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腐れ縁(6/7)
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……俺なんかより、もっと苦労してる人達はいるのに。死にたいくらい、悩んで、苦しんで。
「不幸な主人公気取りか。器の小せぇガキ」と言われたこともあった。……誰とは言わないけどさ。
昔の女々しすぎた自分が恥ずかしい…。
大体、もう過ぎたことだし……いくらぐだぐだ言っても過去は変わらない。
例えタイムマシンが開発されても、俺は過去を変える気はない。変えてしまったら出会えた大切な人と、会えなくなるかもしれないし。
……一番の理由として、今が幸せなんだから、過去を変える必要なんてない。
磊落になって言えば、母が俺を捨てた事は赦せる。
ただ、母のことを"母親"としては認めたくない。あと、ばあちゃんの墓参りぐらいしてほしい。
一つだけ御礼を言うなら、「俺を産んでくれて、ありがとう」。
……こんな風に考えられるようになったり、母を赦せるようになるまでは、めちゃくちゃ時間がかかったけど。そこら辺は…大目にみてほしい。
今はそれなりに器が大きくなった…と思う…よ?(多分)
……一番の礼は、千尋さんに捧げたいと思う。
「俺を変えてくれてありがとう」って。
俺が今でも赦せないのは、過去の自分だ。
勝手に独りだと思いこんで……。
俺と向き合ってくれようとした人はいたのに。
どうして素直になれなかったんだろう。
──中学一年生になって、ちょっと過ぎた頃。
5月辺りだったと思う。
いつも通り、朝の新聞配達を終えて早くに学校に登校した。
学校の授業が終わってからも働きづめだったから、課題や睡眠を早朝の校内で済ましていた。
そんな毎日の繰り返しだったけど、その日は違っていて…。
「……わっ、お前ものすごく早く学校に来てるんだな」
「……」
知らない奴に話しかけられた。
そいつは教室に入ってきて俺の前席に座ると、じろじろ俺を見てくる。
「目の下のクマ……酷いな。もう一回聞くが、何でこんな早くに来てんだよ」
「……あんたに関係ないだろ」
睡眠を邪魔されてイライラしてた俺は、ボソッと呟く。すると目の前の奴がニヤリと笑った。
「先輩だぞ?言葉遣い気をつけろよ」
「…さーせん」
「俺、最近この学校に転校してきたんだ。イケメンだろ?」
「……」
自慢げに話してくるそいつをとにかく無言であしらう。
シカトしようと思い、机に突っ伏すると頭をぽんっと叩かれた。
「明日も来るから。感謝しろよ」
感謝しないし。てか、来るな。
不満げな表情で面をあげると、そいつの姿はもうない。
けど、机に何かを置いていった。
「……飴?」
いちごみるく味の飴がぽつんと置かれている。
変な人だな、と思ってそのまま寝た。
……変な人の事は、それからよく噂で耳にするようになる。
同学年の女子達が「かっこいい先輩が転校してきた」と騒いでいたから。
その人の顔、あんまり覚えてないんだけど……イケメンだった…と思う。
……翌る日。
「よう」
「……」
またその先輩が来た。
早朝だから、他の生徒達はまだ誰もいない。
「……お前の担任に聞いてみたんだ。
童顔でチビで暗そうな雰囲気の奴。そいつはどんな奴なんだ?ってな」
それ、もしかして俺か?
デリカシーのない奴だな。
俺の担任は女性だ。きっとこのイケメンにベラベラと話したに違いない。
「……お前、苦労してきたんだな…」
「…宿題、まだ終わってないんで邪魔しないで下さい」
「なら手伝ってやるよ、優しい先輩が」
ちょっと強引だけど、優しくてイケメン。
そんないい噂ばかり流れていた。(同じ俺様でもバ会長とは違うなぁ…)
「……明日も来るからな」
「……」
来ないでほしい。はっきり言えば、邪魔。
俺が相変わらずの無言を保っていると、そいつが「あ」と声を上げた。
「手ぇ出せよ」
「……?」
怪訝な表情で手の平を出すと、手中に何かを落とされる。
渡されたのは、またもやいちごみるくの飴。
「悩みすぎるなよ。疲れたときには甘いものを食べるのが一番だ」
「……」
何だ……?この人…。
一人ぼっちの俺をほっとけない偽善者?
胸の中では憎まれ口を叩いていたけど……本当は、嬉しかった。
「……変な人」
「は?何だとこら!」
「何でもないっす」
俺とその先輩との奇妙な関係は、しばらく続いた。
「…何で俺に関わるんですか」
小さい声を振り絞って問う。
すると先輩が顎に指をそえて唸り出した。
「……何となく、だな。ほっとけないんだよ、お前」
「…偽善者?」
ほっといてくれ。
あんたが俺に関わろうと、何も変わりはしない。じいちゃんを助けられないんだ。
ぼそっと呟いた言葉を耳にした先輩はスッと立ち上がり……俺の頭をぐわしっと掴んだ。
「いっだだだ…!何するんですか!」
「だ れ が 偽善者だこら!この捻くれ小僧!」
ちょっとムカッとしたから、負けじと胸元に掴みかかる。
「ひ、捻くれて何が悪いんだよ…!このウザナルシスト!」
「あぁ"?声が小さすぎて聞こえねぇよ、もじもじ野郎!」
「もじもじ…っ!? あんたうるさいんだよ!ほっとけ!えっと…ばか!あほ!まぬけ!」
言葉が詰まったから、テキトーな悪口を叩く。
すると、先輩が満足そうな顔でニヤリと笑った。
「……いつもそうしてろよ。そんなに大きな声、出せんだろーが」
「……!」
驚きで思わず目を見開いてしまうが、すぐに我に返って俯く。
「……」
「抱えてる悩み、自分の中に閉じ込めてないで吐き出せよ。
ちょっとは甘えろ。
…そんなに一人で頑張りすぎんな」
……胸の中で何かがすとんと落ちる感覚。
次の瞬間襲ってきたのは、激しい涙腺の緩みと安堵。
……何だ、この気持ち…?
危うく涙がこぼれそうになったから唇を噛んだ。
「……吐き出せるなら、とっくに吐き出してる。俺が弱音を吐いたらどうなる?それで何かが変わるか?
俺はじいちゃんを助けなきゃならないんだ」
先輩の胸ぐらを掴んで感情をぶちまける。
「なのに自身を甘やかして飴をあげてられるかよ…!弱気になったらそこで終わりだ。
俺は強くならなきゃならない…。必要なのはムチだけなんだ。
……だから優しくしたりなんかするな!お節介なんだよ!」
「黙れ!」
……え?今なんと…?
繰り出される先輩の平手打ち。
ぱちんという音がした後、じんじんと痛みだす俺の頬。
ぶたれた箇所を触りながらぽかんとしていると、先輩が俺の肩を強引に抱いた。
視界が先輩の制服の黒で染まる。
「…ち…ちょっ、先輩…!?」
「誰が弱気になれって言った?
俺は一人で抱え込むなって言ったんだよ。
……辛くなったり苦しくなったら、俺に全部吐き出せ。
俺がお前の飴役になってやる」
「……」
体の力が抜ける。
体重を預けると、背中に回った先輩の腕に力が入った。
飴役って……何だよ、それ。
聞いたことないし…そんなの。
「……やっぱ変な人…」
「はあ?」
「先輩、変」
呟くと同時に俺の瞳からしずくが落ちて、先輩の制服にシミを作る。
やべ……止まんねぇ。
堪えていた涙が次々と溢れ出した。
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