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予想外の事態.4
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ーーーー放課後。
生徒会室へ向けて足早に歩いていると、担任に声をかけられた。
「あ、椿屋」
「なんでしょう」
「いや、そろそろ体育祭の委員会議の時期だからな。
忙しいとこわるいんだけど、これ、よろしく頼むわ」
それだけ言って、パタパタと去って行ってしまった。
歩きながら、手元に残されたプリントを見る。
………体育祭会議か。
こういった、会議は大体各組織の長と副長が参加するのが通例なのだが。
ーーーーー『いいじゃない』
最後にそういったあいつの、冷え切った表情を思い出す。
……あいつは、どうするつもりなんだろうか。
あれから、会話をしていないのはもちろんのこと、姿さえ見ていない。
当面の書類は風紀委員の2人のおかげで大丈夫だとしても。
「問題は山積み、ってことだな……」
ため息をひとつ吐いて、生徒会室のドアを開けた。
「あ、おかえりなさい」
「………」
と、2人の姿。
……おかえり、だなんて一体何年振りに聞いただろうか。
「……あぁ」
なんともいえず、気恥ずかしくて、2人の表情は見れなかった。
そのままそそくさと席につき、プリントを机に置く。
柴山は興味深そうにのぞいてきた。
「体育祭会議、ですか……」
確かに、体育祭近いですもんね。その関連の書類も多いし。
と、呟く。
「楽しみですね」
ニコニコ笑いながら、柴山は続けた。
書類をさばく手は止まっていないのが、またすごいところだ。
「俺、種目はリレーばっかなんですけどね」
「あぁ、確かにお前足速そうだな」
「まぁ、これでも中学の時はサッカー部のエースだったんで。でも、光毅も運動できるんですよ、なぁ?」
「…べつに」
「…光毅も中学の時、何かやってたのか?」
そう聞くと、光毅は僅かに目を見開いた。
「……なんもやってねぇよ。
……ぉ………は?」
「あ?」
「だから、椿屋はなんかやってたのかって聞いてんだよ!」
おい、先輩のこと呼び捨てかよ、と思わなくはないが。
……まぁ、これまでもタメ口だったし、今更か。
ふいっと横を向く横顔からのぞく耳が微かに赤いし、許してやることにする。
柴山はニヤニヤと光毅を眺めていた。
「中学は……途中まで、バスケやってたな」
「え?!バスケですか!会長が……」
チームプレイ、できたんですね……と、唖然と呟く。
「柴山、お前なぁ…」
にこやかながらなかなか見ない慇懃無礼さに、かえって尊敬の念すら抱く。
本当に可愛げのない後輩だ。
そんなふうに、どうでも良い会話を繰り広げていると、あっという間に今日の仕事は幕を閉じた。
ーーー部活の話、なんてしたのはいつぶりか。
少なくとも高校に入ってからはしていない。
生徒会では言うまでもないが。
……そういえば、あいつらは何かやっていたのだろうか。
修は変わらず剣道をしていそうだが、他のメンツは想像もつかない。
まぁ、生徒会室にいる間は、嫌味の応酬くらいでしか会話してなかったし、当然か。
そう思って、考えを打ち切ろうとした脳裏に、ふと転校生の言葉が蘇った。
ーーーー『そうやって、人を突き放してばかりいるから、ひとりぼっちになるんだぞ!!!』
「………突き放す、な」
近づく必要がない。必要以上に近付きたくない。
ただそう考えているだけ。
けれど考えてみれば、近付けないことと突き放すことはある種同義なのかもしれない。
自分ではそんなつもりはない。
が、
今日の光毅の怒声を思い出す。
自分が何の気無しに出した言葉が、あんなにも他人の激情を煽ったのだ。
だから、ふと思った。
ーーーーもしかしたら。
もしかしたら、あいつらは。
…おれのせいで、「おい」
「!?!」
バッと声をした方を見ると、武川が壁に寄りかかっていた。思考に耽りすぎて気付かないなんて、注意力散漫もいいところだ。
「……ずいぶんと遅くまで仕事してるみたいだな?」
「誰かさんがバイト休ませるから暇で仕方ねぇんだよ」
理不尽で無意味と分かりながらも毒を吐けば、武川は軽く眉を寄せた。
「そりゃ、暇を作って体を休ませるためにやってるからな。そのぶん生徒会の仕事してるんじゃ、意味ないだろうが。わかってんのか、お前」
そう言ってため息をつきながらも、隣に並んで歩き出す。
怒れば良いのに、ただただ諭す様に言われ、気まずさが募る。
「……なんでお前がここにいんだよ」
耐えきれずあからさまに会話を逸らせば、武川は呆れた様に肩を竦めながらも、それに応じた。
「お前が勝手に自分の部屋に帰らないように、見張り」
「……はぁ。帰らねぇっつぅの。つーか、お前、何勝手に風紀委員寄越してんだよ」
「あんな量1人でやって、今度こそ死なれちゃ困るからな。それに、お前はどうせ事前に言ったら突っぱねるしな。
……で?」
分かった様に吐かれた言葉は、思いの外図星でやりにくいことこの上ない。
「あ?」
「あの2人はどうだ?」
そしてまた、分かっているだろうに敢えて聞いてくるニヤけ面が気に食わない。
それでも、あいつらに助けられたことは否定のしようもなく。
「…………まぁ、お前の5倍は有能なんじゃねぇの」
「……ふっ、それはそれは。優秀な後輩をもてて幸運な限りだ」
なんだか変な気分だった。
どうでも良いことを喋りながら、書類をさばくのも。
同級生とこんなふうに普通に会話をするのも。
こんなこと、もうないだろうと思っていたのに。
そうこう話しているうちに、武川の部屋に着く。
武川は、ドアを開け、こちらを見ると
「おかえり」
と、笑ってそう言った。
…風紀委員は、どいつもこいつも対応に困ることばっかしやがって…
……だいたい、なんだよそれ、
ここはお前の部屋であって、俺の部屋じゃねぇっつーの
だから、
「……ただいま。」
この返事に満足そうに笑う武川に
「………あと、おかえり」
そう言ってやる。
すると、武川は虚を突かれた顔をしてから、
頰をわずかに赤く染めた。
「あ、あぁ…ただいま」
ーーーーてめぇも、このいたたまれなさ味わいやがれ。
ーーーーーー
▼会長 の 不意打ち攻撃 だ!
▼武川 に 10000 の ダメージ!
▽会長 は 武川 に しょうり した!
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