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カイコウ.1(side.野上)
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ーーーームシャクシャしていた。
この学園に入る前からずっと。
『いいか、うまくやれよ。野上の名に、泥を塗るようなことがあれば、わかっているな』
『…はい。最善を尽くせるよう、精進いたします』
昔から、上に媚びへつらい、下を足蹴にする、権力者の権化のような父が嫌いだった。
……ばっかみてぇ。
子供の行動ひとつで傷がついて、揺らぐような会社なら、存在価値もねぇっつーの。
そう思うのに、何も言えない自分も。
中等部から、この学園に入って。
お約束のように、親の望むままに生きていく。
だって、所詮、自分は代わりのある駒にすぎない。
うまくいかなければ、さっさと捨てられて、おわり。
幸いにも、顔だけは上品な面構えをしていたから、それらしく振舞っていれば、どこにいようと、特に困ることはなかった。
ニコニコニコニコ。
表情筋が引きつりそうなくらいに笑って、反吐が出そうな、お綺麗な言葉だけを吐いて生きていく。
本当の俺とは正反対な、"野上伸也"として。
けど、この学園にいれば、そんなことは別に珍しくもない。
数えきれない奴が、心ない、下手くそな作り笑顔で生きている。
……気持ち悪い世界だ。
そして、この狭い世界でものをいうのは、
能力と。
血筋と。
見栄えと。
それから、権力。
清々しいほどの実力主義。
その中で、俺は5本の指に入る程度の地位にはいられたし、特に不自由はなかった。
だけど、それでも息が詰まって、全てが面倒で。
全てをぶちまけたい衝動に駆られることは、一度や二度ではなかったのも、事実。
ーーーーそして、俺はある日から、学園を抜け出して、不良の真似事をするようになった。
別に、その日に何があったわけでもない。
ただ、気が向いたから、行ってみただけ。
そして、流れで"族"なんてものをつくって、頭を張って。
仲間と群れて敵を潰すことで、何か大きなことをした気になる。
それは、確かな快感だった。
なんてことはない。
ただのガキ同士の喧嘩。
何を成したわけでもない。褒められたことをしているわけでもない。
けれど、自分で考えて、指示して、動いて。
そんな単純なことで、自分が操り人形ではなくなる気がした。
ーーーーそうして、クズ同士で集まって、騒ぎてるようになって、1年がたった。
俺の族は、その界隈ではちょっと有名になっていて。
いい気になった俺は、自分がとても凄い奴にでもなった気分でいて、のぼせ上がっていた。
そんなある日。
1人で街を歩いていると、丁度同じくらいの年の男が2人、向こうから歩いていた。
「しっかしさぁ、おまえ、よくやるよなぁ。バスケ部の部長に、生徒会長に、全国模試上位ってさぁ。ほんと、漫画の主人公かよ。しんどくねぇの?」
そのセリフに、ふと興味を引かれて、うつ向けていた顔を上げる。
「……!」
そして、息を呑んだ。
王者。
そうとしか言いようがない。
バカみたいな表現。
けれど、一目見ただけでそう思うほどのオーラを、その男は纏っていた。
格が違う、なんて、そんな感情を初めて同年代に対して抱いた。
けれど、そんなオーラに反して、その男は投げやりに答える。
「1日は24時間なんだから、多いことやってりゃしんどいに決まってんだろ」
くだんねぇこときくんじゃねぇよ、とめんどくさそうに隣の男を小突く。
「ははっ、わるいわるい。そりゃそうだよなぁ。響介だって、人間だもんなぁ」
「何当たり前のこと言ってんだよ、キメェ」
「はっ、ひっど!!でもさ、じゃあ、なんでお前そんな頑張れんの?俺もう無理!俺は期末試験だけでも心が折れそうなのに!!!!」
「ハッ、そりゃテメェの自業自得だろうが、授業きかねぇからだ、バカ。……はぁ。にしても、ほんと、今日はくだんねぇことばっか聞いてくんな……」
「響介のモチベーションの在り方を聞いたら俺も期末試験乗り切れるかなって…」
「いや、無理だろ」
「そんなこといわずに〜!!!」
何気ない風を装いながらも、その、"キョウスケ"とやらの話に耳を傾けている自分がいた。
「…はぁ。…自分で決めたから。周りが俺にどう働きかけてようと、結局俺のしてることは、俺が選んだことだ。だから、やるしかないしやる。……そんだけだ」
「うぅっわぁ〜〜〜もー、響介おまえ、イケメンすぎか!!!このこの!!!ってことで、その勢いで勉強教えて!!母さんに殺される!!!」
「断る。からみつくな」
その2人は、俺のことなんて気にも止めずに、俺のすぐ横を通り過ぎていく。
その2人とすれ違った後、俺は1人道端に立ち尽くしていた。
……わかっていた。
"強制された"なんていうのは、体のいい逃げ文句なわけで。
そう、つまり、選んだのは自分なわけで。
結局、楽な道に流れたのは、自分自身なのだ。
「………ほんと、つまんねぇやつ」
馬鹿馬鹿しい。
周りに流されて、被害者ぶって。
そして、どんなに不良ぶって、悪あがきしてみたところで、俺はきっと、それをやめられない。
あんなに迷いなく、全てを自分の決断だといい放てる"キョウスケ"とやらが、羨ましくてしょうがなかった。
なんだか遣る瀬無い気持ちになって、俺はその日から街に出るのを辞めた。
そして、そんな記憶すら色褪せかけた頃。
高等部に上がった俺の前に。
『編入生の、椿屋響介だ。』
ーーーーお前は、もう一度現れた。
ーーーーーーーーー
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
このように拙い小説に、沢山のアクセス・お気に入り・しおり・いいねをしてくださって、ありがとうございます(/ _ ; )
こんなにたくさんの方に興味を持っていただけるとは、想像もしていなかったので、とても嬉しいです。
明日から、更新ペースが落ちるかと思いますが、お暇なときにでもお付き合いいただければ幸いです。
2018.1.8
佐久田
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