アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
初恋 その5
-
朝礼後の抜き打ち検査で髪の色が引っかかった。
前回の検査はたまたま職員室に出向いていた誰かが教師の会話を聞いていたらしく垂れ込みのお陰でうまく捜査網を掻い潜り逃げる事に成功したが、まさかこんなに早く次の抜き打ちがあるとは予想出来ずに、今回はあっさりと捕まってしまったのだ。
生徒指導のゴリこと、藤平新次郎48歳独身に放送で呼び出され部活前に体育館へ向かう。
髪の色で何が決まる?
黒でも金でも赤でも紫でも、果ては銀色だろうと川本清史という存在を否定出来る要素はひとつもない。少なくとも俺の中では。
そんな事、大海に出ればチリとなる理論だろうと俺は今、井の中の蛙だ。蛙は蛙の理論でしか生きられない。
くそ、めっちゃうまく染められたのに。
限りなく黒に近く、一見して分からないよう細心の注意を払い染めたこの黒をまた黒染めさせられるのかと思うと気が滅入った。
侮っていたゴリも伊達に生徒指導を引き受けている訳ではない。
指定された第二体育館の一角。
剣道部、柔道部、そして奥に空手部の部活中、空手部顧問のゴリが隅の方でパイプ椅子に座り手招きをする。横断する途中に同級生からの野次を笑える気分には到底なれなかった。
組み手の脇を通り過ぎると梶原がいる事に気付いた。
ホンマに黒帯や。
酒井が言うてた事も嘘ちゃうかも。
「川本。お前よお来たなぁ。なんで呼ばれたか分かるか?」
分かってるっちゅーねん・・・。
「髪の毛の色、一人だけ明るいのぉ。」
「そうですか?」
「見てみぃ。みんな黒いやろ。お前のはなぁ、茶色や。」
「地毛です。」
立ち上がったゴリが俺の髪を摘みながらわざとらしく二階の窓から差す光に当ててみる。
その時。
「先生!梶原、足捻ったかもしれません。前川が無茶して、」
先輩らしき人物がゴリのそばに来て報告するのを聞き、思わず梶原に視線が移った。
その場を移動せずに梶原に顔だけ向けたゴリは
「向田、アイシングしてとりあえずテーピングしたれ。あとで見る。」
と俺に視線を戻すが、俺は俯きながら梶原から目が離せなかった。
「光に当たったらよぉ見えるぞ川本。」
「・・・・・・太陽で焼けたんちゃいますか?部活、外やし。」
いろんな音が混じったこの場所では数メートル先の梶原の声は聞き取れない。
体が温まっているせいか頬が少し上気し、色白な肌によく映える。練習で汗ばんだ髪が頬に張り付いて妙に色気を感じた。さっきの組み手で乱れた胸元はより一層白く、見えそうで見えないもどかしさが堪らなく欲をそそる。
そこに手を這わせて肌の感触を確かめてみたい。
脱がせてみたい。
その時あいつはどんな顔をするのかが、知りたい。
足を固定している最中苦痛に耐える表情が艶っぽく見えて、想像したらあかんと思うほどよからぬ感情が芽生え始める。
って、いやいやいやいや。
待て待て。
あいつ男やって。
・・・うせやん。
待て待て待て待て!今のん全部嘘や!
取り消し!!
・・・俺は何考えてんねん。
どこかおかしくなったのではないかと不安が掠めた瞬間、頭に衝撃が走る。
「!いっったーーーーーー!!」
気付けばゴリにゲンコツを受けていた。
「余所見すんな!話聞いてへんやろ!ホンマにぃ。」
「・・・うぇーい。」
気のせいや。
俺ホモちゃうし。たまたま。
せや、たまたまやねん・・・。
まだまだ続きそうな説教に辟易しながら、束の間俺の視界に入った梶原がこちらを見たような気がして体裁を繕ったが、その意味を追求してはいけないと有耶無耶にして放置する事に決めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
52 / 116