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予想外の事態.3
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「あっ、すみません。自己紹介がまだでしたね。俺が、柴山奏で、こいつが」
「………光毅透」
「……知ってると思うが、椿屋響介だ。」
なんだか結局ずっと監視されてるみたいで気にくわないが、体育祭の準備も動き出していて、人が足りないのも事実。
なので、
「じゃあ、とりあえず、これとこれ、頼む」
と、頼んだのが、つい数十分前のこと。
そして、わかったのは、こいつらが想像以上に優秀だったということだ。
………早いな。
手元の書類を片付けながらも、2人の仕事を盗み見ていたわけだが。
2人とも、特に戸惑う様子もなく、スラスラと仕事をしている。
これは嬉しい誤算だ。
…この調子だと、こいつらが来てくれているあいだは、書類は間に合いそうだ。
そこで時計を見ると、昼休みが終わる10分前を指していた。
「おい、おまえら。もう教室帰っていいぞ」
俺も、暫く出席できていなかったこともあり、今日こそは出たい。
特に変なことを言ったつもりは毛頭ないが、2人はなんとも言えない顔をしていた。
………強いていうのであれば、怒り、か。
「………なんか言いてぇことでもあんのか?」
物言いたげでありながらなにも言わない2人に問い掛ければ、返されたのは、やはり怒りに強張った声。
「……本当、傲慢にもほどがあんだろ」
そして、その声をあげたのは、今までにあまり喋らなかった光毅だった。
「………あ?」
「いくら俺らの仕事が気に食わなかったとしても、ほんの数十分で、俺らをお払い箱にするなんて、何様のつもりだ?」
「おい、光毅。やめろって」
「うっせぇ、離せ!お前は腹立たねぇのかよ!」
怒りのあまりか、俺に摑みかかろうとする光毅を、 柴山が宥めるのを呆然と見つめた。
………………は?
気にくわない?
お払い箱…?
「なんだよそれ……」
思ったよりも力のない、途方に暮れた声がこぼれた。
目の前の2人がぎょっとした顔でこちらを見る。
「別に俺はおまえらの仕事ぶりに不満はねぇ。……むしろ期待以上だ」
ますます見開かれていく、2人の目。
いや、驚きたいのはこっちだ。
なんで、授業前に教室に帰れって言っただけでそんな話になんだよ。
「え、じゃあなんで、教室にかえれって……」
柴山が惚けたように呟く。
「……授業あんだろーが」
「えっ……じゃあ、ただ単に授業うけてこいっていう意味で…?」
「あぁ。普通そうだろ。むしろなんでそんな話になんだよ。」
ほんの数分のやりとりだったにもかかわらず、心底疲弊した。椅子の背もたれに体重を預けて2人を見れば、2人は気まずそうに目をそらす。
「はぁ……。まぁいい、とりあえず授業受けて来い。もうはじまんぞ」
「あっ、でも俺ら、授業中も仕事できますよ!委員長が、免除申請だしてくださってるんで…」
……あいつ、そこまでやってるのか…。
とことん見張る気でいるようだ。
「風紀委員がそこまでする必要ねぇだろ。そうでなくても、どうせ午後の授業中、俺はいねぇし、お前らも受けて来い」
するとまた目を見開く2人。
…どんだけ驚くんだよ。
今度は一体なにに驚いているのか。
「……会長って、授業うけるんですか?」
投げかけられたあまりにも当たり前の質問に、もはや溜息をつく気すら起きなかった。
「そりゃ、学生だからな」
「なんか、勝手に『授業なんてつまんねぇ』っていうタイプかと思ってました…。すみません」
「……いや、授業聞かなかったら、どうやって知識身につけんだよ…」
「………自分でやったほうが、早いとかいいそうなのに…」
……どんなイメージ持たれてんだよ。
本当に頭の痛い話だ。
「……てめぇらが俺にどんな印象もってんのかしらねぇけど、俺だって普通の学生なんだから、授業受けんだよ。ほら、時間ねぇから早くいくぞ」
そう促すと、ようやく2人は生徒会室から出た。
2人は1年生なので、生徒会室からだと、すすむ方向は真逆だ。
「じゃあ、またあとでな」
時計をみると、時刻は授業開始5分前。
ギリギリだし、急ごうと足を踏み出す瞬間、
「…………悪かった」
微かに聞こえた、小さな謝罪の言葉。
驚き振り返るも、すでに光毅の背中は随分遠くにあった。
…あしはえぇな。
すると、クスクス笑う声。
「あはは。恥ずかしかったんでしょうね。態度悪いけど、悪いやつではないんですよ。
……それから、俺もすみませんでした。」
そう言って、深々と頭をさげる柴山。
そして、
「これから、よろしくお願いしますね、椿屋会長」
そう言って、ニッコリ笑うと、パタパタと光毅の後を追いかけていった。
ーーーーその笑顔は最初に見た時よりもずっと、柔らかいものだった、気がした。
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