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誤算.4
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転校生が来てから僅か4日。
事態は急変していた。
ーーーーー
ーーーーーーあの日。
伸也の様子を見て少し興味を惹かれたのか、俺以外の生徒会役員は伸也と共に食堂に行き。
そうして、それぞれが何らかの形で転校生に、本格的に興味を持ち始めた。
それだけならべつに構わない。
色恋も交友関係も本人の自由。
俺が口を挟むべき問題でもなければ、挟む気もない。
見た目も、伸也の話からすると生意気だというその性格も、俺にとっては魅力なんてさらさら感じない。
けれど、転校生とまだ会ってもいない俺に、彼の価値を決める権利は無いし、価値観は人それぞれだ。
他の奴らのお眼鏡に叶うなにかをあいつは持っていたのだろう。
が、しかし。
しかしだ。
1日目、役員は仕事はしていた。一応。
これは勿論良い。
2日目、役員は生徒会室にはこず。机の上の書類だけがきえていた。
これも良い。
転機が訪れたのは、3日目だった。
最終下校時刻になっても、机の上には置きっ放しの書類。
無論、俺以外が生徒会室に足を踏み入れた形跡はない。
それでも、もう少ししてから取りに来るかもしれない。
そう期待して、後ろ髪をひかれながらも俺はそのまま生徒会室を後にした。
そして、4日目の今日。
時刻は6時すぎ。
最終下校時刻に迫ってもなお減っていない、それどころか寧ろ今日の分が追加された手付かずの書類。
相変わらず開けられた形跡のない生徒会室。
極めつけは。
ーーー生徒会室の窓から見える中庭。
顔もろくに見えないモジャモジャを取り囲む生徒会役員。
その表情は、どこか明るい。
あんなに毒気のない表情は始めて見た。
少なくとも、俺は。
「……………。"堕とし甲斐がある"、か」
無駄に良い視力で捉えられる伸也の表情。
ここにいるときの表情とも、外にいるときの表情とも、まるで違う。
あんな、年相応な表情もできるのか、
なんて呑気に考える。
「とてもそんな風に考えてるようには、見えないけどな」
転校生にはりつている会計。
なんの含みもなく笑う副会長。
いつもはクールで無口な書記は、転校生に穏やかに話しかけていた。
手元のスマホに目を落とす。
『転校生に夢中になるのは勝手だが、自分の仕事くらいちゃんとやれ。』
作成中のメール。
宛先は無論、役員だ。
…これを送れば、あいつらは仕事をするのだろうか。
送信ボタンを押すのを躊躇う。
そんな自分に、動揺した。
……躊躇う?何故?
義務は果たすためにある。
勝手に行動する前に、やるべきことはやらなければならない。そんなの当然のことだろ。
そもそもこれに向こうが応じなかったとして、此方に落ち度がないことに変わりはない。
生徒会役員として働くと決めたなら、どんな時も仕事はするべきだ。
理解できない自分の行動に、イライラした。
「……こんなの、俺らしくもねぇ」
"唯我独尊で、俺様で、不遜。"
そう言われる俺が、
役員の楽しそうな顔を見ただけで動揺するなんて。
関わるつもりもない、なんていいながら。
このたった数ヶ月の間に、俺はあいつらに絆されていたのだろうか。
……ここで繰り広げられたやり取りには、暖かさもなにもなかったのに?
ーーーーーあいつらは、俺が大嫌いなのに?
「チッ……」
グダグダと考え込むことも煩わしくて、焼けクソのように、送信ボタンを連打した。
そうすれば当然、メールは飛び出して行くわけで。
同時に中庭に響く、複数の着信音。
ちらりとそちらに目線を遣れば。
それぞれが、確かにスマホを取り出し、メールを確認しながら。
それでも誰一人として、その場から動きはしない。
何事もなかったかのように、スマホをしまい、話に興じている。
その一部始終を見届けた俺の頭上で、最終下校のチャイムが鳴り響く。
「……はぁ。帰るか。」
自分の机の上の書類を鞄にいれて。
ーーー少し躊躇ってから、他の役員の書類も鞄にいれて。
入りきらない分は手に抱えて。
人気のない廊下を1人、歩き出した。
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