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嫉妬(4/7)
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俺のことだ……!
舞い上がっていると、西條が俺の足を踏んづけてきた。痛い…。
真琴は千尋さんのことを見つめると、真面目な顔つきで話し始めた。
「俺、正直もう自分という人間が変わらないと思ってました。けど、色んな人たちと出会って、考え方が変わって…」
真琴の話を聞きながら、千尋さんはタバコに火をつける。
「自分の変化についていけなくなりそうで、少し怖いです。…旦那のときもそうでした」
「……俺もだ」
千尋さんはそう言うと、真琴を見つめ返す。
「お前に会って、俺も少し丸くなったと言われる。それに、まさかお前みたいなガキに入れ込む事になるとは思ってなかった。
……この前、お前に"愛してる"って言ったこと覚えてるか?」
「…はい」
「その"愛してる''も変化するだろ。年月が経つ毎に徐々に冷めてきたり、さらに熱を持つこともある。
形のあるものも年月が経つごとに脆くなる。…変化しないものなんてこの世にねぇ」
「…はい…」
「俺はこれからさらにお前を愛するだろうし、そんな未来を後悔しねぇ。
…お前が、変わった"今の自分"を後悔してねぇなら、怖がる必要はねぇだろ」
「…千尋さん…」
真琴は千尋さんの名を呟くように呼ぶと、頬を緩める。
その表情を見て、さらに胸がズキズキと痛んだ。
「……ごちそうさまでした。旦那、ありがとうございます」
「あぁ」
2人はまたバイクに乗り込む。
真琴は千尋さんの腰につかまると、密着した。
むっかつっくお。いや、つかまるのは仕方ないんだけどさ。俺も真琴に後ろから抱きつかれたい。
「…食材ねぇからデパート行くぞ」
「いつものスーパーのほうがいいんじゃないですか?」
「…あっちに用があんだよ」
「へー…?」
たわいない話をする2人。
そんなことにもイライラしてしまう。
「…あ。旦那、花飾りませんか?旦那のとこに」
「あぁ?」
「花を飾れば、殺風景な部屋も少しは華やぐかな…と思いまして」
「…華やかな雰囲気なんて必要ねぇ。大体、誰が毎日水やりをすんだよ?」
「あ…ふっ、確かに旦那が水やりしてるのを想像したら面白いかも…」
「何笑ってんだ、てめぇ」
「さーせん」
デパートに着いた2人は、しばらくうろうろしていた。
千尋さんが真琴にソフトクリームを与えたり(餌付け)、今日のカレーに使う食材を買ったり(2人の後ろ姿が夫婦っぽくて泣きたくなった)。
「ねぇ、旦那。俺、もう少し早くに旦那に会ってたらどうなってたんだろ…って時々思うんです」
「…俺はあのタイミングでよかったけどな。真琴が小学生の頃の俺はただの不良でお前に何もしてやれねぇガキだ」
「その頃の旦那、見たかったです。…千尋さんと会ってからまだ数年しか経ってないのに、付き合いが長く感じます」
「…そうか」
会って数年…か。
昔からの付き合いっぽい雰囲気が出てたから、意外だ。
つか俺、真琴の過去ほとんど知らねぇじゃん。
何か…真琴が急に遠い人になってしまった感じがする…。
もやもやした気持ちを背負いながら2人のあとをついていく。
ジュエリー店の前を通ったとき、一人の女性が千尋さんに声をかけた。
「…ヒロさん」
千尋さんはそちらに視線を向けると、そのまま店の中へ入っていく。
真琴はついていかず、近くにあったベンチに腰かけた。
「あの人が…千尋さんの好きな人…?」
…え?
真琴の呟きを聞いて思わず目を見開いてしまう。
千尋さんと談笑する女性の指には、婚約指輪がある。どういうことだ?
少し曇った表情でその様子を見つめている真琴。しばらくして千尋さんが真琴のもとへ戻ってきた。
「千尋さん、あの人が…好きな人…ですか?」
「あぁ?んなわけあるか。…真琴、手ぇ出せ」
「……?」
首を傾げて手を出す真琴。千尋さんはその手に煌めく小さなものをのせた。
あれ…もしや…?
「…指輪……?」
「今年の誕生日プレゼントだ」
「う、受けとれません、こんな高そうなもの…!」
「うるせぇ。てめえに拒否権はねぇよ」
千尋さんはそう言うと、真琴の右手を掴み、薬指にその指輪を通す。
強引で、真琴を指輪で束縛する人。俺はそう思っていた。……千尋さんの次の言葉を聞くまでは。
「……別に普段身につけろとは言わねぇ。だが、持ってろ」
「え…?」
「俺は、いつまでお前の側に居られるか分からねぇ。ましてや、お前には身寄りがいねぇだろ?
この指輪は高価だ。将来何かあって困ったときに売ればいい。少しは手助けになるだろ」
「どういうことですか…?千尋さん、ずっと一緒にいてくれないんですか…!?」
「落ちつけ、真琴」
「答えてください!千尋さ…っ」
真琴の目にじわっと涙がたまっていく。
千尋さんはそれを見ると、舌打ちをして人影のないところに真琴を連れていった。
「聞け、真琴」
「俺の…質問に答えてください…」
「俺はお前のそばを離れるつもりはねぇ。離れてくのはてめぇのほうだろ」
「違う…俺だってずっと側にいます…!」
「そうか」
「だから…こんな指輪、いりません…!」
「真琴」
千尋さんは真琴の顔に両手をそえると、顔を近づける。キスするのかと思って、一瞬焦った。
鼻先が触れそうな距離で真琴を諭す千尋さん。
「たとえ離れようとしなくても、側にいられなくなることがあんだよ」
「どういう…意味ですか…」
「突然、昨日まで生きてた奴が死んじまう。そんなこともある。……不慮の事故…とかな。
俺達の感情を無視して、そんなことは起きちまう。何の前触れもなく」
「……」
千尋さんは指で真琴の涙をぬぐいとりながら話を続ける。
「俺とお前の繋がりが切れるっていう話を前に、俺はもしかしたら死んじまうかもしれねぇ。
そしたらお前、どうなる?頼れる身内は誰もいねぇ」
「……」
「俺はもちろん死ぬつもりはねぇが、人の死はいつやってくるか分からねぇだろ。俺は後悔しない内にお前にやれることをしてやりてぇ。
……俺の大事な奴も、急に死んだ」
真琴はそれを聞くとはっとした表情で千尋さんを見た。
「繋がりが切れるより、存在自体が亡くなっちまうのは…めちゃくちゃ辛ぇよ…」
千尋さんはそう言うと眉を下げ目を伏せる。
真琴はそんな千尋さんの手をたぐり寄せると、ぎゅっと両手で包み込むように握った。
「俺は…そうなりません。急に死んだりなんか…したくない。しない。…だから千尋さんも生きて傍にいてください…」
千尋さんは無言で真琴の手を握り返す。
不意に、会長が一言漏らした。
「…重いな、絆が」
俺達が踏み込めそうにないような絆が二人にある。
「俺なんかが…真琴を…」と、思わず呟いてしまう。俺…真琴を好きになっていいのかな?
俺達の周りに、重い空気が流れる。
そんな中、西條が言葉を発した。
「俺なんかって何?そんな弱気なら諦めれば?」
「…っ!」
「何で真琴を好きになる事を制限されなきゃいけないわけ?誰が諦めろって言ったんだ?
他人の恋愛話なんて興味ないし。
俺は俺なりのやり方で真琴を愛して、愛してもらう。俺は、真琴が大好きだから」
西條の碧眼に強い光が灯っている。
自分の気持ちに真っ直ぐな西條を見て、俺達は我に返った。
なに弱気になってんだよ、俺。
俺も大好きだ、真琴が。
千尋さんがどうこうじゃなくて、俺は、真琴がほしい。俺と同じ気持ちになってほしいんだ。
隣にいたチワワくんは、小さい胸の前でこぶしを作る。
「僕だって…負けたくない。大崎にいっぱい救ってもらった…大好き。だから僕も真琴の助けになりたい。頼られたいよ…!」
その隣にいる会長は何も言わないが、千尋さんと真琴の方を真面目な顔つきで見つめている。
いまだに、会長が何故真琴に心変わりをした理由は分からないけど。
ワンコ先輩の表情は、よく分からない。何か迷っているように、瞳が揺れている。
…今日のワンコ先輩は、どこかおかしい。黒滝先輩と一緒に行動しないことを含めて。
俺達5人、それぞれ抱えてる気持ちは区々だと思う。けど、それは最終的に「真琴が好き」に繋がっている。
強力なライバルが沢山いるけど、絶対負けねぇ。もちろん千尋さんにも。
真琴を好きになったことを後悔したくない。
もう二度と怖じ気づかねぇ。
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