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嫉妬(5/7)
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真琴と千尋さんは、すっかり柔らかい雰囲気をまといながら駐車場へと向かう。
荷物をバイクにつけてヘルメットをつける真琴。そんな真琴はバイクにまたがると、くたっと千尋さんの背中によりかかった。
ちょっ、くっつきすぎですよ、真琴くん!俺の胸を貸すから、俺によりかかってくれ!
「…どうした…?」
「久しぶりに激しい運動したから体が悲鳴を…。明日絶対に筋肉痛…」
「普段から運動しない奴がダメなんだろうが」
「いや、旦那と一緒にしないでくださいよ!? …まあ、将来的には旦那みたいにムキムキになりたいですが」
「却下」
千尋さんは即答すると、バイクにエンジンをかけて急発進する。
真琴は慌てて千尋さんの腰に手を回した。
俺も真琴のムキムキあまり見たくないぉ。
俺よりも背が小さくてもやし体型の真琴が好きだよ。……って言ったら、絶対キレるよな、真琴。
二人は帰路に向かっているのだろうか?
あまり賑やかではなく過疎化している商店街を抜けると、廃ビルやスナックバー等が立ち並ぶ区域に入る。
人通りが少ないその外れの一角に、千尋さんと真琴は降り立った。
…え……?
真琴達が入っていったビルを、車内から見上げる。五階建ての古いビルの窓には、くっきりと"矢澤組"と印されていた。
え、組…?そ、それって、…え、えっ!?
「おい…俺、冗談で言ったんだか…まじでヤクザか…?」
会長がボソッと呟く。
え、うそだろ?常識人の真琴が、あり得ない。
俺達が黙りこくってると、着信音が響いた。会長だ。
「もしもし…あ?真知?…えっ、おい、待てっ」
慌てた様子を見ると、切られたらしい。
「黒滝先輩がなんて?」
「ここから二つ目の角の先にあるカフェにいるから来い。だとよ。つか、なんであいつ俺達の場所が分かるんだよ…」
「黒滝先輩だからじゃないですか」
車を走らせ、目的のカフェに辿りつく。
店内を見渡すと、黒滝先輩が手を振って場所を知らせてくれた。
会長は大股で歩き、話し始める。
「おい、あいつ、ヤク「知ってるから」…そ、そうか」
「僕達、ずっと彼のことを調べてたからね。ねぇ、千鶴?」
「…は、はい…」
…ん?副会長の顔が赤い。
俯きながら黒滝先輩の言葉に相槌を打っている。
え、黒滝先輩とナニがあった?ぜひ詳しく教えていただきたい。
会長が眉をしかめて疑問を口にする。
「…おい、真知…千鶴に何したんだよ、お前」
「何もしてないさ。…素直な子は可愛いってことだよ。お帰り、優」
「いやいやちょっと待った!黒滝先輩、ナニがあったか詳しくどうぞ!つか教えて!ちゅっちゅでもしたんすか!?」
ハァハァしながら黒滝先輩の肩をガシッと掴む。
目の端に、驚いてくりくりの瞳をさらに大きくするチワワくんと引いた表情を浮かべる西條が映った。
周りの視線なんか気にしないぞ!
真知先輩はあまり表情を変えずに答える。
「君、本当変わってる子だねぇ。そういうとこ、嫌いじゃないよ」
「げっ…俺にフラグたてないでください。腐男子受けは断る!」
「は?」
真知先輩が片眉をしかめる。それを見たワンコ先輩は俺達の間に割って入ると、真知先輩の隣に腰かけた。
「早…く……まこ…事、知…た…い…」
「ワンコ先輩…」
積極的だな…。どうしたんだ?今日のワンコ先輩は…。
俺達も先輩にならい、席に着く。
副会長は気を取り直すように咳払いをし、ノートパソコンを開いて話し始める。
「大崎くんが"千尋さん"と呼ぶ方について調べてました。
本名、長瀬 千尋。水島会直系矢澤組の二代目組長です。20歳の頃、体が弱くなった"親父さん"に組を任され、今にいたります。
もちろん若いので、"親父"ではなく"ヒロさん"と呼ばれているそうです」
「本名で呼ばれると酷い目にあうらしいからねぇ。僕は今後、ヒロさんと呼ばせていただくよ」
ヒロさん…か。でも真琴は"千尋さん"と呼んでいた。
……真琴だけに許されてるのかもしれないな。
「噂はある意味、良いです」
「ある意味?」
「あちらのほうでは人望が厚いってことだよ。世の中、警察では解決ができないことがあるからね」
…大丈夫なのか?真琴…。聞いてた俺達は不安で口を結ぶ。
それを見た真知先輩は再び言葉を綴る。
「彼をそんなに危険視する必要はないよ。矢澤組はある意味甘いから。
危ないところギリギリに線を引いている。
優秀な用心棒…というより、抑制剤が居るからだろうね」
その抑制剤が、真琴か…。
今日俺が見た真琴は、普段とは違ってたくさん笑い、その笑顔をヒロさんに向ける。
そしてその真琴を見下ろすヒロさんの目も優しかった。
……真琴は、ヒロさんが向けてくる"愛情"が恋愛感情だと知ったら、どういう反応をするんだろう…?
そして、俺の"好き"が恋愛感情だって知ったら、真琴はどういう顔をするんだろう?
俺にはやっぱりまだ真琴に告白する勇気がない。ヒロさんも、きっとそうなんだろうな。
「ヒロさんとご関係を持つ方に話をうかがったところ、大崎くんの存在はかなり噂になっているようです。……巻き込まれないかと、私的にはとても心配なのですが」
「真琴くんも覚悟して傍にいるだろうよ。まぁ、真実は噂とは違うときもあるしね。…己の目で確かめてくるよ」
黒滝先輩はそう言うと、席から立ち上がる。
それを見た会長が、まさか…という表情で黒滝先輩を見上げた。
「おい…まさか、乗り込む気か…!?」
「だ、ダメです、真知…!座りなさい!」
「君、誰に命令してるの?…ヒロさんが真琴くんを大事にしてるなら、僕達を手荒く扱うことはないと思うよ。
…ねぇ、三橋くん。君はどうするんだい?」
俺を見下ろしてくる黒滝先輩の視線が挑戦的だったから、負けじと俺も立ち上がった。
「…行くに決まってるっす」
「じゃあ俺も」
「ぼ、僕も…!」
「…仕方ありませんね。私も同行します」
「……」
俺が立ち上がると、西條、チワワくん、副会長が続き、ワンコ先輩が無言で立ち上がった。
取り残された会長に、俺達全員の視線が注がれる。
「ヘタレバ会長はどうするんだい?」
「…ヘタレでもバカでもねぇ!行くに決まってんだろ。……俺は好きで飴役を放棄したんじゃねぇ」
飴役…?
それを聞いた黒滝先輩は笑顔で会長のみぞおちに拳を入れた。
「ぐっ…!」
「ムカつくなぁ」
「真…知、ぼーりょく…めっ」
「つか、何か俺らじろじろ見られてるんだけど?」
西條が怪訝そうに眉をしかめる。
周りを見渡すと、確かに女性客がこっちを見てヒソヒソと話している。
「そりゃ、俺様達がかっこいいからだろ。長沢は可愛いが」
「え…っ」
「バ会長、貴方は本当ナルシストですね」
「いや、事実だと思うよ?君も美人だしね。ねぇ、優?」
「ん…」
生徒会メンバーが言いあってたから、西條とチワワくんを連れ、カフェから先に出る。
空は夕日で赤く染まりかけていた。
目線)三橋 昴.end
……矢澤組のビルに入り、千尋さんが扉を開ける。
毎度の如く、ガラの悪そうなお兄さん達が左右に並んで列を作り出迎えてた。
「ヒロさん、兄貴、お疲れさあっす!」(語尾が濁っててよく聞こえない)と、皆口々に声を張り上げて頭を下げる。
千尋さんはいつも通り何も言わず真ん中を素通りした。
「ヒロさん、宮城さんから電話があったっす!」
「…つなげ」
旦那が奥の部屋に行ってしまったため、下っぱ達の群に取り残される。
「兄貴!」
「は、はい?」
「お誕生日おめでとうございあすっ!」
と、囲まれながら口々に言われる。
威圧感があるから囲まないでほしい。
……なんというか、この人達は俺を坊ちゃんのように扱ってくる傾向がある。
「今回は兄貴のために、俺達がケーキを作ったっす!」
「今年も都合があって一緒に祝えないんすよ。
だから俺達、ケーキに愛情こめったっす!」
何故かは知らないけど、この人達は俺の誕生日の日は毎年早く帰ってしまう。
だから毎年、旦那と二人きりだ。 試しに台所へ行き、冷蔵庫を開けてみる。
おおふ…ケーキと言うよりモンスター。
しかも台所汚ねぇ。
作った本人達は、俺の感想を楽しみに待っている。よし、仕方ない。
「ありがとうございます。…嬉しいです」
見た目はどうであれ、この気持ちは本心。 笑いかけると、皆デレデレの表情を浮かべた。 …みんな怖い顔してるから、デレ顔はさらに怖く見えるな…。
「兄貴、その指輪は……」
「旦那がくれたんです」
「旦那…とは?」
「あ、千尋さんです。新しいあだ名で…」
「さすが兄貴!ネーミングセンス抜群っすね!」
「ヒロさんも喜んでるっすよ、きっと!でも何で右手の薬指なんですかねぇ」
「ばか、お前。そしたらヒロさんの気持ちがばれちまうだろ!」
「今日のデートは、どうだったんすか?」
質問攻めに合い、たじたじ状態。 早く抜け出したかったため、「台所を後で使うので元通り綺麗にしてください」と言ってその場から立ち去る。
千尋さんの姿を探し歩きまわってると、個室のベッドで仮眠していた。
寝顔が険しいところを見ると、あまりいい夢を見てなさそうだ。
しゃがんでベッドによりかかり、横顔を見つめる。
──今日、千尋さんが指輪を渡すときに言ってたこと。
きっと、亡くなった千尋さんの血の繋がった弟のことだと思う。
詳しくは知らないけど…。 千尋さんの言葉を聞いて、俺は絶対生き残ってやる、と思った。
俺が千尋さんのためにできることは少ないけど。ちょっとでもいいから役に立ちたいんだ。
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