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睡眠ライブ 3
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そうして動物園のパンダにでもなったような気分で飯を食って今日分かったのは、瀬良とはとことん合わないということだけだ。
まずこいつの高いテンションについて行けないし行く気もないし、こうなると分かっていて俺を連れてきた奴の神経を疑うし、何より俺は、いつの間にか相手のペースに呑まれることが死ぬほど嫌いである。
しかも奴は俺が何度言っても気持ち悪い笑顔で名前を呼んでくる。絶っっっっ対、わざとだ。
というわけでーー俺は寝たい。
俺は不機嫌である。寝不足だから苛々する。苛々するから寝て気持ちを鎮めたい。
そんな単純な話なのに、眠れない。
理由は簡単だ。周りが煩いから。
本当に最悪。全員消えてくんないかな。
俺の耳に声が届かないところまでどっか行って。金払ってもいいから。
そんな必死かつ謙虚な俺の願いが天に届いたのか、奴らはやがて机を蹴飛ばしながら立ち上がり、ぞろぞろと廊下へ進み始めた。
その振動で俺の机まで揺れたが、出て行ってくれるなら百歩譲って許す。来たれ、俺の安眠。
喧騒が徐々に遠ざかり、ようやくとろとろと微睡み始めた頃、しかしまたしても邪魔が現れた。
「やばいやばいやばいやばいやばい!すみません、遅れましっ……あれ?」
うるさい。全然遅れてねーから去れ。
「誰もいねぇ! 俺、もしかして余裕で間に合った?」
去れ。
「あれ?そこにいるのってもしかしてゆっ、」
これまた馬鹿でかい声で叫ぼうとした男が、至近距離でぱちりと瞬いた。
半分閉じかかった目をこじ開けて見ていれば、ぎょろりとした目をウロウロと彷徨わせ、頰を赤らめて「いや、俺、男はちょっと……」意味不明なことを抜かしている。
判決。俺は容赦しない。
「うぎょおっ?」
次の瞬間、奴は謎の奇声を発して宙を舞った。
掴んだ腕を支点に体を捻り、半周したところでぱっと手を離せば、窓ガラスにぶつかって転がり落ちていった。
犠牲になったガラスが甲高い音を立てて割れた。
幸い、ここは一階だ。
多少打ち所が悪くとも死にはしないだろう。感謝しろ。しかし俺の前には二度と現れるな。
今度こそ寝ようと席に着いたところでーー学校中に鳴り響くベル音。
二度あることは三度あると言う。だがしかし、三度目の正直とも言うだろ?
「一年Fクラス、幸村紫樹、西尾悠馬。今すぐ体育館に集まりなさい」
俺はもう一度椅子に座り直し、机に顔を伏せた。
今度こそ、寝る。必ず寝る。
「あー、ちなみに。五分以内に来ないと単位を落とすよ。これ、マジだから。冗談じゃないから。進級できないよー?じゃ」
ぶちっと放送が切れてすぐに、座ったまま、のそりと顔を上げた。
おそらく、今の俺は史上最低に死んだ顔をしているだろう。
この学校は、高校にしては珍しく単位制である。
単位はテストの点数、行事で獲得した点数などの合計で、一年間に100単位取らなければ進級できない。
教師の一存で単位の全てを強制消去されるのかどうかは疑問だが、それがもし事実だった場合、俺はこの学校を中退させられるだろう。
例え俺が今、立ったまま寝られるレベルで睡眠を欲していたとしても、それだけは避けたい。
俺は無言で立ち上がり、ゆっくりと歩を進めた。
ポケットに手を突っ込めば、硬くて丸いものに触れる。
ガタンと騒々しい音を立てて椅子が倒れたが、振り返らない。
廊下を出たところで、横から気味の悪い呻き声が聞こえたような気もしたが、それでも振り返らない。
代わりに、取り出した石を窓の外へ向けて投げつけた。
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