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センチメンタル 梶原SIDE 1
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梶原SIDE
期末テスト一週間前。
部活もなく、早く帰宅出来る最高の一週間。
夕飯が終わって自室の机に向かい、数学の教科書を開く。
テスト勉強しようと思うと普段気にならない本棚や机の上が気になり始めて、掃除をしようか、模様替えをしようかなんて無駄な事を考えて現実逃避をしてしまいがちだ。
なんとなくやる気が出ずにパラパラと範囲ページに目を通していると、落書きされたページに気づいた。
川本がよく描く、なんだかよく分からないサッカー選手のような物体とそれに付いた吹き出しに“かじわらのアホー”と書いてあった。
あいつ、いつの間に。
消そうかと一瞬消しゴムに手が伸びるがやめて、その絵を人差し指でなぞる。
「へたくそ。」
俺に隠れてこっそりこの下手くそな絵を川本が描いている場面を想像したら、ふっと笑いが込み上げた。
他には何か描いていないのかと期待をして他のページを探してみたが結局見つからず、元々やる気のない勉強に対する意欲も裏切られた期待と共に消沈して、教科書を閉じる。
閉じた教科書を乱雑に机に投げ出すと氏名欄が目に飛び込んだ。
俺の名前を消すような二重線が引いてあり、その一段上に“俺の”と書いて丸で囲んだ川の文字。
しかも油性ペンの太い方で書いてある。
何してくれとんねん!消えへんやんけ!と思いつつ、『俺の』って・・・と少し嬉しくなった自分の健気さと妄想力と気色の悪さに全身の力が抜けた。
何考えてんねん、俺のアホ・・・
雑念を振り払い今度こそ、とテスト勉強に集中しようとした時、一階の玄関が開く音が聞こえてそれからすぐに二階へ上がる足音。
意思を持って俺の部屋へ向かうのが分かった。それも一人じゃない。
え?誰??
扉が開くのと同時に入り口に目を向けると、川本と島田がニヤニヤと締まりのない顔を出した。
「あ!お前何してんねん!」
第一声の川本を皮切りに
「まさかテスト勉強してるんちゃうやろうな!?」
と島田。
テスト期間中には絶対部屋に上げてはいけない人物の登場に気が滅入る。
「うっさいなぁ!当たり前やろ。・・・なんやねん急に」
俺の問いかけを無視してお構いなしに川本は俺専用と言っても座りたがる俺の座椅子へ、島田はCDコンポの前へといつもの定位置へ座って寛ぎだす。
「コラ、なんやねんってー。あ!島田なんでビール持ってきとんねん!」
「うっさいうっさい。お前のもあるで、ほら。」
島田が大きめのレジ袋の中から缶ビール500mlを三本取り出し各自の前へ一本ずつ置くと、近所の腐ったスーパーから買ってきたであろう、今時どこに売っているのかも分からないメーカーのスナック菓子を慣れた手つきでパーティー開けしてテーブルの上へ飾った。
川本は別のレジ袋から自分好みのつまみを取り出して適当に口を開け始める。
「ほら、ちゃうがな・・・。お前ら勉強せぇよ。」
自分にもやる気がない勉強意欲ではあるがここはそう言っておかないといけないような気がして、内心では二人の登場で諦めてしまっているが一応やめてくれという体裁を保つ。
「アホー!テスト勉強なんかしとる奴おらへんやろ。お前ホンマにアホやな!」
アホはお前じゃ、と思いながら首の皮一枚で耐えていたやる気は吹っ飛び、やけくそのようにプルタブをこじ開けた。
「せや。テスト前の一週間っちゅーんは、部活休んで遊んでええでって言う学校の計らいやないかい。飲んだらええねん、飲んだら。」
なんてワケの分からない理屈を捏ねる川本に、もう異論を唱える気など毛頭なかった。
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