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イジメって何?(10/14)
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「……俺、ちょっと先に…」
席を外そうとすると、昴が怪訝そうな顔で見てくる。
「……どこ行くんだ?」
「え…っと」
屋上の事は話したらまずい。
また俺は昴に嘘をつかなきゃならないのか…?
「……図書室。長沢からクッキー貰う約束してるから、放課後そこで待とうかな、と思って。だから下見に行ってくる」
「……そっか。気をつけてな」
「あぁ、じゃあまたあとで。…長沢も」
「うんっ」
背を向けようとすると、口の端にケチャップ米をつけた西條がひしっと袖の裾を掴んできた。
何だよ、一体。
「大崎、俺には?」
「あぁ?あぁ……じゃあな、西條」
「今の二段階のあぁって何?まさか俺のこと忘れてたんじゃないよな…?」
「忘れるかよ、お前みたいなイケメン」
「え……?」
え?はこっちのセリフなんだが。何で顔赤くするんだよ。
お前がイケメンすぎるから、今俺は惨めな気分だ。西條は変装をやめてるから、みんなの視線を独り占め状態。
当然、そばにいる俺もその視線に晒されるわけで……。
落ちついて食事ができやしない。
しかも時々「何で普通っぽい奴と一緒に……」とか「あの人がもったいない」みたいなのが聞こえてくるし。
知ってるよ、そんなこと。
西條と昴はイケメン、長沢はめちゃくちゃ可愛い。
そして何の取り柄もない俺。
だから少しだけ真知先輩の誘いに救われた自分がいた。
……屋上の扉を開く。
すると、レモンティーを飲みながら手すりに寄りかかる真知先輩の姿が目に映った。
「先輩……」
「あ、来てくれたんだ?」
「だって来いって…脅されたし……」
「ふふ、僕がいつ君を脅したって言うのかなぁ。証拠は?」
「ない…ですけど」
「そうだよねぇ」
むか…っ。
相変わらずの話術だな。
ちょっとイラッとする。
この人、ほんとに俺の事好きなのかな…。
「別に用はないんだけどね。何となくで呼び出してみたんだ」
「……」
ノープランかよ。
「まぁ、とにかく座って。お話しようよ」
「はぁ…。あの、もう少し離れていただけませんか」
座ったがあまりにも近くに先輩が腰を下ろしてきたため、尻を動かして距離をとる。
すると、先輩がクスッと苦笑した。
「……手厳しいなぁ」
「……」
「まぁ、真琴くんが嫌なら我慢するよ。…ね、何を話そうか?」
「急に言われても……」
困ります。
ボソボソと言葉を返すと、先輩が笑いかけてきた。
「なら、僕が決めていいよね。そうだなぁ……今日は真琴くんを質問攻めしよう」
「……」
勝手に決められたし…。
誰も答えるって言ってないのに。
「真琴くん、前に愛してる人がいるって言ったよね。それ、どんな人?」
「愛……っ!?」
俺、そんな事言ったか?
ん……あぁ…。旦那の事か。
LikeかLoveかを聞かれたときに、LikeでもLoveでもないな。
って思ったから「愛してるんじゃないですかね」って言ったんだっけ?
「…黙っていないで教えてくれないかなぁ。女?男?」
「え、男」
「そっか…。なら僕にも十分チャンスはあるってこと?」
「いや、違いますから…。愛していても、俺はその人に対して真知先輩みたいな感情は抱いてませんから」
「その人の職業は?」
「……」
答えずにズボンについていたホコリを手ではらう。
「あはは、聞くなって事かなぁ。歳は?」
……何歳だったっけ?確か……、
「……24」
「24歳?わぉ……犯罪チック。君、今15歳だよね?」
「…何で犯罪?それがどうしたんですか」
俺が眉をしかめると、真知先輩が俺の方を見ずに言葉を返してきた。
「その人が真琴くんに手を出そうとしてるなら、ものすごく固い決心をしたんだろうね」
「……千尋さんはそんな人じゃありません。やめて下さい」
「そうとは限らないよ。本人から聞かないうちは、真実は分からない」
「…好きな女性がいるって聞きました」
「君が勘違いしてるだけじゃないかなぁ。
その人を応援するつもりはないから教えないけど。
でも、ライバルは沢山いたほうがオトしがいがあるかな」
…どういう意味ですか。話についていけない。
「真琴くんは沢山の人に好かれてるんだね。君に恋愛感情を抱いてる人は、僕と副会長以外にもいるよ」
「……は?」
「その24歳の彼もきっと…ね」
「千尋さんは、違います! 一緒にすんな!!」
思わず真知先輩の胸ぐらをガッと掴む。
が、すぐに我に返って力を緩めた。
「……ゴメンね、真琴くん。…まさか泣くとは思わなかった」
「え……」
言われてから、自分の頬を流れる涙に気がつく。うわ……最悪だ。
ごしごしと目をこすると、隣に座る真知先輩が少し寂しげな表情でつぶやいた。
「少しの泥を塗られただけでそんなに怒るんだね。
……本当にうらやましいな、その人」
泥を塗られる…確かに今は正直イラついた。
てか、何で泣いたんだ、俺。
…自分で思ってたよりも、旦那に依存してるのかもしれない。
何か…女々しくてねちねちしてる感じで嫌だな。
ダメなときは、叱ってくれる。
たまに、褒めてくれる。
それが嬉しい。
これは依存なのか?
それとも兄貴みたいだと思ってるだけ?
前はただ憧れていただけなのに。
「……あっ、てかその…ごめんなさい、先輩…。胸ぐら掴んだりして」
「君は謝る必要ないよ。……本当に泣かせてゴメンね」
「そ、その事は…忘れてください…」
恥ずかしいし…情けない。
てか俺自身、涙出たことにびっくりした…。
「僕も……僕のために泣いてくれる人がほしいな。
愛されてる証がほしい」
「…証?」
「うん。僕のために怒ってくれて、泣いてくれて、笑ってくれる。
そんな人がいれば寂しいなんて思う事はない」
横顔、切ないな…。
今は寂しいって言ってるように聞こえる。
「…普通にいるんじゃないんですか?ワンコ先輩とか…」
「優は…そうだね。きっとあの子は僕のために泣いてくれるよ。
でも優はみんなのものだろう?
僕は、僕だけの、愛しあう人がほしいんだ」
「…先輩は本気で惚れた人がいると絶対浮気しなそうですね」
「なに他人事みたいに言ってるんだい?
君の事を指してるんだよ、真琴くん」
「え」
先輩の言葉に思わず顔が引き攣る。
するとやれやれと大きなため息をつかれた。
「君、少しは意識しなよ。僕は君に対してこんなにも情熱的な気持ちを抱いているのに」
「だって……先輩みたいな人が何で俺なんかを…」
「そんな消極的にならないで。君はとても魅力的だよ…中身が」
「……」
中身ですか。
でも俺、中身もすかすかな奴なんですけど。
「真琴くんはね……心は灰色だけど、綺麗だよ」
「灰色ってなんですか。どうせなら黒にしてください」
逆に中途半端で傷つきます。
しかも濁ってるのに綺麗って、矛盾してるじゃないか。
「君はね、まっすぐなんだよ。嫌な事は嫌って遠慮せず表情に出す。
けど自分勝手ではなくて、他人の事もちゃんと想っている。
この両立って、難しいことだと思うよ」
「……過大評価しすぎです…。
俺なんか、ただのそこら辺の青いガキですから…」
「ふふ、でも僕はそんな君に惚れたんだ。
真琴くんが自分を否定すると、僕の思考をも否定する事になるよ」
「ぐ…っ」
俺が反発できずにいると、先輩が俺に接近してきた。
「近…いです、ちょっと…!」
キス直前のような距離に、俺が思わず後ずさろうとする。
すると真知先輩が苦笑した。
「無理に君の嫌がる事はしないよ。僕の君に対する愛に誓って」
「……っ」
よくもまあ、そんなキザな事を言えるな。
しかもそういうセリフが似合ってるのも、何か…その…むかつく(が、少々うらやましい)。
先輩が少し視線を落とし、床につけてる俺の手を握った。
「な……っ」
視線をそらそうとするとすると、途中で先輩の大きく開かれたシャツの胸板に目がいった。
……何かエロい。肌も綺麗で妙に艶めかしい。
この人、ほんとに日本人か…?
「どこ見てるの、真琴くん」
「……へ…!? いや、その…っ」
「焦る顔も可愛いねぇ、真琴くんは」
「は?ばかにすんな…じゃなくて、ばかにしないでください」
「ばかになんてしないよ。愛おしんでいるんだ」
「……」
愛おしむって言葉、久しぶりに聞いたな。
何で気恥ずかしいことを平然と言えるんだし。
旦那といい勝負だよ、まったく。
「ねぇ、真琴くん。君、よく平然とした態度でいられるな…とか思ってるだろう?僕のこと」
「え…っ」
心を読まれたかと思った。
「好きなのにどうしてそんな態度でいられるんだよ。とか、ほんとに好きなのか?…って思ってそうだね」
「……」
図星すぎる。
確かにそう思っていますが、何か。
「僕が恥ずかしがっていたら、格好がつかないだろう?
今、本当はすごいどきどきしてる」
「はぁ…」
「何その、ほんとか?みたいな顔。疑うなら確かめてみなよ、ほら」
先輩は触れていた俺の手を掴むと、自分の胸元へ持っていく。
「ち、ちょ…っ」
「……」
手のひらに感じる、先輩の温かい体温と鼓動。
「……ね、早いだろう?
大好きな君が近くにいるから、こんなに胸がうるさくなるんだよ」
「……っ」
な ん か ものっそい恥ずかしい…!
何かを大空に向かって叫びたい。
じゃないと、どうにかなりそうだ。
やべ、俺まで心臓がばっくんしばっくんしてきた。動悸やべえ。
「…あは、真琴くん顔真っ赤」
「……!」
あんたがそういう事するからでしょーが…!
ほんと最悪だ。
「どいて下さい、俺、教室戻ります…!」
「待ってよ。君、何か悩んでるんじゃないのかい?」
「……え?」
先輩の言葉に、思わず振り返る。
「ここに来たとき。眉間のシワ。酷かったよ」
「……元からです」
「あはは、確かにそうだねぇ」
そこは否定して欲しかったな。
立ち上がりかけた俺の腕を真知先輩が引き、無理やり座らされる。
「でもそれとは違う感じだったよ。
ねぇ、何に悩んでいるの?」
「悩んでなんか…」
「聞いてもらうだけでも楽になると思うなぁ。話してみなよ」
「聞いてもらう義理はないし、…それに」
「なぁに?」
「少し情けない気持ちになります」
目を逸らしながら答えると、真知先輩がため息をついた。
「君、けっこうプライド高いよねぇ。特に男としての」
「…すみません」
「例えば、目の前に助けてほしいと君に頼ってきている人がいる。
君はその困ってる人を情けないと思うかい?」
「そんなわけ…!」
「ないよね。そう思ってるなら僕に話してごらんよ」
「う……」
また上手く丸め込まれた。
この人には一生口で勝てない気がする…。
仕方ない。
小さくため息をついてから、口を開いた。
「……友達のことで」
「あれ、新しい話なんだ?僕、てっきりチワワくんの話だと思ってたんだけどなぁ」
「長沢は……友達です」
「……君、どんな魔法使ったの?怖い子だな、真琴くんは」
「はぁ…魔法って何ですか?俺、怖い奴ではないです」
そして、真知先輩みたいに“ある意味”怖い奴でもない。
「そうだねぇ。真琴くんを一言で表すなら…。
完全にいい子ではないんだよね、君。
そこそこいい子?ってところかな。そこそこね」
「……」
そこそこって二回も言われた。
遠慮なくけなしてくるな、この人。
…ほんとに俺の事、好きなのか?
鼓動の早さだけでは信憑性ないしな。
この人が赤面したら、少しは信じられるけど。
顔色一つ変えないもんな、先輩は…。
「話ずれちゃったねぇ。それで、その友達って誰?」
「…昴」
「あぁ、三橋くんね。…へぇ」
先輩はそう言うと、あごに手を当てて考えはじめる。
「…何となく、予想できるなぁ」
「え?」
「告白できなくて悩んでるのかな、彼。…きっとそんなところだね」
「告白……?そういや……言いたくても言えないみたいな事言ってたような」
「ふふ、そうなんだ?
友達は大変だねぇ。僕は君との間にそんな大きな壁はないから楽だけど」
「……?」
意味分からん。
先輩はたまに難しいことを言ってる気がする。
今、チャラ男って雰囲気ゼロだぞ。
「それで、君はどうしたいの?」
「……多分、俺のせいで昴はあんなに元気ないと思うんです。何とかしたい。
けど、俺に何ができるのか分からなくて…」
「君には何もできないよ」
「な…っ」
思わずカチンときたが、ぐっとこらえて聞き返す。
「何で決めつけるんですか」
「この事で君が責任を感じる必要もないと思うよ?君には彼を救えないね」
「どうしてですか…!」
「例えば……君、昴くんに“誰かを殺せ”と言われたら殺せる?」
「…無理…です」
「そうだよね。
いくら大事な友達でも、君には彼の願いを受け入れられないこともある。
……今回の件は、それと似たような事だから」
「……」
少し納得できるような、できないような…。
でも…歯がゆい。
指をくわえて見てる事しかできないなんて悔しい。
「そんな顔しないで、真琴くん。
……三橋くんを助ける義理はないんだけどなぁ。仕方ないね、一肌脱ごうか」
「…え?」
俺が聞き返すと先輩がふっと笑いかけてくる。
「真琴くんのためだもの。三橋くんに説教してみるよ」
「説教…?イジメるんじゃないですよね?」
「違うよ。助言という意味での説教。…きっと強敵になるだろうな、彼」
「……?」
俺が眉をしかめながら先輩を見つめ返すと、苦笑された。
「分からなくていいよ。というより、分からないで。ライバルを応援なんて本当はしたくないんだから」
「…はぁ」
「この報酬はねぇ…」
「報酬って……何かあげなきゃならないんですか」
「うん。
…これからもこんな風に僕を頼るって約束して?」
真知先輩はそう言い、ふっと微笑んだ。
……昼休みの終わりのチャイムが鳴ったため、先輩に別れを告げて急いで教室へ向かう。
席につくとぼーっとしていた昴が俺に気がついて、教科書を見せるために机をくっつけてきた。
…こういうとき、ページをめくる作業を自分がやるべきなのか迷う。
めくろうとしたら昴もめくろうとしていて、指がちょんって触れあうときがあるからだ。
「「あ……」」
みたいな。
この指ちょん、けっこう気まずい。
初めから気まずい状態なのにさらに気まずさが加わって、つらい。
午後の授業の二時間分、ずっとそんな空気にたえ続ける。
そんな授業が終わって一安心したかと思えば、
「おい、真琴。ちょっと着いてこい」
ホスト教師に呼ばれた。
朝の集会のことでの説教か…?
「…なぁ昴、お前このまま帰るのか?」
「……真琴は?」
「ホストと話したあと、図書室で時間つぶす」
「…なら図書室で待ってる」
「さんきゅ」
昴に軽く笑いかけ、教室を出ていったホストのあとを急いで追いかける。
ホストはある部屋の前まで来ると、がらっと戸を開けて俺の背中を押した。
「テキトーに腰かけてろ」
「はぁ…」
小さな個室にはソファーとテーブル、それと、沢山の資料が並べられている棚があった。
「…ここどこですか?」
「進路相談室みたいな場所だ。コーヒーと紅茶、どっち飲む?」
「こ、コーヒーで…」
ホストはインスタントコーヒーを作ると、俺にカップを渡して聞いてくる。
「お前、三橋と何かあったのか?」
「え?い…いや、その」
「気まずそうに見えたからな。この前の嫌がらせの件はどうなった?」
「それは…もう大丈夫です」
「そうか」
ホストはそう言うとポケットからタバコを取りだす。
その動作を見てがたっと立ち上がると、ホストが怪訝そうな顔で見てきた。
「何だ?」
「いや…あの…、はは」
条件反射だ…。
旦那がタバコをくわえると、俺が持ってるライターで火をつける。
癖で思わず、火をつけようと立ち上がってしまった。
旦那には……一度「吸わないでほしい」と頼んだけど…禁煙してから苛々でキレやすくなった。
周りが怖がるから、「やっぱり吸っていいです」って言ったけど。
……でも、できることならあまり吸ってほしくない。
タバコが原因で旦那が病気になったりでもしたら…きっと俺、全力で止めなかった事を後悔するだろうな。
そんな気持ちがあるせいか、タバコに火をつけるホストを複雑な思いで見てしまう。
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