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見えない壁(1/5)
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目線) 三橋 昴
通称、チャラ男会計の黒滝先輩の背中を追いかける。
……腐男子の俺は、入学当時に"チャラ男で会計"という存在があると知ったとき思わず「キタコレ!」と叫んでしまった。
チャラ男受けが大好きだから。考えるだけでニヤニヤする。
黒滝先輩の存在を知ったのは入学式の生徒会メンバーの挨拶のときで……。
シーンと一気に静まる体育館。
黒滝先輩の訝しげな視線と全校生徒の視線が俺に突き刺さった。
「……君、僕の話を邪魔しないでくれないかなぁ。みんなの前で抱いちゃうよ?」
うほっ、チャラ男発言キター!
鼻血出そうだ。攻めは誰ですか?さっきの俺様会長とかですね、わかります。
「…はぁ、はぁ…っ」
やべ…チャラ男を生で見たせいかハンパなく萌えて息が荒い…じゃなくて苦しい。
俺、呼吸困難っぽくね?
あ、鼻血。
「…誰か、その子を保健室に連れていって診てくれないかなぁ。…あぁ、倒れちゃった」
目眩がして、体がぐらつく。……気絶だ。
目が覚めたら保健室のベッドで寝ていたのを覚えている。
次の日には全校生徒に俺は“変わった奴”だという噂が広がっていた。
だが、そんな事気にしない。
迷わず、会長の親衛隊に入った。
会計の親衛隊に入ると、近すぎて動きにくいと思ったから。
……が、会長の親衛隊に入隊してからある事実を知った。
チャラ男会計は、チャラ男じゃなかった。
そしてバリタチで、チャラ男受けを見ることは一生叶わないということを。
ショックすぎてハゲるんだが。
そんなわけで、俺は二番目に好きな萌えを待ち続けることにした。
そう……王道転校生の総受け。
秋になって、ようやく転校生がやってきたから心が踊った。
俺はもちろん、影からコソコソと転校生がくれる萌えを食そうと思っていた。……けど。
…何故か、男を好きになっていた。
真琴に恋をしてしまった。
おかしいな。
俺、化○語のがはらさんみたいな女性が好きなのに。
どうして……男を、…真琴を好きになってしまったんだろう。
真琴が日に日に可愛く見えて仕方ない。
「……三橋くん」
「!なんすか」
「着いたよ。おいで」
連れて来られた場所は、生徒会専用の屋上。
夕焼けが目に刺激を与える。
少し冷たい風がふくと、先輩はふっと笑った。
「綺麗な夕焼けだねぇ」
その不思議な笑みを見て、少しの緊張を覚えた。
「三橋くん、入口につっ立っていないで入ってきたらどうかな」
「…!はい」
おそるおそる屋上へと足を踏みいれる。
……この生徒会専用の屋上の存在で、何度妄想したことか。
ここで、生徒会のメンバー同士でアッーなことを……!とかよく考えていた。
実際はどうなんだ?
「…確かに会長と副会長には何度かそんなことをしたよ?」
「な ん だ と ?もっと詳しく教えてくだ…じゃなくて、何で俺の考えてること知ってるんすか!」
「君の相変わらずの風変わりな思想が口から漏れだしていたよ。
三橋くんも真琴くんに似てそんな癖があるんだねぇ」
「は…?……つか、何で真琴の事をまるでよく知ってる様な口ぶりなんですか」
真琴と黒滝先輩は、廊下で衝突事故を起こしたのと、朝飯を買いに行ったとき以来、顔を合わせていないはず。
生まれた疑問を、思わず口にだしてしまう。
そしたら、俺の言葉を聞いた先輩がふっと口端をあげた。
「…何でだろうねぇ」
「ごまかさないで下さいよ」
「あぁ…ちなみに、さっき君が独り言で“生徒会専用の屋上”と言っていたけど、それは違うよ。
ここは、僕専用の屋上だから」
「え……?」
「だからここには人をほとんど招き入れた事はないよ。
…けれど、最近は昼休みにある子を連れ込んでいるんだ。想い人を…ね」
「……!」
──まさか…。
昼休みになれば、俺達の前からそそくさと姿を消す真琴の事が脳裏にちらついた。
「…このくらいの抜け駆けは許されるよねぇ。君は一日中あの子のそばにいる事ができるんだから」
「…っ、先輩は、真琴が好き…なんですか?」
「大好きだよ。心から愛そうと思ってる」
そうきっぱりと告げる先輩の表情は優しい。
奥歯を噛んで顔の筋肉を引き締めると、先輩が肩をすくめた。
「そんな気を張らなくていいんじゃないかな。三橋くんは三橋くんだしね」
「…意味がよくわからないんですが」
「友情と恋愛感情の間をフラフラとさ迷っているのもいいんじゃないの…って事だよ」
「──っ!」
一番触れられたくないことを口にされた。
頭に一気に血が上り、黒滝先輩の胸ぐらをガッと掴む。
が、すぐに振り払われて強い力で肩を押された。
俺の背中が屋上の壁にドンッとあたる。
軽く咳込んで顔をあげると、真知先輩が真顔で近づいてきた。
「誰がどういう思想を持とうと、僕は構わないと思うよ。…けど、相手を巻き込むのはどうかと思うな」
「な…何のことすか」
「真琴くんも相手を巻き込む癖があるけど…まぁ、僕はそのおかげで真琴くんを好きになれたからね。
でも君の巻き込みかたは…最悪だよ」
先輩はそう言うと壁に手をついて距離を縮めてくる。
「…君、真琴くんのことどう思ってるの?」
「……好きです」
「それはもちろん恋愛感情の好きなんだろうね。君は友達の関係を崩したくないから、その気持ちを伝えられない。…違うかい?」
「…違わないっす」
「恋愛感情を持っていること、ばれたくないんだろう?真琴くんに。
なら何故、期待するの?」
「え…?」
「ばれたくないのに、何故"気がついてほしい"と期待するのか聞いているんだよ」
「…先輩にわかるはずないですよ、俺の気持ちなんか」
「君、自分が可哀相だとでも思ってるの?」
「…っ!違います!」
「君は"気がついてもらえない不満"を態度に表してるらしいね。
けど、そんな事をされても真琴くんはどうすることもできない」
先輩は壁についていた手を下ろすと、目を細めた。
「ばれたくないのに気がついてほしい。
そんな矛盾の中で真琴くんを振り回す君を、僕は許せない」
「……」
言い返したいことは沢山ある。
けど、抽象的すぎて言葉にすることができない。
「何かを手にいれるためには、必ず何かを犠牲にしなければならないんだよ。
例えば友達という大きな壁をぶち壊すことだったりね。
今のように真琴くんと微妙な関係を永遠に築いていくつもりならそれで構わないよ。…でも」
先輩はそこまで言うと、今までにない表情を見せた。
眉が少しつりあがっていて、目に鋭い光が灯っている。
──怒り。
はじめて、黒滝先輩の怒った顔を見た。
「…真琴くんを巻き込むな。
壁をぶち壊す勇気もないのに、半端に手を出すんじゃないよ。……出直してきな」
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