アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
トゥルーラブ(3/8)
-
あの頃の真琴は、不安定で相当捻くれていたしネガティブで自分が不幸だと思っている奴だった。
自分一人の力で生きていると勘違いしてるガキらしいガキで、しょっちゅう俺を苛立たせた。
今までのバイトを全て辞めさせ、雑用係として真琴を雇い、倍の給料を与えてやった。
……たまに、孤児院の子供の遊び相手として真琴を送り込んだりしたが、やはり人付き合いは苦手そうに見えた。
出会って頭一年は、毎日真琴を泣かせたと言っても過言ではない。
真琴も何かと口酸っぱく言う俺が嫌いだっただろうな。
……だが、それからまた長い時間が経過した後、ある異変に気がついた。
ガキが…異常に懐いている。
"いつから懐いた"かは、本人に聞かないと分からないが、何故か主に従う犬のように尻尾を振っていた。
俺も俺で、こいつが隣にいる事がすっかり慣れ、ガキが居ると少し落ち着くような気がする。
真琴とは更に微妙な関係になったが、それをはっきりと形にしようと思う事件が起きた。
……他の組とゴタを起こしていたとき、真琴がそいつらに捕まったときがあった。
真琴はこっちの業界では噂になりつつある。
もっと目配りしてやるべきだったが、起きた事は後悔しても遅い。
今までにねぇ位ハラハラして、あいつを取り戻したときは表情に出してしまう程安堵した。
真琴は傷だらけで、いくら男でも普通だったら取り乱して泣いてもおかしくねぇのに、唇噛んで懸命に笑っていた。
「俺……全然平気です。こんな痛さより、…何も言わずにどっかに行って、傷だらけで帰ってくる千尋さんを見るほうが辛いです」
真琴の瞳には涙が浮かんでいたが、真琴はそれをこぼさないように堪え、眼差しを送ってくる。
「俺……今はまだこんなんで頼りないけど、千尋さんみたいにかっこよくなれるように頑張るから…強くなって、頼られるような人間になるから……。
だから、ほんの少しでいいから俺に千尋さんの事、教えてください。
大切な人が傷つく姿を、もう黙って見ていたくない……」
組の事になると、俺は危ない目には合わせたくねぇから真琴を蚊帳の外にしていた。
が 、本人はそっちのほうが辛かったらしい。
…微妙に、その気持ちは俺も分かるような気がする。
真琴からの深い愛情を感じ、兄弟盃を交わそうと、そのとき思った。
あの時の真琴の表情がずっと目の奥にこびりついている。
その後、真琴には帳簿係……つまり、組の流れの金を管理させる重要な役をやらせた。
もちろん俺も手を加えていたが、あいつを信用して任せ、今も真琴が管理している。
……真琴とは兄弟盃はすぐに交わすつもりだった。
が、真琴に対する自分の愛情が変化したことに気がつき、距離を一気に置くことになる。
──あいつを抱きしめてぇ。
ふと、そう思ってしまったからだ。
今までに何人かの女と付き合ったことがあるが、全て長続きしなかった。
原因は、お互いに望むことを叶えられなかったからだろう。
何で側にいてくれないのか。
何で毎日連絡してくれないのか。何で時間を私に割いてくれないのか。
私を愛してるなら、どうして~してくれないのか。と、口癖のように言われたのを覚えている。
相手を尊重してやれねぇと、関係はうまくなりたたねぇ。俺はそれが出来なかった。
真琴の場合、"付き合ってる"関係じゃねぇから、優しい言葉をかけたり抱きしめる必要もねぇし、顔色をうかがわなくてもいい。
なのに、俺の傍にいて見守ってくれる。
俺はそんな真琴を見て、自ら"抱きしめてみたい"と思った。
……もちろん、その気持ちを認めるわけにはいかない(認めたくなかった)し、一時の気の迷いだと思って頭を冷やそうとした。
その結果、真琴に冷たくあたっちまったり、避けたり明らかに不自然な態度をとってしまった。
真琴はそんな俺に対し、負けじと後を追いかけてくる。
…そんな中、俺は数年ぶりに風邪を引き、ぶっ倒れた。
真琴は弱っている俺を見て何故か嬉しそうな顔をし、奉仕しようしていた。
布団の横にちょこんと座られても(安堵して)眠れるわけねぇし、ほっといてほしかった。
……真琴に対するあの感情を認めちまいそうで怖かったから。
とりあえず、脅して部屋から追い出そうと思い、だるい腕を持ち上げて真琴の胸ぐらを掴む。
すると、あいつは見事にバランスを崩して布団に横になっている俺の上に覆い被さってきた。
スローモーションのように、あいつの真っ青な顔が俺に近づいてくる。
次の瞬間、俺達はぶちゅっと熱いキスを交わすことになった。
キスの具合は……まぁ、正直に言うと最悪だった。
勢いよくカチッと歯同士がぶつかったし、キスしてきた張本人は目をひんむいて震えあがっていたからな。
俺も俺で、あまりの衝撃ですぐに言葉がでてこなかった。 反射的に真琴の胸ぐらを掴み、「テメェ…!」と叫び散らしたが、高熱で意識が飛んだ。
真琴が俺の名前を心配そうに呼び、体を支えてくれたのをぼんやりと覚えている。
キスの件で、俺は更に悩みに悩んだ。 俺が……あのガキの事を愛してるだと?
好きは…好きだ。必要としている。
ムラムラ…も、時々したときがあった。
弟と無意識に重ねてる事は……ないな。
真琴は俺の弟とは真逆な奴だ。
高熱が下がり、深い眠りから覚める。 横を見るとウトウトと眠りかけた真琴が俺の枕元で座っていた。
こいつは……俺が甘い言葉をかけなくても、一生懸命働き、心配して笑いかけてくれる。 俺だけに、笑顔を向けてくれる。 俺も腹を括るか……。
常識?んなもん今更気にするか。 俺は、俺の手で、真琴を幸せにしてやる。
今まで以上に。
……親友の宮城(バイ)に、真琴に対する気持ちを話した。馬鹿にされた。だから殴った。
宮城は腹いせに組内に噂を広めたが、義兄弟達は何故か俺より気合いを入れ「応援してます!」と口々に言ってきた。
もちろん、真琴の事を兄弟とは思っていないが、真琴を安心させるために兄弟盃の真似事をした。
初めて「真琴」と、名前で呼んでやったときは、あいつが物凄く嬉しそうな表情で笑ったのを覚えている。
……それからまた、数年。
真琴は少し大きくなって、賢くなった。 少しだけ格好良くもなっただろう。
宮城には前、「真琴に対するお前の好きは、保護者目線の好きなんじゃねぇの?」と聞かれたことがあった。
だが、それは違う。
俺はよく真琴をガキと言うが、子供として見てねぇ。まだまだ未熟だが…一人の大人として見て、対等に向き合っている。
そして、真琴を心から愛している。
「──…」
「あ、旦那……おはようございます」
目が覚めると、視界の隅に真琴の顔が見えた。
手の平に違和感を覚え、 見ると俺の手は真琴の手をがっちり掴んでいた。
「す、すみません、その…」
「俺が掴んだんだろ。何でてめぇが謝る?」
「や、その……ちょっと可愛いなって…」
「あ"?」
「ひっ…、何でもないです…」
言わせてもらえりゃ、お前のほうが100倍可愛い。真琴は立ち上がると、俺に笑いかけてくる。
「……俺、朝食作ってきますね」
回れ右をした真琴の手を、腕を伸ばして掴む。 真琴は首を傾げて俺の方を見る。
俺はその目をじっと見つめながら、一言口にした。
「……愛してる」
俺の言葉を耳にした瞬間、真琴の顔がリンゴのように真っ赤に染まった。
目線)長瀬 千尋.end
──え…っ、ちょっ、千尋さん今何を……!?
例え、旦那が「おはよう」と返しただけでも、きっと俺はびっくりしただろう。
なのに、あ…"愛してる"って……!?
朝からそんなスッゴイこと言われても、困ります…!
全身の血が顔に一気に集まっていくのを感じた。
「……あ…」
「……」
千尋さんの真っ直ぐな瞳から、視線をそらすことができない。
唾をのみこむ事ができないくらい、身体がドクドクしている。
「真琴……」
「っ……あ…の!!」
「…?」
「しゃ、シャワー浴びるなら、タオル出しとくんで…っ、は、はやく入ってください…!」
「おい、まこ「ご、ご飯つくりにいきます…!」
千尋さんの手を振りほどいて、足早に部屋から出て行く。
おかしい……!こんなのおかしいだろ!
……千尋さんらしくない。
あんなことを何度も口にするなんて。
これも……俺のせい?
不安にさせてるから…?
……しっかりしろ、俺。
千尋さんの不安の種になってどうする。
旦那を支えることができるような奴になるんだろ。
一度目をふせて、息をふーっと吐く。 ……よし。
パンッと自分の頬を両手で叩き、行動を再開した。
シャッターを開けに行って、シャワー浴びてる旦那の服とタオルを用意して、洗濯物を干しに行って、朝食を用意して……。
「──もうそれ、主婦じゃね?ヒロと結婚しちまえ」
「せめて主夫にして。つか、旦那をけなすようなこと言うな、宮城」
訪問客のからかいに、俺は冷たい態度で言葉を返す。
そういや旦那…昨日の夜、今日は宮城と行動するって言ってたな。
「何か真琴、顔赤くねぇ?」
「え……ほんと?」
「あぁ。なに、どうした?ヒロと何かあったのか?」
「……最近の旦那、妙に優しくて…好き、とか、愛してる…とか、言ってくる…」
「……まじ?そりゃ、重症だな」
「…やっぱ、俺のせい?」
「もちろん。つか、お前以外ありえねーから。ヒロ、お前のこと大好きだしな」
「……」
嬉しいような…複雑なような…。
今までの旦那は、そんな素振りを一度も見せなかったから、急激な変化で頭の整理が上手くつかない。
「宮城……俺、千尋さんの弟に似てたりするか?」
「いいや、全く。顔も性格も正反対。 …心配するな、ヒロはお前を弟と重ねて見てねぇよ。 あいつは真琴自身が好きなんだ」
「そ…」
俺自身が好き…か。 ちょっと安心した。
ホッと息をつきながら卵をといてると、宮城が「あ」と声を上げた。 今度は一体なんだ。
「何……?」
「いや……そういや、そろそろ親友の誕生日だなーっと」
「親友って誰?」
「昔、俺とヒロと一緒につるんでいた……前に言ったろ、金髪の奴だよ」
「千尋さんが対抗心で銀髪にした、きっかけの人か……」
「絶対ヒロにそいつのこと、深く詮索するな。
……その金髪の奴は、ヒロの弟の死に深く関係してる。ヒロにとっちゃ、1番触れてほしくない傷痕だ」
「……」
金髪の昔の親友が……千尋さんの弟の死に関係してる…。
一体、何があったんだろう。
宮城は…もうこれ以上は口を割ってくれなさそうだな。 千尋さんが自分の口から話してくれるのを気長に待とう。
……ほんとは旦那に聞きたいこと、もっと沢山あるけど。
フライパンにといた卵を流し入れてると、宮城が横から口を挟む。
「……つか真琴、お前ってほんとアレだよな」
「あ"? "アレ"って何じゃいワレ」
「めちゃくちゃたちが悪いタラシだろ?
あんな美少年達に囲まれてよ。嬉しいだろ?」
「…知るか。別に美少年じゃなくても……会えて嬉しかった」
そう答えると、宮城はハァ…とため息をついた。本当に失礼な奴だな。
「そーゆー発言が、タラシに繋がるんだっての。分かってねぇな」
「じゃあどう答えろってんだよ。うるせぇな」
本当のことを言って、何が悪い。
棘のある返答に、宮城が眉をしかめる。
「機嫌悪いーの。ヒロも機嫌悪いか?」
「さぁ」
「あいつ、昔から機嫌悪いと手ぇでやすいからな。俺、前に一度お前を泣かせたことあっただろ?」
「……あぁ…、中学生の時ね」
「そのとき俺、ヒロにガチで殴られたんだぞ?」
「へぇ、そりゃおめでとう」
「何がおめでとう、だコラ」
宮城はそう言うと、俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回し、わきをくすぐってくる。
「ちょ……っ、やめろ…っ!」
「お前本当にわきをくすぐられんの弱ぇなー」
「ふ…、く…っ」
くそ…っ!
くすぐられるの、マジで無理。苦手。
誰か助けて。
「…っは、ぁ…っ」
「……お前、何か声えろくなってねぇ?変な気分になりそうだからやめろ」
「て…めぇが、止めろっ、ホモ宮城…!
俺でおったてたらまじでぶん殴る!」
わきをくすぐる宮城の手を、爪を立ててガリガリと引っ掻く。
すると、そこへ旦那がやってきた。
「宮城……テメェ…」
「や、違う!違うんだヒロ!」
「……」
はたからみれば、宮城が嫌がる俺を後ろから羽交い締めしてるようにしか見えなかっただろうな…。
俺の目の前で、千尋さんが素晴らしい拳を繰り出し、宮城を殴り倒す。
俺の代わりに、旦那が宮城を殴ってくれた。
あぁ……何か嬉しいな。
千尋さんが俺の為に何かをしてくれるなんて。
「おいっ、真琴!? お前、何で俺が殴られてるのを見てニヤニヤしてんだよ!? 」
「…別に?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
63 / 63