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春色ブラックコーヒー 3
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「遅い」
「ごめんごめん。本当は俺じゃなくて、涼りょうさんが来るはずだったんだよ。でも、どうしても手が離せないって言うからさ。せっかく遊んでるところだったのに、俺も迷惑してるんだよー」
ヘラっと馬鹿そうな笑みを浮かべて顔を上げた男が、ペラペラと饒舌に喋った。
お前の事情なんてどうでもいいから早く進めろよ。
反射的に睨めば、「おお怖い」と大仰に肩を竦めた。思ってねーだろそんなこと。その証拠に、奴は吹けば飛びそうな軽ーい笑顔のままだ。腹立つ。
「みんなお疲れ様。もういいよ」
男は俺の正面の椅子に腰を下ろし、両脇に立っていた男達に声を掛けた。その首元に緩くかかったネクタイの色は青だった。つまり、ニ年生だ。こんな奴が先輩とか最悪。
「あ、ああ。じゃあ、俺たちは、これで」
男達は今までの無表情が嘘だったかのように、薄っすらと頬を染めて、ボソボソと返しながら部屋を出て行く。
別に趣味嗜好は人それぞれだけど、お前ら趣味悪いね。こいつのどこがいいんだ。顔か?見ていると殴り飛ばしたくなる笑顔か?
出そうになる拳を抑えて男の顔を観察していると、目が合った。奴は甘く瞳を細めて笑う。
俺は仏頂面のまま机に頬杖をついた。
「……で、何の用ですか」
「何だか取って付けたような敬語だなぁ」
うるせぇよ。
それ以上は言及せず、奴は俺の表情を見て苦笑した。
「君が起こした騒動についてちょっと話が聞きたくてね。初めまして。俺は風紀副委員長の瀬良せらだ」
「…………」
「"何頭湧いたこと言ってんのこいつ"って思ったでしょ」
「いいえ。被害妄想では?」
「絶対違うよ。だって顔にモロに表れてるからね」
「すみません」
「棒読みだなー。確かに俺、風紀委員らしくないって言われることもあるけど、一応これでも副委員長なんだからね。仕事もちゃんとやっているし。今日は緊急だったから、いつもよりちょっと崩れてるけどさ」
「…………」
これでちょっとなのかよ。
へらりと笑ってベルトのバックルを付け始めた男に、俺はこの学園の風紀が心配になった。
いや、嘘。俺に被害がなければ風紀が悪かろうが良かろうがどうでもいいんだけど。
「君は幸村(ゆきむら)紫樹(しき)君だよね」
「そうですが」
何で知ってる、という文句がまたしても顔に表れていたのか、男が悪戯っぽく笑った。
「個人情報を管理しているのは生徒会だから、調べれば分かっちゃうんだよ」
個人情報漏洩してんじゃねえよ。
「君は今日、2-Bの鬼柳と騒動を起こしたらしいね」
「鬼柳?……ああ、あの目付きが悪い」
「ぶっ」
俺がここへ連れてこられた原因になった男か。呟くと、瀬良が吹き出した。
「目付きが悪いって……っくく、確かに、悪いけど!今度本人に言っておくよ」
「へえ」
「はー、笑った笑った。うん、それで何だっけ?」
「今朝、肩がぶつかって絡んできたんです」
「短気だからねー、あいつ。そんなことだろうとは思ったけどさ」
瀬良はそこで言葉を切って、笑みを浮かべたまま俺とじっと目を合わせた。
色の濃い、黒水晶のような漆黒。底なし沼みたいな、気味の悪い色である。まるで、全てを見透かすようなーー。
俺は何だか気分が悪くなって、目を逸らした。
「うちの風紀委員の子たちが数人病院送りになっていたのは?」
「正当防衛です」
「そっかー」
ガタガタ。椅子が後ろにひかれる。瀬良が立ち上がる気配がした。もっと厳重注意されると思っていたので、拍子抜けだ。
「君への質問は以上だ。沙汰は追って言い渡すよ。ちょっと遅れちゃったけど、今日はもう入学式に戻っていいよ」
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