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イジメって何?(12/14)
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「馬鹿か。俺は女しか好きにならねぇよ。…基本」
……基本?それ一体どういう意味。
「先生は…大人の女性とか似合いそうですね」
ボンキュッボン…みたいな感じの女性。
俺がそう言うと、ホストが嘆息した。
「…一々かっこつけるのに疲れんだよ。俺は色気より癒しがほしい」
「へぇー…俺もそんな女性が好きです」
「は?…お前自身、癒し系だろ。癒し系が二人そろってどうすんだよ」
「いや、俺のどこが癒し系なんですか?」
いつもしかめっつらしてる奴のどこが。
俺の問いにホストはしばらく唸って虚空を見つめた後、一言で返してきた。
「……どこだろうな」
「…分からないなら言わないでください。テキトーな人だな」
俺が冷たい目でホストを見ると、ムッとした表情をされた。
「テキトーじゃねぇよ。上手く言葉にできねぇだけだ」
「んー…じゃあ行動で示してください」
と返したら、ホストが突然俺の腕を引いて抱きしめてくる。
いきなりのことで何も言えず、一瞬頭が真っ白になった。
「え…っ、え?あの…何…ですか……?」
「お前が行動で示せって言ったんだろうが。
お前は…そうだな、思わず抱き寄せたくなる。そんな癒しを持ってるな」
「は…?て、てかあのもう分かりましたから…!離してください」
俺がホストの肩をぐいぐい押すと、ホストがゆっくり身をひいていく。
何か……キモいなと思った。
ホストが…ではなく、抱きしめられたときの自分の感想が。
抱きしめられて…………安心してしまった自分がいた。
温もりに包まれて……一瞬だけ頼りたい、身を預けたいような感覚に陥ってしまった。
キモい。キモいな。
男なのに男に頼ってどうすんだよ。
しっかりしろ、俺。いやほんとまじで。お前一体どうしたんだよ、真琴……!
「何縮こまってるんだよ」
「へ…っ?あ、いや、その…」
「何か……お前、顔赤くねぇ?照れてるのか、抱きしめられて」
「ち…、違います」
「可愛いな、初々しくて」
「だ か ら 違います…!」
俺の肩に腕を回しニヤッと笑ってからかうホスト。
違うし。絶対違うから…!断じて照れてなんかない。
あぁもう、ホストムカつく。
その整った顔に拳を一発ブチこみたい。
「…てかあの、もう帰っていいですか」
「そうだな…政司と話がついたことだし。でももうちょい付き合え」
「嫌です」
きっぱりと断って立ち上がると、ホストはフッと笑うだけで引き止めようとはしない。
でも、部屋から出ていこうと扉に手をかけたときに声をかけられた。
「明日の授業、抜き打ちテストするからな。復習しとけ」
「……げっ」
「お前はそこそこ大丈夫だろ。…三橋に教えといてやれ、あいつバカだからな」
「……はい」
昴……数学苦手なのか…?
頷いて出ていこうと思ったけど、少し心残りなことがあったから振り返る。
「……あの」
「なんだ」
「…先生、わりと責任感強そうだし溜め込んだりするほうなんじゃないですか…?」
「……」
「俺の知り合いにもそんな人がいて……心配かけさせたくないって、自分の中に抱えこんで。
でもそんなことされると逆に苦しいし、心配になります。
…だから、その…無理だけはしないでください。よ、余計なお世話だと思いますけど」
「そうだな」
「う……っ」
少し恥ずかしくなって、こそこそとその場を去ろうとする。
そんな俺をホストが呼びとめた。
「真琴」
「はい…?」
「……心配してくれてありがとな」
ホストはそう言うと頬を少し緩める。
いつもと違う雰囲気の笑顔に胸がドキッとした。
「失礼しました…」
ぴしゃんと戸を閉め、廊下を早足で歩いていく。ドキッって何?乙女ですか?
いやいや…多分、ホストの大人の雰囲気に惹かれただけだ。ほら、旦那と同じ……って、あ。
「旦那に電話しないと……」
完全に忘れてしまっていた。
急いで携帯を取り出すが、ボタンを押す手を止めてしまう。
……昴と西條を図書館で待たせている。
旦那との電話は…長くなりそうだしな…寮に帰ってからでもいいか。
俺は迷いながらも開いていた携帯を閉じ、ポケットの中にしまいなおした。
少しくらい……いいよね?
旦那とはなるべく長く話したいし……何より、ちょっと昴のことが心配だ。
……会ったらまず最初に何を話したらいいのだろうか。
「……お、おっす…」
最終的に導きだした答えがこれだった。
声が若干上擦ったが気にしない。気にしたら負けだ。
「……真琴」
「大崎…!お帰りっ」
「た、ただいま…?」
昴達は、入口から離れた端のほうの席に座っていた。
ちょっと離れたところの席には、生徒達が何人かで集まり西條の事をちらちらと見ている。
「西條、お前モテモテだな」
「大崎以外はどうでもいい」
「……」
反応に困ったから、椅子に座っている西條の足の甲をギュムッと踏みつけてみた。
「痛……っ!」
「だろうな」
「…え…う、うん。大崎に踏まれるなら俺、嬉しい。もっと踏んで?」
「…………」
体中にぞわわっとした何かが駆け回る。
鳥肌やべえ。
そういやこいつドMだったな。
すっかり忘れてた。
とりあえず西條の足を踏みつけから解放した。
そして西條の向かい側の席に座っていた昴の隣にドサッと腰を下ろす。
すると、昴が顔を真っ赤にして体をびくつかせた。
「……?どうした?」
「な、何でもねぇ…」
昴はそう言うと顔を真っ赤にしたまま俯く。
俺がそんな昴を不思議そうに見つめてると、ポケットに入れている携帯のバイブが鳴った。
「……?」
一通のメール。
From: 黒滝 真知
sub : (non title)
──────────────
今どこにいるの?
「……?」
“昴達と図書室にいます”と送りかえすと、“へぇ”という2文字が返ってきた。
先輩、一体何をしたかったんだろう?
……その答えは、数分後分かることになる。
「…ホストが、明日テストやるって言ってた」
「え……まじかよ…。俺ぜってぇ再テストだ…」
「……俺、教えんの下手くそだけど、手伝うから。な?」
「真琴…」
昴が嬉しそうな顔で俺を見つめる。
俺も少し頬をゆるめて見つめかえすと、向かい側にいる西條が騒ぎ始めた。
「大崎、俺も…!」
「お前、ちゃんとテスト勉強やる気あんの?」
「うん…!大崎が教えてくれるなら、集中してやる。でも、できれば勉強より大切な事を教えてほしい」
西條はそう言うと口角を妖艶にあげ、俺を見つめてくる。
すると昴がばんっと机を叩いた。
「おい、抜け駆けすんな…!させるかよ、んなうらやましいこと……じゃなくて、真琴に変なこと吹き込むな!」
「二人一緒に教えてもらえばすむ話じゃん。
まぁ、教えてもらうより俺が大崎に色んな事を教えたいけど」
「西條……!」
「おい、二人ともうるさい。図書室では静かにしろよ」
白熱しあっている二人に注意を促す。
が、次の瞬間、二人のケンカする声を上回る歓声が鳴り響いた。
「うるせ…っ」
きゃあぁという野郎の少し低い黄色い声。
相変わらず気持ち悪い。
顔をしかめながら声のする方を見る。
……振り返って、思わず目ん玉がポーンと飛びだしそうになった。
「な……っ」
真知先輩……が、図書室にいる生徒達に愛想を振りまいている。
にこにこ笑いながら騒ぎ立てる生徒に手を振り、こちらに近づいてきていた。
い、一体何の用……?
「……ねぇ」
真知先輩が俺の近くで足を止める。
…が、先輩が話しかけたのは隣に座る昴だった。
「黒滝先輩…何の用っすか?」
「僕、三橋くんと話がしたいんだけどなぁ」
「……俺は先輩と話すことは何もないですけど」
昴がそっけない態度をとると、真知先輩が薄い笑みを浮かべて昴の耳元で囁いた。
「今、君の心の中で一番占めているモノについて話がしたいんだよ」
「……!」
話してる内容は聞こえないが、昴が先輩の言葉にピクッと反応する。
「…同行してもらえないなら……君の真琴くんへの気持ち、ここでばらしちゃおうかなぁ?」
「……っ」
「僕は逃げも隠れもしないよ。……一緒に来てもらえるよね?」
会話の内容を昴の表情から読みとろうとするが全く分からない。
けど、昴は決心を固めたような表情で真知先輩を見ていた。
そんな昴を見て真知先輩はクスッと笑うと、顔を上げる。が、向かい側に座る西條を見た瞬間に笑みを絶やした。
「…へぇー、西條くんが"銀狼"だったとはね」
「チッ…」
真知先輩の言葉に、西條が嫌悪感を顕わにする。
ふと隣を見ると、さっきまで元気がなかった昴が目を輝かせて「ktkr…!」とガッツポーズをしていた。え、何で?
「……まぁ、僕は最初から西條くんに興味はなかったけどね」
「え…?」
「けど、君の存在に気がついて驚く政司と千鶴のマヌケ顔は見たいかなぁ」
「な、何で西條に興味もたないんすか、黒滝先輩…!」
突然、西條と先輩の会話に割りこんで発言する昴。
「こいつをしっかり見てください。さらさらの金髪に白い美肌、そして綺麗な碧眼。
こんな王道…しかもウザくない王道を襲わないなんておかしい…!萌えねぇ!」
真知先輩にたたみかけるように言葉を発する昴。先輩はそんな昴を怪訝そうな目で見つめた。
「…………君、ほんとは西條くんが好きなの?」
「…は!? 何でそうなるんすか!?」
「げ……まじかよ三橋?」
先輩の質問に西條は顔を引き攣らせ、昴は「ちげーよ!」と慌てた様子で否定する。
「だって三橋くん、西條くんをベタ褒めしすぎじゃないか。
大体、何故僕が西條くんなんかを抱かないといけないんだい?
嫌だよ。絶対にお断りだね」
「…っ」
西條が胸を抑えて嘆く姿を見て、少し同情してしまう。
そりゃあ、「西條なんか」とか「絶対に嫌」とか言われたらな。
「生理的に無理」って言われてるみたいで、グサッとくるよね。
「くそ……。この学園にはもう“萌え”が存在しない。敵しかいないじゃねぇか」
昴はガクッとうなだれながら俺のほうをチラッと見てくる。
首を少し傾けて見つめ返した…………ら、昴がカアァと顔を真っ赤に染めた。
え、どうした昴。
「何?」
「……そのきょとん顔、反則だろ…」
「は?反則?」
「……三橋くん、僕の存在忘れてないよね?ほら、行くよ」
昴に聞き返そうとするが、先輩がそれを阻止するように割り込んでくる。
そして昴の首ねっこを掴み、図書室を颯爽と去っていった。
……何か、昴が尻尾を巻いた中型犬に見えたなぁ。
「大崎」
「え…のわあぁっ!?」
振り返った先に、西條のドアップ顔があったから、驚いてのけ反ってしまう。
……お前、いつの間に隣の席に移動したんだよ。
「驚かすな、バカ」
「うん、バカでゴメン」
バカと言われてにこにこと嬉しそうに笑う西條。おま…っ、まじでドMっぽいぞ。少しは気をつけろよ。
「さて、時間つぶしに本を読むか」
「俺も一緒に読む」
「ダメだ。…本は一人で読めよ」
「えー…俺、字の羅列見てると眠くなる」
「なら寝てろよ。あと隣に座るな…狭苦しいから向かい側に座れ。うるさくするなよ」
「はーい」
俺の要望に、西條は元気のいい返事をする。
よし、いい返事だ。
早速、そこら辺の本棚から一冊の本を取り出し、椅子に座って読みはじめた。
……ページをめくるときにする、パラッという乾いた音。
静かな空間のせいか、そんな小さな音が響いてる感じがする。
……にしても静かだな。
西條の奴、本当に寝っちまってるのか…?
顔をあげ、向かい側に座る西條のほうを見る。
「───……」
思わず、見惚れてしまった。
頬杖をつき、ぼーっとする西條。
普通の人だと、そんな表情は情けなく見えるけど西條の場合は綺麗だ。
碧眼のせいか…?冷たそうな瞳の光が、冷徹に見せる。それと、さらさらの金髪に整った顔立ち。
……こいつ、黙っていればめちゃくちゃかっこいい。
口開いた途端、アホっぽくなるし…もったいないな。
「……どうしたの、大崎?」
「……!な、何でもねぇ」
目が合ったため、慌てて目を逸らす。
すると西條が俺の手の甲を触ってきた。
「大崎の手、きれい」
「そうか?」
「うん。顔も可愛い」
「……はぁ?」
どこが?変なお世辞はいらねぇーよ。
てかどうせならかっこいいって言われたい…。
可愛いって言われると、侮辱されてる気分になるし。
小さなあくびをしながら西條に怪訝な視線を送る。けど、そんな事ではめげない西條くん。
「ねぇ、大崎」
「何?」
「俺も……大崎のこと、“真琴”って呼びたい」
「……勝手にすれば?」
お好きどうぞ。
席を立って棚に本を戻しに行く。
すると西條も自分の席を立ち、俺の後を追いかけてきた。
「…真琴も俺の事、名前で呼んで?」
「……お前、名前なんだっけ?」
「……!」
西條撃沈。
その場にしゃがんで落ち込む西條の背中をさすってやる。
「…悪ぃ、ちゃんと覚えるから。教えて」
「……凪」
「凪?ふーん……いい名前だな」
名前の意味と違って、西條には穏やかさってものが微塵にもないけどな。
俺の発言を聞いて、西條…じゃなくて、凪も俺の名前を褒めようとする。
「真琴もいい名前だね」
「どこが?」
「…えっと」
「まことってよく聞く名前だろ。別にフォローなんて求めてねぇよ」
俺は凪の名前がほんとに良いなぁって思ったから、「いい名前だ」って言ったわけだし。
「……怒った?」
美少年が困った表情を浮かべて俺を見てくる。
……外見だけを見ると取っ付きにくいが、わりと話しやすいんだよな、こいつ。
凪が明るい性格だからか?
「真琴…?」
「怒ってねぇよ。俺、いつもしかめっつらしてるから…よく怒ってるって勘違いされんだよな」
ため息をつきながら本棚で仕切られた通路を歩く。すると、西條が俺の手をガシッと掴んだ。
「俺はそんな真琴の顔も好き!」
「…、お前変わってるな」
「…全部の真琴が好き。この前ね、おじさんに言われたんだ……本当に欲しいものは、力ずくで手に入れなきゃダメだって。
だからね…俺、真琴を手に入れるためならどんな手段も選ばないし、遠慮しないことにした」
「……、……」
何てコメントすればいいか分からない。
……凪って俺の事好きなのか?だとしたらどういう意味での“好き”なんだ?
“手に入れたい”ってどういうこと?
「まずは手始めに真琴の事をよく知ろうと思って、おじさんに協力してもらったんだ」
「はぁ…」
凪はそう言うと携帯をパカッと開く。
が、待受画面を見た瞬間に咳込んでしまった。
「ごほ…っ、おい、何だよそれ!」
液晶画面に映っている、半裸の俺の姿。
……これ、いつ撮ったんだよ?
てか何でこんなの待受画面にしてるんだし。
「これ?真琴の風呂あがりをパシャッと…」
「ふざけんな、消せ」
「気が向いたら。それよりここからが本題。
おじさんは学園中に監視カメラをしかけているんだ」
「知ってる」
…てか監視じゃなくて盗撮だよな。
「そのカメラの映像を編集して、真琴の一日の動きをまとめてもらったんだ。ほら、見て」
「……」
渡された凪の携帯の動画をジーッと見る。
俺だ。間違いなく俺だ。
トイレで用を足してる姿までバッチリ映っているではないか。
……動画の再生を止めて、迷わず削除のボタンを押す。
「…あ、何すんのさ真琴…!」
そりゃこっちのセリフだ。
旦那にチクって、理事長の監視カメラを全て撤去してもらわないと。
落ち込む凪を放っておき、図書館から廊下へ出て携帯を取り出す。
えっと、朝に旦那がかけてきた携帯番号に電話をすればいいんだよな…?
ボタンを押し、耳をすませて待つ。
数秒後、携帯の持ち主の声が聞こえた。
「…もしもし」
「あ、俺、真琴ですけど千尋さんを…」
「ヒロ、真琴から電話ー」
……しばらくして、旦那の声が携帯から聞こえてくる。
「……俺だ」
「あ、千尋さん…?こんばん「遅ぇ。とっくに授業は終わってるだろーが」…すみません」
…また怒ってる。
毎回この繰り返しをしている気が。
てか…どんな風に話したらいいのかな、監視カメラのこと。
「おい」
「……!はい?」
「今日何曜日か知ってるか」
「え…えっと」
わからなくて吃っていると、大きなため息を返された。
「……てめぇは少しも心待ちにしてねぇんだな」
「…何がですか?」
「土曜日」
土曜日…?何かあったけ……?
「…忘れてるんじゃねぇーよな」
「え…その……何でしたっけ……」
「……このくそガキが」
やべえ、千尋さんかなり怒ってる。
頭フル回転させて思い出したまえ、俺…!
「……来ねえのかよ」
旦那がぽつりと呟く。
「え…?」
「土曜日、俺のとこに来ねぇのかよ。てめぇは」
「も、もちろん会いに行きます…!……あっ、そういう意味だったんですね」
会うことは当然のことだと思っていて、“予定”としてとらえてなかった。
千尋さんは俺の返事を聞いて嘆息する。
「“あっ”じゃねぇーよ。
今日が何曜日なのかも把握してねぇのか」
「えっと、すみません……」
「……俺はお前と会うのが楽しみで仕方ねぇんだよ」
「へー…って、えぇ!?」
「カレンダーを見ながら土曜日を待ち続けてるっつーのに、てめぇは随分と興味なさそうだな」
「……」
「黙ってねぇで何か言いやがれ」
「…さーせん、ちょっと浸らせてください…」
「あぁ?」
旦那が……俺と会うのを楽しみにしてる…だと?
何それ……何だよそれ…っ、めっちゃくちゃ嬉しすぎるんだが。
どうしようにやけそう。てかもうにやけてるかもしれない。
ぐっと堪え、顔の筋肉を引き締めようとする。
「…おい、真琴」
「……」
あー…千尋さんの声、落ち着くな。
低くて少し掠れてるけど、中毒っぽくなりそうな甘さを含んでる。
俺もこんな声、出せるようになりたい…。
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