい。一年B組の大崎 真琴」
「───!…えっ」
壇上の方を見ると、会長が鋭い目つきで俺を見ていた。
な、何……?てか今俺の名前……?
「なに隣の奴の顔をずっと見つめてやがる。
俺様が話してるのにいい度胸してるな」
「……っ!」
「へ…?」
昴が顔を赤くして俺を見る。
それに加え、会長の視線を追って全校生徒が俺の方を見てきた。
初めてだ、こんなに沢山の視線に晒されるのは。
視線がものすごく痛い!そして恥ずかしい…!
あんにゃろー…。
あのバ会長、よくも…っ。
見下ろしてるあの顔をめった刺しにしてけちょんけちょんにしてやりたい。
あまりの恥ずかしさに耐え切れず、歯を食いしばって俯く。
すると、騒つく体育館に突如誰かの声が響き渡った。
「てめぇら、あいつが言った事聞こえなかったのか?
話をしてる奴の顔を見ろって言っただろ。野次馬になってねぇでステージの方を見ろ」
声のした方を見ると、あのホスト教師が眉間にシワを寄せて声を張り上げていた。
ホストのおかげで、皆ざわつきながらも俺から視線を外していく。
た、助かった…。少し涙腺が緩みかけたぞ。
ちらっとホストの方を盗み見ると、バチッと目が合った。
…ん?
口をぱくぱく動かしていたから、じっと見つめる。
……多分、"バカやろう"って言ってる。
でも助かったから、へにゃりと笑いかけておいた。…ため息ついてふいっと目を逸らされたけど。
何かドキドキしたものが込み上げてきたから、しばらく口を結んで俯いた。
──集会中は、たびたび会長と目が合った。
あの人、ずっと俺に監視の目を向けてる。
絶対俺が舌をかじった事を根に持ってるな……。
怒りたいのは俺の方だっつーの。
きっと、一生あなたの血の味のキスは忘れられません。
……集会の内容は学園祭の事についてだった。
真知先輩は途中で会長からマイクを受け取り、予算について記載してある紙の内容を読みあげていた。が、途中で「めんどくさいなぁ」と言って副会長に押し付ける。
マイクを通して、副会長と先輩の言い合いがよーく聞こえた。
「千鶴、代わって」
「何で私が…!」
「だって君、暇でしょ?ただそこに突っ立っているだけだしね。
優は立っているだけで癒しになるかもしれないけど、君は邪魔者でしかないよ」
「な、私を侮辱するのですか…!」
「してないよ。それに、滑舌が良い君には適任じゃないかなぁ?こういうのは」
「……ふん、仕方ありませんね。滑舌の悪い真知に代わり、私が読みあげましょう」
「ふふ、頼りにしてるよ」
副会長、褒められてあっさり引き受けちゃったよ。ばかだなぁ……。
副会長にぜひ見てほしい。
真知先輩が今あなたの後ろで浮かべている含み笑いを。
いつもあんな風に丸めこまれてるんだろうな…。何だか少しだけ可哀想に思えてしまう。
……む、また会長と目が合った。
ギロッと睨むと、あちらも負けじと睨み返してくる。
会長の顔……よくよく見てみると、ホストと似ている気が…いや、気のせいか。
昴のことは気になったけど、さっきの出来事があったから見ないようにした。
「──昴、あの、さっきはさ、その」
集会が終わり、真っ先に昴の方を見て弁解しようとする。
「俺の顔に…ゴミでもついてた?」
「え…いや、あ、うん」
「そっか…」
嘘ついてゴメン、昴。
本当は用も無いのに見つめていた…なんてことを白状する勇気、俺にはない。
昨日といい今日といい、集中して授業を受けられねぇな…。
見ないように気をつけていても、ちらちらと昴を盗み見てしまう自分がいる。
…やっぱり元気がない…。
昼休みになり、昴と西條と、今日は長沢も一緒に食堂へ向かった。
そしてまたもやハンバーグを注文する昴。
そんなに美味いのか?
という事で西條と約束した奢りの分として、俺もハンバーグを注文。
「……」
「…大崎、三橋と何かあったの…?」
「長沢…いや」
長沢の方を向いてると、西條が昴に話しかけてるのが目の端に映った。
「三橋、俺のオムライス食べる?」
「…いらない」
「ふーん、そう…」
西條は少しだけ落ちこんだ表情を浮かべ、オムライスを黙々と食べ始める。
西條は西條なりに、元気のない昴を励まそうとしたんだな。よし……俺も西條を見習って、
「…俺のハンバーグ、食べるか?昴」
「うん。真琴のは食べる」
「……!? 何で俺のは…」
このやり取りがさらに西條を傷つけた事を、俺は知らない。
……もぐもぐとハンバーグを頬張る昴を横目で観察する。
好きなものを食べてるときは幸せそうな顔するんだな…よかった。
頬を少し緩めて眺めてると、突然ポケットに入れていた携帯が震え出した。
「……む」
「どうしたの、大崎?」
「メールが…、…っ」
長沢……お前…エロい。
フライドポテトを食べてるとき、指についた塩をちゅっと舐めとる仕種が。
「……どうしたの?」
「えっ…あ、いや……」
慌てて目を逸らす。
一瞬でも釘付けなってしまった自分を殴り倒したい。
ため息をついて、送られてきたメールを開く。
From: 黒滝 真知
sub : お誘い
───────────
今日も屋上で待ってるねぇ
来ないと
「……」
“来ないと”の続き…何?
行かないと何されるんだよ。
これ、誘いじゃなくて脅迫じゃないか?
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