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スタートラインK その8
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30分経っても梶原はまだ来ない。
腕時計を何度か気にしてみては目の前のジュースを飲み干した。
飲み物を取るついでにフロントへ見に行こうかと考えたが島田が追加のドリンクを注いでしまい、いつになく気が利いていて不気味だった。
「川本くんさっきから時計気にしてるけど、なんか予定あるん?」
「ん?や、あれへん。」
津田に問いかけられて時計を見るのをやめた。
津田はバレー部のセッターで、クラスでもよく笑う明るい子だ。艶のある黒髪のボブストレートで、関西の女の子にしてはただ元気なだけではない、どこか穏やかな空気を纏っている。
「多分この後二次会あるみたいやねん。さっき智美たちが言うてたから。川本くんも行くよね?」
「行くに決まってるやん!!津田とまだ話したいやん!な!川本!!」
俺が答える前に島田が言う。
反論しようと俺が何か言う前に自分の入れた曲がかかったらしい島田はみんなの前へと躍り出てしまった。
「島田くんておもろいなぁ。」
「ただのアホや、あれは。」
よく笑う津田に釣られて俺も自然と笑える。
なんの他意も感じずに話せる津田との空間は久しぶりの休息のように楽でいられた。
「津田は行くん?二次会。」
「みんなが行くなら行くと思うけど。もしかしたら、迎えに来るかもしれへんからまだ分からんかな?」
「親?」
「彼氏。みんなには言わんといてなっ。智美たちにしか言うてないねん。」
照れたように微笑む津田は普通に可愛らしい。
これくらい素直に笑ってくれればいいのにと梶原を思い出すと、扉のガラス越しにまさに本人が室内を覗き込んで、入るのかと思えばそのまま立ち去ろうとする。
どこ行くねん!
慌てて人の足を跨ぎ、器用にも男子の足だけを踏みつけて扉を開ける。
「おっそっ。入れや!」
たった数日会わなかっただけなのに、ひどく久しぶりに顔を見た気がして思わず笑顔が零れた。
「こっち。」
隣に座らせようとの思惑は
「うぉーーーーーい!遅いやんけー!まぁ座れや!な!」
またしても島田に阻止される。
今日は厄日か?仕方なく元の場所へ戻り、新しく入れられていたジュースを一口飲むと、いつの間にかチューハイに変わっていた。
「川本くんこれ飲めたら飲んでくれる?あたしお酒あかんねん。」
「ええよ、そこ置いとき。こんなんなんぼでも飲む奴いてるし。」
「ありがとう。」
一口飲んだらしい津田は少しだけ頬を赤く染め、俺はそのコップを島田の前へ移動させた。
梶原はいつになく飲むペースが早い。
ろくに食べ物も入れていないだろうくせに、親の仇のように無茶してまでなぜそんなに飲まなければいけないのか。
まるで自棄酒だ。
周りを探しても紙皿が見当たらず仕方なく俺の使い古しの紙皿に、みんなの食べ残したオードブルを何品か乗せて持って行ってやろうと立ち上がると、
「あ!悪いな!座っといて座っといて!!」
島田。
梶原に、と言いかけたが最早島田の耳には届いていない。
こいつどついたろか。
メドレーをみんなでマイクを回して歌う中、気付けば梶原がいない。
立ち上がると再び島田が動き出す。
「どこ行くん?みんなで歌おうや!」
「トイレぐらい行ってもええやろ!」
今日に限っては本当に鬱陶しすぎる島田をどつきたい衝動を抑えてようやく、かごの鳥からの脱出が叶った。
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