アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
嫉妬(7/7)
-
「それに……抱くにしても、やっぱり初モノはいいよね。ねぇ、千鶴」
「…もうその話をひきずるのは、やめていただけないでしょうか」
副会長は顔を赤くして俯く。
…え、何?何の話だろ…?
宮城はというと、めげずに違う人に目をつける。
「あいつは?外人か?」
視線の先には凪がいた。 凪は無表情で宮城をシカトする。
「…クールなやつだな」
「いや、全然」
単にあなたに興味がないからシカトしてるんだと思います。普段は非常に人懐っこいし。
「…まぁ、あれだろ。雰囲気的に真琴が好きなのは……編み込みのあいつと、女顔の奴だろ? 真琴は癒し系と可愛い系が好きだもんな」
「…うっ」
宮城が指をさしたのは、優先輩と長沢。 …よくわかってらっしゃる。
恋愛感情とかはもちろんないけど、あの2人の雰囲気は……すごい好きだ。
「つかお前、ほんとに男?」
「え…っ」
見た目が屈強な男・宮城が、かよわい長沢に近づく。長沢はビクビクしながら宮城を見上げる。
「も、もちろん、男…です…」
「証拠は?…まぁ、胸はねぇみたいだが…貧乳ってのもありえるし」
「や…っ」
急に胸元に手を当てられた長沢は小さな悲鳴をあげる。 それを見た瞬間、自分の中でぷつんと何かが切れた音がした。
「…てめっ、宮城!! 長沢に何してんだよ!」
「…っ、危ねえな」
振り上げた俺の拳を、宮城がパシッと掴む。 宮城は俺をじっと見つめると、小さなため息をついた。
「…大変だな、ヒロも」
「は…?」
宮城の発言に眉をしかめる。 聞き返す前に、旦那が先に口を開いた。
「……宮城、来い」
「あぁ。じゃあまた今度な、真琴」
宮城と旦那が部屋から出ていこうとする。 千尋さんは振り返って俺を見ると、一言残した。
「…早くそいつらを追っ払え」
「…はい」
追っ払う前に、聞きたいことが沢山あるけどな。
さっそく問い詰めようと思ったけど、長沢が震えていたから近づいて背中をさする。
「…長沢、大丈夫か…?」
「…大崎…」
長沢は俺の胸元に顔をうずめると、ポロポロと涙をこぼしはじめた。
長沢の髪が、俺の頬をかする。
……あ。 非常に場違いなことなんだか、心の中で呟かせていただく。
…その、…シャンプーの香りって、何かドキッとするね。
長沢の背中を撫でながら、部屋をぐるっと見渡す。
……構成員達には悪いが、話しにくいから出ていってもらおう。
無理矢理部屋から押し出し、扉をきちんと閉める。そして、ゴホンと咳払いした。
「…で?きちんと説明してくれませんか。あんたらがここにきた理由、何故ここを知ってるのかを全て」
長沢を座らせて、皆に鋭い視線を向ける。
ほとんどの人が目をそらしたから、指名することにした。
「政司先輩。説明してください。てか、説明しろ」
会長を睨むと、本人は俺をじっと見据えて簡潔に答えた。
「…ストーカーした」
「……は…?」
「全員で今日一日、お前の後をつけた」
「僕と千鶴はしてないよ?」
真知先輩は放心状態の俺に近づき、パーカーのぼうしをまさぐる。
先輩の手の平の上には小型の盗聴器があった。
「……んで…何で…そんなことしたんだよ…!」
息がつまって、胸が苦しい。
突然、左手を掴まれたため驚いて振り向く。
ソファーに座ってる優先輩が、じっと俺を見上げてきた。
「…まこ…が、好…き。…から」
俺が好き…?
好きだったら、ストーカーしてもいいって言うのか?
…落ち着け…俺。
ムカムカとイライラとズキズキが体を蝕んでいく。頭ん中がごちゃごちゃだ。
「真琴…」
「…っ」
俺に触れようとしていた昴の手を、思わずパシッと振り払ってしまう。昴の傷ついたような表情を見て、我に返った。
「…悪ぃ…」
俺を好いてくれるのはめちゃくちゃ嬉しい。
これ以上ないくらい幸せだ。
…だけど。
「……自分がやられたら嫌だなって思うこと…他人にやるなよ…」
今日一日のプライベートな時間を、気が抜けきっただらしない自分を覗き見されてたと思うと、恥ずかしくて怒りが溢れそうになる。
唇をぐっと噛んでいると、真知先輩が口を切った。
「真琴くん」
「…何…ですか」
「この子達、ストーカー行為のことを君に白状せずに、帰ることもできたはずだよね。でも、そうしなかったのは…皆、君の事が大事で、心配だったからだ」
「……」
先輩の言ってる意味は、何となく分かる。
"こんな場所"に足を運んでいる俺のことが心配で、皆が覚悟を決めてここにやってきたということ。
「…俺は…自らの意思でここにいるんです。…居たいんです。
……心配かけて…すみません…」
目を伏せて、皆に呟くように詫びる。
旦那には、強要も、脅迫もされていない。
けど…危ない目にあったことは何度かある。
そんなことがあってから、旦那は俺から距離を置こうとしたけど、俺は無理矢理旦那についていった。
俺は旦那に迷惑ばっかりかけて、旦那には何もお返しできてない。
だからこそ"傍にいる"という約束だけは必ず守りたい。
誰に何と言われようと、絶対に。
「……心配してくれたのは、嬉しかった。
…けど、もう帰って。…帰れよ」
視線を床に落として呟く。
俺の言葉を聞いて、みんなはそろそろとソファーから立ち上がる。
……「ばいばい」と昴や凪に言われても、返事を返せなかった。
日が落ち、暗くなっていく部屋で目をつむって床に座りこむ。
右手の薬指にはめられている指輪をぼーっと見つめていると、部屋の扉が開く音がした。
「……何やってんだ、てめぇは。電気つけろよ」
「…千尋さん」
そういや…旦那…キスのこと覚えていたんだっけ。気まずくなって、目をそらしてしまう。
「…目ぇそらすんじゃねぇよ。感じ悪ぃな」
「す、すみません…。み、宮城は?」
「帰った。…明日、寮に送る前にお前のじいさんのとこに行くか」
「あ、ありがとうございます…」
会話が途切れてしまう。…気まずい。
「…お、俺、急いでカレー作るんで…遅れてすみません」
もう5時だ。立ち上がって部屋を出ていこうとする。すると、千尋さんが俺の腕を掴んだ。
「…っ、千尋さん…?」
「真琴…」
振り向くと、千尋さんが俺をまっすぐ見つめていた。その眼差しを受けて、ごくっと唾を飲んでしまう。
「……何ですか…?」
「お前、幸せか?」
「え…?」
「あいつらといて楽しいか」
あいつら……昴達のことか。
「…楽しいし、幸せです。みんな、色んな"初めて"を教えてくれて…。
言葉では上手く表せないけど、あったかい気持ちになります」
「……そうか」
「えと…それが何か?」
「……」
「…千尋さん…?」
黙り込む旦那の腕を掴み、顔を覗き込む。
……部屋が暗くて、旦那の表情がよく見えない。
「…お前は 」
「…?」
「お前はそうやって俺のとこから居なくなっちまうのかもしれねぇな…」
「え…?」
「情けねぇ話だが、お前の成長を素直に喜べねぇ自分がいる」
「…!」
何で……?
「少し会ってなかっただけで真琴が遠く感じる。……お前は本当はこんなとこに居ちゃいけねぇんだ」
「お…俺は……」
「今はそうでもいつかは離れてくんだろうな。…初めてだ、こんなに不安になるのは」
…不安…?
今の俺は、旦那を不安にさせている?
俺は離れるつもりなんて絶対ないのに。
「未来がどうなるかなんて分かんねぇんだよ。…お前も、あの学校に転校してこんなに自分が変わるとは思ってなかったんだろ?」
「……っ」
それを聞いて、否定しようとしてた言葉が喉につっかえてしまう。
「……真琴、そんな顔するな」
「旦那…旦那は……"今の俺"、嫌いですか…?"前の俺"のほうが…好きですか…?」
俯いて、旦那の返答を待つ。
…怖い…。
千尋さんの手が、俺の肩に触れた。
「"前のお前"のほうが…不安にならねぇのは確かだな…」
「……!」
千尋さんはそのまま部屋から出ていく。
その背中を見て、苦しかった胸が更に痛んだ。
俺は…今の俺が好きだ。
けど、今の俺は旦那を不安にさせている。
俺は、どんな俺になったらいいんだ…?
今の俺は間違ってるのか?
だって、大事な人を不安にさせて苦しませている。
昴、凪、長沢、副会長、真知先輩、優先輩、政司先輩、先生……みんなに出会ったことが間違いだったなんて…思いたくない。
……けど。
「どうしたら…いいんだよ……っ」
たった1人の大切な人を幸せにすることができない。……俺はいつまで無力な人間なんだろう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 63