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たからもの(3/3)
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次の授業は現代国語で、隣の昴がうとうとしていた。
時々ビクッてなって目を覚ますけど、すぐにうとうとする繰り返し。
これ、見てるとけっこう面白いんだよね。
「……やべ、授業中ほとんど眠ってた…」
「うん、知ってる。ずっと見てたから」
「え……な…っ、見るなよ…」
デレる昴くん。昴に癒されながら帰りのHRを終える。
さよならの挨拶をすると、今日もホストに呼び出された。
「昴、先に凪と帰っていてくれ。俺、会長の手伝いもあるし」
「分かった!」
……?今日は随分と聞き分けがいいな…。
昴は凪と長沢と一緒に教室を出ていく。
「おい、真琴。早く来いよ」
「はいはい、せんせー」
またもや同じ部屋でホストが煎れたコーヒーを飲むことになったわけだが。
「今日は何ですか?」
「お前、明日誕生日なんだろ」
「…何で知ってるんですか?」
「政司から聞いた」
なるほど……政司先輩は、副会長か優先輩あたりに聞いたんだろう。
「その政司先輩に呼び出されてるんで、早く行きたいんですが…」
「お前、あいつのこと名前で呼んでるのか?」
「あ…えっと、実は──…」
話し終えると、ホストはふっと笑った。
「面白い話だな。…あと、実はそのいちごみるくの飴、あいつが作ったんだ」
「え?」
「自分の会社でな。よっぽどいちごみるく味が好きなんだろ」
「…ふっ」
少しの談笑で面白い話を聞けた。
そろそろ失礼しようかな、と思って立ち上がるとホストも立ち上がる。
「明日か……今日が誕生日なら祝ってやれたんだけどな」
「すみません…?」
「誕生日プレゼントやろうか?……先生が作った過去問題集とかな」
「げ…っ、けっこうです」
「ははっ、冗談だ」
げんなりした表情をすると、ホストが笑う。
しばらく見つめあうと、ホストは腕を伸ばし大きな手の平で俺の頭を撫でた。
「一日早いが……誕生日おめでとな、真琴」
「……っ」
また…だ。
俺の誕生を祝ってくれる人が、こんなにいる。
「…ありがとう…ございます」
「お、素直だな」
「…うるさい」
「ふっ、……月曜、ケーキ食わせてやるよ。何がいい?」
「…いちごショート」
「了解」
ふっと笑ったホストは、俺の髪をわしゃわしゃに撫でる。
月曜……楽しみだ。
頬が緩まないように懸命に引き締めた。
「──何笑ってやがる」
「えっ」
ホストと別れて、生徒会室の奥の個室で手伝いをしてたとき。
隣にいた政司先輩は俺の頬をぐにっとつまんだ。
引き締めていたはずの頬が、緩んでいたらしい。
「……いひゃい…」
まじで痛い。頬ひりひりする。
「お、何か可愛いな、お前」
「……」
反論せず先輩をイタい目で見つめる。
すると罰が悪そうに頬を離してくれた。
「…チッ」
「あ、あと一枚で書類片付きますね。じゃ、さよなら」
「……!待て、真琴!」
先輩は目をくわっと開くと、俺の腕をがしっと掴んだ。
「…まだ行くな」
「何で?」
「そ、それはだな…、あ、あれだ!文化祭の事での仕事もあるんだ。だから手伝え」
「へぇ…」
何か…取って付けた様に聞こえたけど……気のせいにしておくか。
「生徒会メンバーで出し物をするんだが……集めたアンケート用紙の中から、まともな意見を引き出してくれ」
「はぁ…」
渡されたアンケート用紙をパラパラ見て、先輩の言った意味がわかった。
確かにまともな意見がねぇ。
「~~、好きです」
「一日中裸でいてほしい」
「キスしてください」
等々。もはやアンケートじゃなくてファンレターみたいだな。
そんな中、きちんと書いてあるものが見つかった。
「先輩…これ」
「あ?……"生徒会メンバーで、マ○LOVE1000%歌ってください"…あぁ、う○プリか」
「うた○リって何ですか?」
俺が聞くと、先輩が使ってたパソコンでネットに繋ぐ。
アンケート用紙の隅にある名前欄を見ると、見慣れた名前が書かれていた。
三橋 昴
昴……お前出現率高いな。
「真琴、これ見ろ」
パソコン画面を覗くと、イケメン達が何人か映っていた。
「かっこいいですね。あ、もしかしてとき○モみたいな感じですか?」
「と○メモ、今は女性向けのもあるけどな」
「へー…」
なるほど。
マジなんとかかんとかっていう歌はこのイケメン達のやつで使われているんだな、きっと。
「いいんじゃないですか?あんたら生徒会メンバーもイケメンだし」
「俺は別にいいが……真知が乗り気になるかが問題だな」
「……」
(色々)大変そうだな。
聞いたところ、文化祭はお金がかかるらしい。
装飾とかを業者にやらせるから。
全然青春っぽくないね。
みんなで汗水流してやればいいのに。
「お前のクラス、メイド喫茶なんだろ?」
「クラスではまだ話しあってませんけど…」
「お前、メイド服着てにゃんにゃんしろよ。可愛がってやるから」
誰がするかよボケ。
にゃんにゃんなんかしたら俺、お婿にいけない。ギロッと睨むと、ふっと笑われた。
……突如、狭い空間に携帯の着信音が響き渡る。
先輩は携帯を開くと、ニヤッと口角をあげた。
「……よし。真琴、引き上げるぞ」
「えっ?…ちょっ!?」
ぐいっと腕を引かれ、個室の扉の前に立たされる。
眉をしかめながら扉を開くと、パーンという大きな音が鼓膜を叩いた。
「…へ……?」
生徒会室の中をぐるっと見渡す。
そこにはクラッカーを持った昴、凪、長沢、副会長、真知先輩、優先輩が居た。
生徒会室は造花などで装飾されていて、テーブルにはオードブルやケーキが置かれている。
垂れ幕には大きく"誕生日おめでとう"とかかれていた。
ぼけっとして突っ立っていると、政司先輩に背中を押される。
「いつまで入口に突っ立ってんだよ」
「……、あ…」
皆は驚きで声を出せない俺を見て、嬉しそうに笑う。
「…サプライズ成功だねぇ」
「ん……。おめ…でと…」
「間に合ってよかったです」
「おめでとう、大崎」
「一日早いけど…「真琴、誕生日おめでとう!」…西條!いいとこどりすんな!」
「俺様達が用意したんだ、ちゃんと楽しめよ」
「──…っ」
ダメだ。
…嬉しすぎてどうにかなりそうだ…。
「真琴…?……涙…」
「え…?」
指摘されてから気がつく。
涙が目からぽろぽろとこぼれ落ちていた。
「わ…」
やべ…止まんない。
今まで"嬉し泣きしそう"になったことはあるけど、本当に嬉し泣きしたのは初めてだ。
涙を手の甲で拭うけど、またすぐに溢れてきた。みんなはそんな俺を黙って見つめる。
サプライズとか初めてで、こんなに沢山の人に祝ってもらえたのも初めてで、泣くほど嬉しい誕生祝いも初めてで。
小さい頃の俺に教えたいくらいだ。
今の俺はこんなに幸せだって。
きっと、そしたら、すごい頑張るんだろうな。
辛かったあの頃を堪えて生きてきてよかった。
……生まれてきて、本当によかった。
俺は小さく息を吸うと、みんなに感謝の言葉を届けた。
「……ありがとう…。…俺、みんなに会えて……幸せ…です」
きっとこの日は、俺の中で一生忘れられない大切な思い出になる。
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