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兆し.1
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別れには、目印があるものだと、思い込んでいた。
予告があって、心の準備もあって。
そうして、"別れの挨拶"でしめくくられるものだと、そう、思っていた。
そんなわけもないのに。
確約された明日など、ありはしないのに。
それでも俺は。
もし辛い別れが、あったとして。
それが、無慈悲に襲いかかってくることがあったとしても。
その前には必ず、
「さようなら」があって、「ありがとう」といえるものだと。
愚かにも、そう、信じきっていた。
ーーーーーーー
「あーーー、クッソ。手首いてぇっつぅの」
そう言って、手首をプラプラさせる伸也。
文句を言いつつも、仕事はキッチリすすんでいるあたりは、流石と言うべきか。
「それにしても、すごい猫かぶりですよね」
にこやかにそういう柴山は、口ではそう言うものの、最初の対面から今に至るまで、一度も驚く素振りを見せていない。
一体何をどこまで知っているのか。
……空恐ろしい奴だ。
「猫っつーより、虎被ってんだろあれ……」
呆れたにそういう光毅は、このごろ少し口数が増えてきたように思う。
「うっせぇ。あんな絵に描いたような優等生、今時いるわけねーだろ」
信じる方が悪い。
そう言い切る伸也は、どこか吹っ切れたように見えて。
わいわい3人で盛り上がっているところをみていると、なんだか懐かしいような、そんな気持ちになった。
こんな"お上品"な学校でも、学生は学生なんだなと、今更ながらにそう思う。
「にしても、こんな膨大な書類、1人で回してたとかほんとに会長、人間じゃありませんよね……」
柴山が書類の山をつんつんつつきながら、そうこぼした。
とたんに、伸也はバツが悪そうに、視線をそらす。
もう気にしてねぇっつぅの。
「……慣れてるってだけだ。大体お前らだって処理はえぇだろ」
現に、喋りながらも、誰1人としてその手は止まっていなかった。
「いや、会長に言われても信憑性ありませんよ……。
慣れてる、ですか?」
「…………中学の時も、生徒会長してたことがあったからな」
「へぇぇ、流石ですね…」
「あと、悪りぃけど、俺は今日から、最終下校時刻に帰らせてもらう。終わってねぇ書類は持って帰ってからやる」
「……なんか、用事か」
事情を話してしまった伸也はともかく、2人には反感を買われても仕方ないかと思っていたのに。
投げかけられたのは、なんの含みもない純粋な疑問で。
「…………バイト」
気付けば馬鹿正直にそう答えてしまっていた。
「え?」「は?」
2人のそんな声で、ふと我にかえる。
何故。
自分でも理解できず、暫し呆然とした。
いや、べつによかったのか?
でも、はぐらかせただろ?
……前だったら、確実にはぐらかして、いたはずで。
「え?会長がバイト?え?は?」
珍しく柴山が、混乱している。
けれどそれ以上に、自分が混乱していた。
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