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腐れ縁(5/7)
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「真琴くん、そんな落ち込まないでよ。
僕が言いたかったのは、君は"相手の魅力を最大限に引き出す"力があるって言いたかったんだよ」
「相手の…魅力…?」
「ん……まこ、引き…出して、くれる…。自分…は、…目立た…ない…けど…」
「観客は皆、ステージに立つ人間に釘付けだ。
影でその人達を輝かす君の存在は目立つことはないけど……"輝かされた人達"は君に対する恩を忘れない。……つまり」
「僕達、まこ…に、感謝……して…る」
「え……」
えっと……。
言っている意味は大体わかったけど…本当に俺にそんな力あるか…?
俺は、大事な人達を……、千尋さんを輝かすことができてるのかな…?
「…真琴くんはいつも不安そうな顔してるね。
自信持ちなよ……せっかくいいものを持っているんだから」
「ん…まこ、素敵…だか…ら、もったい…ない…」
「…そんなことないです」
「まったく……素直に受け止めなよ、僕達の気持ちを。君、意外に頑固なんだから」
「…先輩」
二人が俺のことをじっと見つめてくる。
何だか気恥ずかしくなって俯いてしまったけど、感謝の言葉はきちんと伝えた。
「…ありがとうございます…」
「まこ……」
「素直な真琴くんも可愛いね」
「……」
真知先輩……。やっぱりさっきの感謝の言葉、取り消そうかな。
…先輩達と話してると、頭を使うけど…少し楽しい。……絶対口には出さないけど。
「ねぇ、真琴くん」
「何ですか」
「…君の過去も聞きたいな」
「僕…も…」
え……。
そんなこと聞いてどうするんだろ…?
「俺の過去?別に…話して聞かせるほどじゃないです」
「それでも聞きたいんだよ。……好きな人のことは何でもね」
「……っ」
真知先輩の優しげな微笑から慌てて目を逸らす。
……意識する必要はない。落ち着け、俺。
隣にいる優先輩も期待に満ちた目で俺を見つめてくる。
大体、話すって言ったって……どこから話せばいいのかな?
「……小学生の頃は……えっと…友達がいませんでした」
「…わぉ、衝撃的な話だねぇ」
「そうですか?」
「…まこ、今…は、一人…違う…よ…?」
「はい…ありがとうございます、優先輩。
何というか、あの頃は人との接し方とか距離感が分からなかったんです。
放課後だって、忙しくて遊ぶ時間がなかったし……」
あの頃は色んなことで、ばたばたしてたからな…。
「……母は、浮気性だったらしいです。
俺は血の繋がった父親の顔を知らない。母の顔も、よく覚えてない」
母は、俺がお腹にいた頃はもう夫と離婚していた。……俺はその夫の子供ではないから。
母が名前も知らない男と浮気をして、その間に出来た子供……それが俺。
自分の血を引き継いでいない俺を、浮気した母を、夫は愛することができず離婚をした。
母は俺を産んだ後、またすぐに色んな男と遊びはじめたらしい。
寂しさを埋めるためか、欲望を満たすためなのか。……それは本人にしか分からないけれど。
母は家にいる事も少なく、一緒に遊んでもらった記憶はない。
母方のばあちゃんやじいちゃんが俺の面倒を見ることが多かった。
母は男との付き合いを何度も繰り返したけど、ついに終止符が打たれた。
……子供の存在がお荷物。
母が俺の肩に触れて、呟いた言葉をぼんやりと覚えてる。
「…いつか迎えに行くから」
母はそう言うと俺に背を向けた。小さくなっていく母の背中。
その後、母の消息は絶たれた。
今もどこにいるのか分からない。
もしかしたら死んでるのかもしれない…。
女性に対しての恐怖感は、わかなかった。
ばあちゃんが優しかったからだと思う。
母さんが、たまたま"そういう人"だったんだと、小さい頃の俺は解釈したみたいだ。
……寂しい。という気持ちは、あった。
ばあちゃんがじいちゃんがいくら可愛がってくれても、親にしかできないことがあったから。
小学校の入学式、参観日、親子レク。
みんながクレヨンで親を描く中、俺はじいちゃんとばあちゃんを描いた。
……どこに行っても、"親"という存在がまとわり付く。
そんな抽象的なことを、幼い子供の頭では上手く言葉に表す事ができない。
だから"何故か分からないけど泣きたい"…そんなことがよくあった。
…俺が小学二年生になったある日の事。
大好きだったばあちゃんが、死んだ。
元々体が弱かったから…。
何とも言えない喪失感。……いっぱい泣いた。
鼻水流して泣きじゃくる俺を、じいちゃんがあたたかい腕で抱きしめて言ってくれた。
「…じいちゃんは真琴を一人にしないからな」
──嬉しかった。
頼れる人は、傍にいてくれる人は、じいちゃんしかいない。
その気持ちは、いつの間にか“じいちゃんに嫌われたくない”に変わっていった。
……一人になるのが怖かったから。
近所で囁かれる"子供を捨てた母への悪口"や"独り身で俺を育てるじいちゃんへの同情"。
そしてじいちゃんがばあちゃんの仏壇の前で語る言葉。聞くだけで、恐怖を感じた。
「あいつは……真琴を捨てて、今頃何をしているのか。
最期までお前に迷惑かけて、早死にさせて……葬式にも来ないとは。親不孝な娘だ……」
…迷惑……?
俺の存在が…迷惑…。
今は、じいちゃんはそういう意味で言ったんじゃないって分かってる。
でもあの頃は、怖かった。
"いい子"にしてないと、見捨てられるかもしれない。
仏壇の前で呟くじいちゃんの背中を影でこそこそ見つめる度、その気持ちは膨らんでいった。
……だから、いい子を目指して頑張った。
はっきり言えば、じいちゃん家には大したお金は残っていなくて、生活は厳しかった。
だから高学年になった頃、新聞配達のバイトを始めた。
役立たずのガキを雇ってくれる場所なんて、ほとんどない。小遣い程度のお金しか貰えなくても、時間がある限り働く。放課後も、朝も。
……もう、がむしゃらだった。
ほんとは俺も野球部に入りたかった。
夕焼けの中、汗流して泥だらけになってる同年代の奴らがうらやましかった。
──ずっといい子にしてたのに、どうしてだろう?
大切なものが失われていく。
じいちゃんが病気で倒れた。
"独り"という文字が頭の中に浮き出てきて怖くなった。
報われない。
金がなくて、じいちゃんにいい治療を受けさせる事ができない。今まで大切に育ててもらってきた恩返しができない。
無力って、こういう事なんだ…。
グレたくもなったけど……生憎、グレる勇気もない小心者だったから、できなかった。
…俺がケンカしたり荒れたりするのは、似合わなすぎて滑稽だと思うし。
だから別の意味でグレた。
最低限の会話や人間関係を築いて、他人に心を閉ざした。
中学校に入っても……何も変わらなかった。
たかが通う学校が変わったくらいで、きゃっきゃっと浮かれてる周りの奴を見て……正直、「うざいな」と思ってた。
ただの逆恨みだ。多分俺もきゃっきゃっと騒ぎたかったんだと思う。
けど、そんな余裕はなかったし。
母の事は……正直、ものすごく恨んだ時期がある。
親がすべきことを、何でガキがしなきゃならない?何で俺の家はガキが働かなきゃならないんだ。
……とか、くだらないことを諸々。
いかにもひねまがったガキが考えそうな内容だ。
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